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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「「DeepSeek」ショック後の株式市場どうなる?AI相場は次のステップへ?(土信田雅之)」
1月最終週となった今週の株式市場ですが、週の前半は、いわゆる「DeepSeek(ディープシーク)」ショックに揺れ動く展開となりました。その後は、いったん落ち着きを取り戻しつつあるような動きとなっていますが、このショックが今後の株式市場(特にAI相場)に与える影響が気になるところです。
そこで、今回のレポートでは、米国株を中心にした株式市場の動きや、現時点で分かっていることなどを整理し、これからの相場を見ていくヒントを探っていきたいと思います。
「DeepSeek」ショックで相場は崩れたか?
安価で開発、かつ高機能をうたうAIモデル「R1」が、中国の新興AI企業のDeepSeekから登場したことによって、週初1月27日(月)の取引は、日米主要株価指数の多くが下落する動きとなりました。
<図1>日米の主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年1月29日時点)

上の図1は、2024年末を100とした、日米主要株価指数のパフォーマンス比較ですが、その中でも、半導体関連銘柄で構成される米SOX指数の下落が目立っていることが確認できます。半導体セクターはこれまでのAI相場をけん引してきただけに、それだけDeepSeekのインパクトが大きかったことがうかがえます。
その一方で、この日のTOPIX(東証株価指数)やダウ工業株30種平均(NYダウ)が上昇していたこと、そして、下落した株価指数についても、翌日以降に下落が続かなかったこともあり、全体的に見ればショックの影響は今のところ限定的であると言えます。
続いて、個別銘柄の動きも確認します。ここで注目するのは、27日(月)の国内株市場で8.32%安となったソフトバンクグループ(9984)と、同日の米国株市場で16.9%安となったエヌビディア(NVDA)です。
<図2>ソフトバンクグループ(日足)の動き(2025年1月30日時点)

上の図2はソフトバンクの日足チャートですが、先週の急騰による上昇幅を一気に打ち消した格好となりました。
ただ、28日(火)から30日(木)のローソク足は75日移動平均線がサポートとなっているほか、直近の安値である1月14日、昨年12月20日、同じく11月21日を結んだ下値ラインで下げ止まっていると見ることができ「相場が崩れた」格好になっていません。
<図3>米エヌビディア(日足)の動き(2025年1月29日時点)

次にチェックするのは、米半導体大手のエヌビディアです。
先ほども述べたように、27日(月)の株価は16.9%安となり、この日だけで約6,000億ドルの時価総額を失ったことが報じられるなど、その下げの大きさが印象的でしたが、上の図3を見ても分かるように、そこから先の株価は200日移動平均線がサポートとなっていて、ソフトバンク・グループ株と同様に、エヌビディアもまだ相場が崩れていない状況と言えます。
ただ、今後のトレンドの方向性としては、昨年8月6日と9月6日の安値どうしを結んだラインを下回ってしまい、下落転換が意識される一方、同じく昨年7月11日と8月26日の高値どうしを結んだラインが株価の下げ止まりの目安として機能しています。
この高値どうしを結んだラインを底にして、株価が反発基調を強められないと、再び株価が下方向へ進行してしまうことも考えられますので注意が必要ですが、現時点では、下げが目立った2銘柄の値動きを見ても、過度に悲観的にならなくても良さそうです。
であるならば「今回のショックで大きく下落した銘柄は買い」という判断もできそうですが、これについては、ちょっと注意が必要かもしれません。
DeepSeekは「ゲームチェンジャー」か?
というのも、このDeepSeekが果たしてAI開発の世界を変える革新的な「ゲームチェンジャー」となり得るのかについては、まだ判断できる材料が足りていない状況です。
しかしながら、米国から中国への制約が厳しい環境の中、低コストで米国のAIモデルに劣らないものが短期間で開発されたことによって「多額の資金と最先端の技術が必須」とされてきたAI開発のこれまでのイメージに一石を投じたことは間違いありません。
とりわけ、先週に「スターゲート計画」という巨額のAI投資プロジェクトが米国で立ち上がり、日米の関連銘柄の株価が急上昇していたタイミングだったことも、株式市場の下落に大きく影響したと思われます。米国側としては「あれだけ中国に圧力をかけたのに…」という心理面が相場のムードに寄与した面もありそうです。
さらに、足元では、このDeepSeekに対して盗用疑惑が浮上し、調査が開始されたと報じられたほか、AI技術の汎用化についても「目先の先端半導体需要にとって逆風」という見方が出てくる一方で「多くの分野、企業でAIの利用が活発化し、中長期的にはプラス」といった見方も出るなど、さまざまな意見が交錯しています。
これに加え、中国企業のアリババ・グループ・ホールディング(BABA)が、DeepSeekの性能を上回ると主張するAIモデルを29日(水)にリリースしたと発表するなど、状況はちょっとしたカオス状態となっています。そのため、株式市場はしばらく目先のニュースに振り回される場面が増えるかもしれません。
それと同時に、今回のDeepSeek・ショックをきっかけに、AIを開発する側と利用する側のメリットやデメリットをはじめ、AIをどのように活用してビジネス化していくのか、AI開発における学習(訓練)と推論の違い、投資に見合う収益化への視線が厳しくなるなど、投資家のAIに対する理解度が深まった可能性があります。
読者の中にも、ニュースやレポートを読み込んだり、動画サイトを視聴したりして、AIやその動向に詳しくなられた方も少なくないと思います。
最高値をつけたメタ・プラットフォームズから見えるもの
こうしたAI相場に対する投資家の視点の変化は重要なポイントになってくると考えられます。
ここで、チェックしたいのがメタ・プラットフォームズ(META)の動きです(下の図4)。
<図4>米メタ・プラットフォームズ(日足)の動き(2025年1月29日時点)

