米国のインフレは、エネルギーショックだけでは説明できない厄介な問題が発生しているようです。米連邦準備制度理事会(FRB)の年内利下げ期待は後退を続け、一部では利上げ再開の予想さえも浮上しています。ドル円のトレンドを左右する日米金利差が再拡大に向かうならば、円安は止まることなく、1ドル=160円さえ単なる通過点になるでしょう。

1.米4月CPI:二重構造の上昇リスク
米イラン紛争が長期化する中で、世界の原油供給の約20%が通過するホルムズ海峡は事実上封鎖状態となり、エネルギーショックが発生しました。米国のガソリン価格は2カ月で+28%、4月単月でも+5%超と急騰しました。表は、米イラン紛争の影響でガソリン価格が急騰していることを示しています。これが消費者物価指数(CPI)上昇の主因となりました。

米国の4月CPIによると、インフレは前年比で+3.8%と、2023年以来の高水準を記録しました。高くなったのはエネルギー価格にとどまらず、肥料不足の不安から食料品も約4年ぶりの上昇率となっています。
トランプ大統領は、「心配ない、イラン戦争が終結すれば、原油価格は大幅に下がる」とうそぶいていますが、国際エネルギー機関(IEA)の予測では、たとえ戦争が6月に終結しても供給不足は年末まで続くということです。
しかし、米インフレで問題なのは原油以外の価格が上昇している点です。エネルギーや食料品を除いたコアCPIは、前年比2.8%と予想を上回る伸びとなりました。
住居費、サービス価格、一部の財価格などが同時に上昇しているためであり、原油価格が落ち着いても、インフレは簡単には下がらない構造が見えています。円グラフが示すように、米国のインフレ構造はエネルギーだけでなく住居費やサービスの寄与も大きく、インフレのしつこさが明らかです。

2.FRBはどうする?利下げ期待は後退、利上げリスクが浮上
FRBの「6月利下げ」については、市場はもともと諦めていましたが、今回のCPIを受けて状況はさらに変わり、「年内利下げなし」がメインシナリオに近づいています。
G10諸国のほとんどの中央銀行が、日本銀行を含めて利上げに向けて動く中で、FRBだけは依然として利下げ寄りの据え置き姿勢を維持しています。とはいえ、エネルギーショックが深刻化して物価上昇が広範囲に波及するようであれば、FRBも穏やかではいられません。「利上げ」も視野に入ってくるでしょう。
そうなれば、日銀が利上げしたとしても日米金利差は縮まらず、むしろ拡大するリスクがあります。その結果「ファンダメンタルズ(基礎的条件)に沿った円売り」圧力が強まる展開が想定されます。
表はFRB政策シナリオとドル円レンジをまとめたものです。エネルギーショックを発端とするインフレは一過性なのか、あるいは長期間持続するのかはFRBもまだ判断できないようです。ドル円に関しては、日米金利差と原油価格の高止まりで円安方向に傾きやすくなっています。

3.CPI上昇=家計が苦しい、は本当に正しい?
米イラン戦争の早期解決が期待できない中で、世界的なインフレは今後も上昇するリスクがあります。しかし、CPIの上昇がそのまま家計の消費力低下を意味するのでしょうか?
物価高で生活はどんどん苦しくなっているというニュースが伝えられる一方で、2026年GWの海外旅行者数は前年比約9%も増えています。これは、CPIが示す平均的な物価上昇と、実際の消費者の購買力が必ずしも一致しないことを示しています。
CPIに限らず経済データは、「消費者は自動的に同じ商品を使い続ける」と考えます。例えば、携帯電話会社は変えない、料金も同じという前提で計算されます。
しかし現実には、消費者は大手キャリアからサブブランドへ乗り換えるなどの節約行動を通じて実質的な購買力を維持しています。ある商品を購入するときの賢い節約が、他の商品への支出に充てる現金を生み出す効果を生むため、消費者の実質的な購買力は、公式の統計データよりも強さを維持しているのです。
とはいえ、商品を「グレードダウン」する代償として、得られる価値(クオリティー)の低下は避けられません。海外旅行でレストランの外食の代わりにレトルト食品で済ませば支出は減るかもしれませんが、満足度は下がってしまいます。
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