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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「米国株の上昇は「まだまだ」?「そろそろ」?~意外な落とし穴に注意~(土信田 雅之)」
「独り勝ち」が続く米国株
12月相場入りとなった今週の株式市場ですが、米国株に視線を向けると、4日(水)の主要株価指数(ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)がそろって最高値を更新するなど、好調さを維持しています。
下の図1は、以前のレポートでも度々紹介したことがありますが、昨年末を100として、各国の株価指数の推移を比較したチャートになります。
<図1>各国主要株価指数の推移(2023年末を100)(2024年12月4日時点)

ナスダックとS&P500が突出して強く、それに一歩遅れる格好でNYダウが続き、さらにその下に、日経平均株価や香港ハンセン指数、TOPIX(東証株価指数)、上海総合指数、インドSENSEX指数などが団子状態で並ぶ状況になっています。
なお、上の図1では日経平均がNYダウに迫っていることも確認できます。
日本株の詳細な動きについては、来週9日(月)掲載の『テクニカル風林火山』で解説する予定ですが、最近の日本株は、企業の自社株買いが下値の支えになっているほか、金利上昇による銀行株買いや米国の流れを受けたハイテク株買い、米国株と比べた出遅れ感や割安感、そして、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による運用比率の見直しへの思惑なども買い材料になったもようです。
いずれにしても、米国株の強さが目立つ状況が続いています。
米国株の上昇は「行き過ぎ」なのか?
となると、「今後も米国株が上昇を続けることができるのか?」と、「米国株の上昇に遅れて他国の株価指数もついて行くことができるのか?」が気になるところです。
確かに図1を見ると、今週に入ってからの日本、中国、インドの株価指数がそろって上昇の動きを強めているようにも見えるため、米国株の上昇継続の可否が目先の株式市場全体の焦点になってきます。
もっとも、米国株の上昇が「行き過ぎているだけ」という見方もできますので、この点について確認して行きたいと思います。
まずはテクニカル分析面から見ていきます。
<図2>米S&P500(日足)の動き(2024年12月4日時点)

上の図2は米S&P500の日足チャートです。
8月に安値をつけて以降、順調に値を伸ばしていることが分かるほか、3本(5日、25日、50日)の移動平均線が、上から期間の短い順に並ぶ「パーフェクト・オーダー」となっていて、トレンドが上昇基調にあることが確認できます。
その一方で、8月と9月の安値同士を結んだトレンドラインが足元で抵抗となる中で株価が上昇していることや、ローソク足の値動きを過去にさかのぼっていくと、6,000pや5,800pなどの200p刻みの株価水準が「節目」として意識されていることが分かるため、テクニカル分析的には、「様子を探りながら株価が上昇している」ということが読み取れます。
この流れで行けば次の上値の目安は6,200pとなりますが、先ほどのトレンドラインに沿って順調に動くのであれば、株価が6,200pに届くのは14営業日後あたりになります。
また、株価の動きについては、「株価が高いか安いか」で動く局面と、「相場が強いか弱いか」で動く局面があります。
前者はテクニカル分析やファンダメンタルズ分析などの理屈が当てはまりやすく、理性的に株価が動きやすいですが、後者については、感情やムードが相場を覆い、株価の動きが極端になりやすい傾向があります。
そのため、様子を探りながら株価が上昇しているように見える現在のS&P500は、前者の局面であると言えそうです。
なお、今後の株価上昇のピッチが加速していった場合、新たな買い材料が加わったことが要因であれば良いのですが、そうでない場合には過熱感を帯びてくるため、警戒が必要です。
米国上昇の材料と注意点
続いて、足元の米国株を押し上げている株価材料についても見て行きます。
まず挙げられるのは、「12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げが実施される見込みが強まった」ことです。
12月17日から18日にかけてFOMCが開催されますが、FRB(米連邦準備制度理事会)の要人から利下げに前向きな発言が相次いだことで、米10年債利回りなどの金利が低下し、株高を支援する格好となりました。
今のところ、12月開催のFOMCで利下げが行われる見通しが優勢であることに変わりはありませんが、米経済指標では、米景気の強さを示唆するものが多い状況が続いている点は気掛かりです。「景気が好調な中で利下げができるのか?」という見方が浮上してくることも想定されます。
しかも、今週末からは「ブラックアウト(FOMC前に参加メンバーが対外発言を控える)」期間に入るだけに、今後の経済指標で利下げ期待を後退させるほどの強い結果が出た場合には注意が必要かもしれません。
具体的には、今週末6日(金)の11月雇用統計をはじめ、来週11日(水)の11月CPI(消費者物価指数)や12日(木)の11月PPI(卸売物価指数)、そして、FOMC初日となる再来週17日(火)に公表される11月小売売上高などが注目されることになりそうです。
次に、買い材料の二つ目として挙げられるのが、「半導体関連株に買い戻しが入った」ことです。
<図3>米主要株価指数の動き(2023年末を100)(2024年12月4日時点)

