持ち直しの動きを見せている今週の米国株市場
今週の米国株市場は、これまでのところ持ち直す動きを見せています。12日(水)の取引では、ダウ工業株30種平均が最高値を更新するなど、波乱含みだった先週の値動きが落ち着きを見せつつあります。
<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年11月12日時点)
こうした米国株市場の持ち直しの背景には、先週の波乱相場の原因となったAI・半導体関連銘柄の売りがひとまず落ち着きを見せていることや、米国議会で「つなぎ予算」が成立する見込みとなり、最長期間となっていた政府機関の一部閉鎖(シャットダウン)が解除される期待が高まったこと、そして、AI・半導体関連銘柄以外の銘柄が物色されたことの三つが挙げられます。
ただ、足元の米国株市場を支えているこの三つの材料は、相場の影を落としかねない要因もはらんでいます。
AI相場の揺らぎはまだ終わらない
まず、一つめの影は「AI相場」そのものへの懐疑論です。
前回のレポートでも指摘した通り、先週のAI相場に揺らぎをもたらしたのは、好決算にもかかわらず、株価下落で反応したパランティア・テクノロジーズ(PLTR)など、AI・半導体関連銘柄の割高感の意識が高まったことや、米大手金融機関(モルガン・スタンレー(MS)やゴールドマン・サックス・グループ(GS))の幹部がAI相場に対する懸念について発言したこと、そして、空売りで有名な米著名投資家(マイケル・バリー氏)が、エヌビディア(NVDA)およびパランティア・テクノロジーズ株を大規模に空売りしていることが判明し、売りにつながったことなどが挙げられます。
2025年11月7日:AI相場は「まだ終わらない」?芽生え始めた視点の変化に注意(土信田雅之)
今週も、クラウドサービス企業の米コアウィーブ(CRWV)が発表した決算では、好調な売上に反して供給網の遅延懸念や多額の借り入れによるキャッシュ減少の方を嫌気して、株価が急落する動きを見せています。
こうした動きは、仮にAIへの投資や需要が「本物」であったとしても、市場が期待先行の段階から、業績としてしっかり結果を出すことを求め始めている段階に移行しつつあるためと思われます。
<図2>米コア・ウィーブ(日足)とMACDの動き(2025年11月12日時点)
また、マイケル・バリー氏の影響もAI相場に冷や水を浴びせています。
空売りポジションが判明しただけでなく、バリー氏は大手テック企業がAIサーバーの「減価償却(耐用年数)」を不自然に長く設定し、会計上の利益を「合法的」に水増ししている可能性を強く指摘しており、11月25日(火)にその詳細を公開すると予告しています。
そのため、来週19日(水)に予定されているエヌビディア決算と同様に、バリー氏による25日(火)の続報の内容によっては、AI・半導体関連銘柄が再び荒れる展開を迎えるかもしれません。
「ローテーション」はどこまで相場を支えるか?