DeepSeek・ショックとなった27日(月)の取引における、メタ・プラットフォームズの株価は下落スタートだったものの、切り返して大幅なプラスで終えたほか、その後も上値を伸ばし、連日で最高値を更新しています。同社もAI関連銘柄として位置付けられていますが、ショックをものともしない強さを見せています。
こうした強さの理由として、(1)同社が広告事業を柱としているため、ダメージが限定的とみられたことや、(2)同社がAIを活用してサービスを提供する側でもあるため、AIにかかるコストが低下することが逆にメリットになる可能性があること、そして、(3)AIに対する戦略の違いが評価され始めたことなどが考えられます。
メタ・プラットフォームズは、仮想空間に注力していたこともあり、AI開発においてライバルよりも出遅れているとされていました。この出遅れを取り戻すために採用したのが、同社のAI技術を無償公開(オープンソース化)する手法です。
オープンソース化を通じて「別の企業や技術者が新たなものを開発し、それがまた公開されて、メタ・プラットフォームズがさらに開発して…」を繰り返すことで、技術革新のスピードを速め、質も高めていくという考え方になります。こうした手法は、独自で開発を進めている他の米テック企業とは異なるアプローチです。
先ほどは、DeepSeekの盗用疑惑について触れましたが、DeepSeekは無償公開されていたメタ・プラットフォームズの技術も活用していると思われ、DeepSeekもまた開発したAIモデルを公開しています。実は、中国の国内では、こうした技術の公開や共有を通じて多くのAIモデルが生み出されています。
つまり、今回のDeepSeek・ショックが意味するのは「中国のAI技術が米国に追いついた」ということではなく「米国の多くのテック企業が行っているような、専門家を集めて、多額の資金を使って行うAI開発よりも、多くの参加者が情報や技術を公開、共有し、時には競争しながら行うAI開発の方が良いのではないか?」ということかもしれません。
もちろん、オープンソースによる開発は、上手に管理、統括できないと、フェイクやヘイトスピーチなどの悪用を促してしまうリスクもありますが、今回のDeepSeek・ショックを期に、米国でもオープンソースを活用した開発が進む可能性があります。その場合、資金力を持つ米大手テック企業以外の参入者が増加することになり、ビジネスチャンスの拡大にもつながります。
従って、DeepSeek・ショック後のAI相場は、これまでのような「AIに多くの投資をするよ」というだけで対象銘柄の株価が大きく上昇していくという段階から、次のステップへと移行しつつあるのかもしれません。
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