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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
金(ゴールド)相場「3,000ドル」は通過点

金(ゴールド)相場「3,000ドル」到達

 各種メディアで「3,000ドル到達」の文字が躍ったのは、日本時間3月14日の早朝でした。13日の米国時間の取引で、ニューヨークの金(ゴールド)先物価格が1トロイオンスあたり3,000ドルを超えました。史上初の出来事でした。

図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年~)

海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年~)
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータをもとに筆者作成

 上のグラフのとおり、国内外の金(ゴールド)価格は、大変な急騰状態にあります。こうした急騰状態にあってなお、3,000ドルという新しい節目に到達しました。

 3,000ドル到達を、関税引き上げ合戦や中東地域での混乱を引き起こすトランプ氏の政策への不安、ドル覇権の崩壊危機などがもたらす「有事ムード」が大きくなっているから、という趣旨で説明するコメントが多い印象を受けます。実際はどうだったのでしょうか。

 以下のグラフは、3,000ドル到達直前・直後の値動きを示しています。3月11日ごろまでは2,900ドル台前後で、やや頭打ち感がある状態で推移していました。しかし、13日に騰勢を強め始め、14日にはさらに勢いを増し、その流れで3,000ドルに達しました。

図:NY金(ゴールド)先物価格の推移(1時間足終値) 単位:ドル/トロイオンス

NY金(ゴールド)先物価格の推移(1時間足終値) 単位:ドル/トロイオンス
出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 3月12日から14日のたった三日間で、最大約100ドルもの上昇が見られました。3,000ドル到達の直接的なきっかけは、この間に発表された米国の複数の物価関連指標と景況感を示す経済指標が弱かったこと、と考えるのが自然でしょう。

「ドル覇権の崩壊危機」については、時間軸が超長期の材料です(後述します)。このため、この材料が3,000ドル到達に直接的に関わったとは考えにくいでしょう。

3,000ドル到達の立役者は利下げ加速観測

 3,000ドル到達の直接的なきっかけは、米国の物価関連指標である、CPI(消費者物価指数)とPPI(生産者物価指数)がともに、事前予想と前回よりも弱かったことを受け、頓挫しかかっていた利下げの温度感が高まったこと、だったといえます。

 そこに、米国の足元の景況感を示す指標の一つであるミシガン大学消費者態度指数が大幅に弱かったことを受け、米国の複数の主要株価指数が乱高下したことが拍車をかけました。

 実際に、以下の通り、米CPIとPPIが弱かったことを受け、米国の利下げの確率が上昇しています。米国の利下げは、ドル安観測を強め、「世界のお金」という共通点を持つドルと金(ドル建てゴールド)の対比において、金(ドル建てゴールド)が優位になる思惑を強めます。

図:9月から12月までのFOMCにおける3.75~4.00%への利下げ確率の推移

9月から12月までのFOMCにおける3.75~4.00%への利下げ確率の推移
出所:Fed Watch Toolのデータをもとに筆者作成

 この場合、「将来的に利下げが行われそう」という思惑が重要です。実際に利下げが行われなかったとしても、先々、将来的に、いずれかのタイミングで利下げが行われる可能性があるのであれば、利下げ確率の上昇、およびそれに追随した金(ゴールド)相場の上昇は起き得ます。

 以下は、以前の「金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢」で述べた、「三本の矢」のうち、短中期的な値動きに影響する「第一の矢」です。3,000ドル到達の直接的な原動力となった代替通貨(ドルの代わり)と、それに拍車をかけた代替資産(株の代わり)を示しています。

図:3,000ドル到達の直接的な原動力「第一の矢」

3,000ドル到達の直接的な原動力「第一の矢」
出所:筆者作成

有事に限界あり、株と金の順相関もある

 ここからは、現代の金(ゴールド)相場の分析手法について述べます。まずは、現代の金(ゴールド)相場が過去の常識と異なっていることを示す例を、二つ挙げます。一つ目は、「有事の金(ゴールド)買い」について、です。