上の図3は、図1と同じ昨年末を100とした、米主要株価指数のパフォーマンス比較ですが、足元で低迷していた、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数が復調気味になっていることが読み取れます。
実際に、SOX指数が上向きになったのは先週の11月27日からなのですが、「米政府が対中国向けの半導体および製造装置の販売規制が、思ったよりも厳しくならないのではないか?」という報道がきっかけとなりました。こうした流れは日本株にも波及し、値がさ株が多い半導体株の上昇は日経平均を押し上げることに寄与しました。
ただし、中心銘柄であるエヌビディアの動きを見ると、直近の高値を超えるところまで上昇できておらず、株価は反発しているものの、まだ買い戻しの範囲内にとどまっています(下の図4)。
<図4>米エヌビディア(日足)の動き(2024年12月4日時点)

そのため、今後もある程度の株価上昇は期待できそうですが、かつてのように、半導体関連株が相場のけん引役となるには、業績の成長という投資の基本軸がカギになるほか、中国への規制についてもトランプ次期政権に移ってから変化することも考えられ、継続的な株価材料としては微妙かもしれません。
そして、最後の材料として挙げられるのが「次期トランプ政権への期待」です。
詳しくは前回のレポートでも解説しましたが、財務長官の候補にベッセント氏が指名されたことで、トランプ氏の掲げる政策のネガティブな面(財政悪化やインフレ再燃)への懸念を後退させて米金利が低下し、ポジティブな面を好感して株価が上昇するなど、相場のムードが改善した面があります。
もちろん、トランプ氏の言動や次期政権に向けた動き次第で、相場のムードが突然変化してしまう不確実性を抱えているため、こちらも継続的な材料となれるかは不透明です。
次期トランプ政権はインフレ抑制がカギ
このように、足元の米国株の強さをテクニカル分析面と材料面で見てきましたが、少なからず「危うさ」がある点は意識しておく必要があります。
また、こちらのレポートでも紹介した通り、現在の米国株はすでに割高な水準になっています。
主要株価指数のPER(株価収益倍率)が過去の平均と比べても高くなっているほか、株式(S&P500)の益回りと、債券(米10年債)の利回りの水準とのあいだにあまり差がなく、本来であればリスク資産の株式の方が、安全資産の債券よりも期待リターンが高くなるのですが、利回り(益回り)面では債券の方が優位であり、それだけ株式が割高である状況が続いています。
もちろん、12月17日から18日に開催されるFOMCで利下げが見込まれているように、このまま米国の金利低下傾向が続けば、株式の割高感は軽減され、それだけ株価は上昇しやすくなります。
しかしながら、トランプ氏の掲げる関税政策や不法移民政策は、インフレ圧力につながる懸念があることや、10月に発生した、米国の東海岸やメキシコ湾岸の労働者ストライキも、いったん暫定合意に至ったものの、その後の労使交渉は停滞しており、現在も動きを見せていません。
このままだと、労働協約の改定期限を迎える来年1月中旬にストライキが再開される可能性もあり、インフレ懸念の意外な「落とし穴」になるかもしれません。
さらに、中長期的な視点で捉えても、「バイデン政権時のインフレへの批判」が米大統領選挙でトランプ氏が勝利した要因の一つであるだけに、次期トランプ政権がインフレ抑制に苦戦する状況になってしまうと、相場のムードが一気に悪化していくことも考えられます。
従って、年末までは好調な相場地合いが続く可能性は高そうですが、来年1月20日の米大統領就任日が近づくにつれ、警戒感が株価の上値を抑えてしまう展開には備えておく必要があるのかもしれません。
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