次に、二つ目の影は「ローテーション」の持続性です。今のところ、 AI株から逃避した資金が他の業種や銘柄に向かい、NYダウが最高値を更新する場面を見せるなど、資金が株式市場内で循環している格好となっています。
実際に、NYダウの値動きを日足チャートで確認すると、先週末7日(金)を底に、今週は上昇基調が続いていることが分かります。
<図3>米NYダウ(日足)の動き(2025年11月12日時点)
また、NYダウ構成銘柄における、先週末7日(金)から12日(水)までの騰落率の上位銘柄は下記のようになっています(下表)。
NYダウ銘柄の上昇率上位銘柄(2025年11月7日~12日)
| 順位 | コード | 銘柄名 | 株価 11/12 (ドル) |
株価 11/7 (ドル) |
上昇幅 (ドル) |
上昇率 (%) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | GS | ゴールドマン・サックス・グループ | 838.97 | 786.34 | 52.63 | 6.69 |
| 2 | MRK | メルク | 91.45 | 86.28 | 5.17 | 5.99 |
| 3 | DIS | ウォルト・ディズニー | 116.65 | 110.74 | 5.91 | 5.34 |
| 4 | NKE | ナイキ | 64.20 | 61.09 | 3.11 | 5.09 |
| 5 | AMGN | アムジェン | 336.28 | 320.20 | 16.08 | 5.02 |
| 6 | UNH | ユナイテッドヘルス・グループ | 339.06 | 324.21 | 14.85 | 4.58 |
| 7 | JNJ | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 194.39 | 186.57 | 7.82 | 4.19 |
| 8 | CSCO | シスコシステムズ | 73.96 | 71.07 | 2.89 | 4.07 |
| 9 | HON | ハネウェル・インターナショナル | 201.59 | 194.07 | 7.52 | 3.87 |
| 10 | MMM | スリーエム | 171.08 | 164.84 | 6.24 | 3.79 |
| 出所:MARKETSPEED IIデータを基に作成 | ||||||
金融株やヘルスケアをはじめ、製薬やバリュー株、高配当株などが買われていたことが分かります。
NYダウは日経平均株価と同様に、株価の高い値がさ株の影響を受けるため、株価が800ドルを超えているゴールドマン・サックスの上昇が大きく寄与しています。ちなみに、12日(水)の取引では、「補完的レバレッジ比率(SLR)」の見直しといった、米トランプ政権による金融規制緩和への思惑も、金融株の追い風になっているもようです。
金融株の上昇基調はまだしばらく続くかもしれませんが、それ以外の業種や銘柄だけで巨大なAI・半導体関連銘柄の足踏みをカバーし続けるのは限界があると思われ、一巡後の相場転換には注意しておく必要があります。
水面下の隠れたリスクへの警戒
そして、最後の第三の影は、水面下で広がっているかもしれない「隠れた信用リスク」です。
具体的には、「プライベート・クレジット(銀行以外の融資)」をめぐる不安が高まりつつあります。例えば、今週11日(火)に、ブラックロックの子会社が、融資先である米国のホームセンター企業「Renovo Home Partners」の経営破綻を受けて、同社への貸付金の評価額をゼロに引き下げる(全額評価損処理する)と発表しました。
プライベート・クレジットとは、銀行以外の金融機関が企業に対して行う、非公開の融資を指します。
2008年のリーマン・ショック以降、銀行に対する規制(自己資本比率の強化など)が厳しくなり、銀行が中堅企業やリスクの高い企業への融資に慎重になったことで、その受け皿として、資産運用会社やプライベート・エクイティ・ファンド、年金基金などが直接企業に資金を貸し出す動きが急速に拡大しました。
こうした経緯もあって、プライベート・クレジットは通常の銀行融資と比べて「高リスク・高リターン」であり、市場規模は数兆ドル(数千兆円)規模に達していると推定されています。
今回の貸付額はブラックロックの運用総資産と比べて微々たるものですが、国際通貨基金(IMF)や各国の金融規制当局(米SEC、豪ASICなど)は、プライベート・クレジットについて懸念姿勢を示していることもあり、今後もプライベート・クレジットをめぐる問題が続いたり、監視や規制が強化されるような動きになった場合には、市場規模が小さくはないこともあり、金融市場に対してネガティブに働く可能性は高いといえます。
このほか、ようやく解除の見通しとなった米政府機関の閉鎖は、経済活動を停滞させただけでなく、雇用統計などの重要指標の発表を遅らせ、市場の「視界」を奪ってきました。
政府機関の再開後は経済指標の公表が進むと思われますが、民間の統計指標とのギャップが生じているのかなどが注目され、12月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利下げに向けた思惑が働きやすくなりそうです。
また、米トランプ政権が掲げた「製造業の国内回帰」といった政策も、政治の混乱の中で目に見える成果を上げておらず、実体経済の基盤は投資家の期待ほど強固ではありません。
そのため、目先の米国株市場は、リスクを冷静に点検しつつ、落ち着きどころの良い株価水準を探っていくことになりそうです。
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