 過去75年間の金相場の動きを振り返ってみると、1980年前後に「山」を確認できます。いわゆる大規模な「有事」が多発した期間です。イラン革命、在イラン米国大使館人質事件、旧ソ連のアフガニスタン侵攻などが立て続けに起きました。このころ、安全資産(safe haven)、最後の拠り所(last resort)などとはやされ、金(ゴールド)相場は「山」を形成しました。

 こうした価格上昇の山は、今となっては低山です。当時の上昇時は680ドル近辺でした。足元の価格は3,000ドル近辺です。例えば、足元の価格を富士山(標高3,776メートル)に置き換えてみると、当時の価格は関東山地の陣馬山(同855メートル)に相当します。陣馬山はハイカーの間で大人気の「低山」であり、初心者でも登りやすいと評されています。

 あの歴史的な有事の同時多発をもってしても、金(ゴールド)相場において築かれる山は、陣馬山のような低山なのです。つまり、有事だけで、今の価格水準を説明することは不可能なのです。

図:1980年前後の山と足元の山の比較

1980年前後の山と足元の山の比較
出所:LBMAのデータをもとに筆者作成 イラストはPIXTA

 二つ目は、「株と金(ゴールド)の逆相関」についてです。以下の通り、足元の価格水準は、「ともに」史上最高値水準です。つまりどちらも、記録的な高騰の最中なのです。逆相関とは、二つの価格において、片方が上昇している時、もう片方が下落する状態を指します。

 どちらも上昇しているのであれば、逆相関とはいえません。局所的に逆相関となったことはあっても、長期視点では順相関といっても過言ではありません。

図:S&P500指数と金(ゴールド)価格の推移

S&P500指数と金(ゴールド)価格の推移
出所:ブルームバーグおよび世界銀行のデータをもとに筆者作成

 過去の常識である「有事の金(ゴールド)買い」「株と金(ゴールド)の逆相関」は、現代の金(ゴールド)市場を語る際に用いられるメインテーマではなくなっているといえます。

 先ほど示した図「3,000ドル到達の直接的な原動力『第一の矢』」のとおり、この二つに関連するテーマ「有事ムード」と「代替資産」は、現在、短中期視点のテーマの一つとして、存在しています。長期視点の金(ゴールド)相場の展望にはなじまないことに留意が必要です。「金(ゴールド)相場をイメージで語ることなかれ」、は筆者の本音です。

二つの顔を見極め、時流に即して分析を

 とかく金(ゴ―ルド)は、イメージで語られやすい存在です。1970年代後半に大規模な有事が多発したことを受けて一時的に価格が上昇したり、1980・1990年代に株価が大きく上昇したことを受けて下落を強いられたりした時のイメージが、根強く残っています。

 なぜ、イメージで語ってはならないのでしょうか。それは、イメージと実態が異なるケースが散見されるからです。先ほど述べたように、現代の金(ゴールド)相場は有事の影響だけで形成されていませんし、株と逆相関でない状態が常態化しています。

 なぜ、イメージではなく実態を優先する必要があるのでしょうか。それは、実態が投資家の皆さまの損益に直結するからです。イメージと実態が異なるケースが散見されている以上、投資家を含む市場関係者はイメージよりも実態に目を向ける必要があるのです。

図:金(ゴールド)が持つ二つの顔

金(ゴールド)が持つ二つの顔
出所:筆者作成

 上の図のとおり筆者は、金(ゴールド)は二つの顔を持っていると考えています。一つは経済指標の顔、もう一つは市場の顔です。イメージを優先しているのは、経済指標の顔です。

 金(ゴールド)相場が上昇している様子を見て、おどろおどろしいことが起きていると、怖がらせるような情報を発信したり、情報の受け手が事態をそのように理解したりする、金(ゴールド)相場を有事の度合いのバロメーターとして扱うケースです。

