日経平均株価は値がさ株の影響を受けやすい指数

前回、日経平均株価のメカニズムを解説しました。日経平均株価は東証1部上場の全銘柄のうちの225銘柄のみの動きを示すもので、かつ単純平均の方法で計算されているため、一部の値がさ株の値動きの影響を大きく受けるという特徴がある、というものでした。
そのため、多くの銘柄の株価が下落基調にあるなか、一部の値がさ株のみが堅調な値動きになると、日経平均株価と一部値がさ株だけが妙に強いといった現象が起こることになります(2000年ごろのITバブル相場や今年7月以降の日本株はまさにそのケース)。

日経平均株価より日本株全体の値動きを正確に表している指数とは?

では、日本株全体の値動きを日経平均株価より正確に表す株価指数は何か、といえば、日経平均株価と並ぶ代表的な株価指数である「TOPIX(トピックス、東証株価指数)」があります。
今年7月中旬以降の日経平均株価とTOPIXの動きを比較してみてください。日経平均株価が高値圏で頑強な動きを見せているのに対し、TOPIXの方は上昇時の反発力も弱く、明らかに日経平均株価より弱い動きをしているのが分かります(ご自身で日経平均株価とTOPIXの株価チャートを楽天証券マーケットスピードでご確認ください)。

多くの個人投資家としては、日経平均株価よりTOPIXの値動きの方が実感に近いものがあるでしょう。これは、TOPIXの計算方法に理由があります。
TOPIXの計算方法には、日経平均株価と異なる以下の2つの特徴があります。

  1. 対象となる銘柄が東証1部の全銘柄である
    日経平均株価は225銘柄が算出対象ですが、TOPIXは、東証1部の全ての銘柄が算出対象です。その分、相場全体の動きを反映しやすいといえます。
  2. 浮動株の時価総額に応じた加重平均で計算される
    日経平均株価は単純平均で計算するため、株価水準の高い銘柄(値がさ株)の値動きに大きく影響を受けますが、TOPIXは浮動株の時価総額の加重平均で計算しますから、浮動株の時価総額の大きい銘柄(大手銀行株など)の値動きに大きく影響を受けることになります。

TOPIXより日経平均株価が強ければ上昇する「NT倍率」

例えば相場全体が上昇基調にあり、どの銘柄も上昇するようないわゆる「株価底上げ」の局面では、日経平均株価もTOPIXも個別銘柄も同じように上昇します。
しかし、上昇相場でも常にどの銘柄も上昇するわけではなく、一部の銘柄しか上昇しない上昇相場もあります。今年の7月以降の日本株はまさにこの状況で、日経平均株価に採用された値がさ株を中心とした一握りの銘柄だけが堅調に推移し、大手銀行株や中低位株など多くの銘柄の株価は調整局面が続いています。

このように、上昇相場といってもその中身は様々で、その時々のテーマなどに応じて特定の業種・銘柄だけが大きく上昇し、その他の銘柄は上昇力が乏しかったり、逆に下落してしまうこともよくあります。

こうした市場のトレンドを測るときに利用される指標として「NT倍率」というものがあります。「N」は日経平均株価、「T」はTOPIXのことで、日経平均株価がTOPIXの何倍であるかを表したものがNT倍率です。

日経平均株価 / TOPIX=NT倍率

このNT倍率が上昇する局面では日経平均株価の方がTOPIXより上昇率が大きい(あるいは下落率が小さい)ことを示します。よって、上昇相場の場合は日経平均株価に大きな影響を与える値がさハイテク株がより強い値動きをしていることを表し、下降相場の場合はTOPIXに大きな影響を与える銀行株などがより弱い値動きをしていることを表します。
逆に、NT倍率下落の局面では、TOPIXの方が日経平均株価より上昇率が大きい(あるいは下落率が小さい)ことになりますから、上記の逆の現象が起きていることが分かります。

「NT倍率」をみればハイテク株・内需株どちらが優位か分かる

こうした観点から日本の株式市場を俯瞰すると、今年の3月以降の株価反発局面ではNT倍率が一貫して上昇していることが分かります。個人的には「NT倍率バブル」とでも名付けたいくらいです。過去の水準と比較すると、NT倍率はかなりの高水準に達しています。NT倍率の上昇がどこまで続くか分かりませんが、そろそろ反転下落も考慮にいれた投資行動も必要と筆者は感じます。

ハイテク株と銀行株・内需関連株は逆相関の動きをみせることがよくあります。そして、日経平均株価は値がさハイテク株の影響を大きく受け、TOPIXは大手銀行株はじめ内需関連株の時価総額上位銘柄の影響を大きく受けます。したがって、NT倍率の動きをみておけば、今はハイテク株が優位(=NT倍率上昇局面)なのか、内需関連株が優位(=NT倍率下落局面)なのかが分かります。

最も注目すべきは、横ばいだったNT倍率が上下どちらかの方向に動き始めたり、下落を続けていたNT倍率が反転上昇したり、上昇を続けていたNT倍率が反転下落したりするときです。このとき、株式市場での物色対象が大きく変化することが多いですから、それを早めに感じ取り、株価が大きく動いている銘柄からその時々の株式市場でのテーマを予想して、銘柄選択の参考にしましょう。

個別銘柄は指数と異なる値動きになることも多い

なお、TOPIXは日経平均株価より市場全体の値動きを反映しやすいといっても、その計算方法から、時価総額の大きい銘柄の影響を大きく受けます。
したがって、日経平均株価に採用されず、時価総額も大きくない銘柄が、日経平均株価やTOPIXと全く異なる値動きになることもあります。また、日経平均株価やTOPIXは東証1部の銘柄しか対象にしていませんから、東証2部の銘柄や大証、新興市場の銘柄などの動きは日経平均株価やTOPIXをみていても分かりません。特に、新興市場銘柄は東証1部銘柄と異なる動きをすることが多いので要注意です。
結局は、日経平均株価やTOPIXといった株価指数だけみるのではなく、常に自分の持ち株や気になる銘柄の値動きをチェックしておき、買いどき、売りどきのタイミングを見逃さない(特に自分の持ち株の売りどきや損切りのタイミング)ことが重要です。
また、銘柄により日経平均株価やTOPIXとの連動性が高いものとそうでないものがあります。過去のチャートからそうした銘柄の「クセ」を探ることも大いに参考になります。