 1970年代後半の「有事の金(ゴールド)買い」が、引き合いに出されるケースもあります。こうした情報は感覚的に理解しやすいため、分かりやすい、という特徴があります。

 もう一つの顔は、市場の顔です。これは実態です。一般に、市場は価格形成が行われる場です。金(ゴールド)価格が上がると考える投資家と下がると考える投資家の思惑が交錯し、その思惑の成れの果てに価格という「実態」が形成されます。

 価格は、投資の結果であり、投資家の損失や利益そのものです。その意味では、投資家を含む市場関係者は、市場にこそ、注目しなければなりません。金(ゴールド)価格が高騰し、注目が集まっているからこそ、経済指標としてではなく、市場としての金(ゴールド)を認識する必要があります。

 分かりやすさに甘え、市場を無視した情報発信はNG行為です。

 分かりやすいから、過去にそうだったから、有名人が言っているから、などを理由とし、実態の一部だけを切り取った情報発信をしてしまうと、お客さまとの間の情報の非対称性を大きくし、金融庁が定める顧客本位の業務運営(フィデューシャリー)を損ねることになりかねません。こうした事態を回避するために、以下の「三本の矢」が役立ちます。

図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年3月時点)

金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年3月時点)
出所:筆者作成

 金(ゴールド)に関わる材料を、三つの時間軸のいずれか、かつ七つのテーマのいずれかに分類していきます。そうすることで、足元の金(ゴールド)相場の「ほぼ実態」が見えてきます。

 その結果、短中期的に価格が上昇すると思えば、短中期の投資手法になじむ商品先物やCFDで、中長期・超長期的に価格が上昇すると思えば、純金積み立てや投資信託、国内外のETF(上場投資信託)などで売買を行う、という売買手法に落とし込むことも可能です。

デモクライシスと通貨堕落で長期上昇へ

 ここ最近、デモクラシー(民主主義)がクライシス(危機)に直面している様子を、デモクライシスと表現されているのを目にします。以前の「金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢」で述べたとおり、SNSのマイナス面の影響が拡大していることが大きな要因だと、いえます。

 SNSは、ニセ情報、誤情報、誹謗中傷、感情噴出がいとも簡単に横行する世界です。これらはいずれも、民主主義の考え方に反します。2010年ごろ以降、世界的にSNSが普及したことをきっかけに、世界中で特に選挙において、マイナス面が目立ち始めました。

 このことは、「三本の矢」で示した「見えないジレンマ」の、SNS・ESG起因の混乱を大きくしたり、西側・非西側の分断を深めたりする、超長期視点の金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけ得る要因です。

 また、米ドルにおいて通貨堕落という、当該通貨の価値が薄まってしまう懸念が大きくなりつつあります。以下のグラフのとおり、ドル通貨の総量は、大規模な金融緩和を経て記録的な高水準で推移しています。このことは、ドル覇権の不透明感を強め、超長期視点の金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけ得る要因です。

 良かれと思って開発したSNSが、良かれと思って行った金融緩和が、かえって世界にマイナスの事象を広げ、それが長期視点で金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけていると、考えられます。もともと良かれと思って始めた事象であるため、世界から取り除くことは困難だといえます。

 今回のレポートでは、金(ゴールド)相場が、3,000ドルという記録的な水準に達したことを受け、これから金(ゴールド)を投資対象にしてみたいと考えている方々や、すでに金(ゴールド)に興味を持たれている方々に、イメージに頼らない、実態に即した分析をお届けすべく、まとめました。今後の金(ゴールド)相場の分析に役立てば幸いです。

図:ドル通貨の総量(M2)と金(ゴールド)価格

ドル通貨の総量(M2)と金(ゴールド)価格
出所:FREDおよび世界銀行のデータをもとに筆者作成

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入

投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)

中期:
関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:
商品先物

国内商品先物
海外商品先物

CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム