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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「「SNS」は情報戦・心理戦のゲームチェンジャー」
SNSは選挙戦の「ゲームチェンジャー」
7月の東京都知事選挙、10月の衆議院議員選挙、11月の兵庫県知事選挙といった国内の主要な選挙に、SNS(ソーシャル ネットワーク サービス)が大きな影響を及ぼしたことは、広く報じられているとおりです。
こうした報道を通じてわれわれ市民は、対抗馬が最有力候補に肉薄したり勝利したりするシーンを幾度となく目の当たりにしました。特に兵庫県知事選挙ではSNSが勝敗を分けたとさえ、いわれています。
また、11月の米大統領選挙は、一部「人気どり」の様相を呈した異色の選挙でした。あの選挙の際、SNSのフォロワーが数千万から数億人を超える著名人がどちらの候補者を応援しているのかが、大きな話題となりました。政策よりも、著名なインフルエンサー(SNS上で大きな影響力を持つ情報発信者)が味方に付いているかが、選挙戦を戦う上で大きなポイントとなりました。
国内外、情報の発信者・受け手を問わず、好き嫌い、直感的な分かりやすさなど、感覚が優先されやすいSNSは選挙戦でも大いに活用されています。今年行われた一連の選挙では、候補者たちがSNS上で、多くの人に受け入れられること(感情に訴える内容を含む)や、短くて分かりやすいフレーズを繰り返し口にする場面が見られました。
こうしたことに一部、仮想敵とのののしり合いや、過剰なまでの安心感の醸成が加わり、SNSが劇場と化した様子を、われわれは何度も目にしました。劇場化がきっかけで、事前の予想と異なる結果が出たケースもありました。
選挙は、民主主義の根幹を維持するために必要な仕組みです。この選挙の結果に甚大な変化をもたらすSNSとはいったいどのようなツールなのでしょうか。日本だけでなく世界の主要国でしばしば、議員や自治体のリーダーを決定する選挙の決定打になっていることを考えれば、もはや、個人と個人をつなぐ単なる通信手段でなくなっていることは明白です。
SNSはすでに、社会に流通する情報と群衆の心理に甚大な影響を与え、民主主義の根幹に関わる選挙の環境を激変させるゲームチェンジャーとなりつつあると言えるでしょう。
人類は実はとてつもないツールを開発し、日常的にそれを使用していると言えます。(筆者はSNSを、技術革新の延長線上で生まれたインフラ(社会基盤)だと認識しており、その存在を肯定も否定もしていません)
以下は、そのSNSと既存メディアの利用状況を示した資料です。日本における携帯電話所有者が、ニュース閲覧時にどのメディアを利用しているのかが示されています。
図:ニュースを日常的に閲覧しているメディア(携帯電話所有者が複数回答)
足元、1位がテレビ、2位がWebサイト・アプリ、3位がSNS、4位が新聞です。テレビがニュース閲覧時に最も利用されているメディアです。また近年、SNSの割合が急速に上昇してきています。選挙関連の報道で示されたとおり、SNSが持つ特徴が幅広い世代で受け入れられていることが、一因だと考えられます。
SNSと既存メディアの二刀流が必要
ここからは、SNSと既存メディア、それぞれの特徴を述べます。以下は、SNSと既存メディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオなど)を比較した資料です。
図:SNSと既存メディアの比較
SNSを利用すれば、誰でも手軽に情報を発信することができます。個人、企業、団体が主体になり得、多様な視点の情報が行き交います。瞬時に発信でき、リアルタイムで更新することも可能です。災害や緊急時の情報共有にも役立ちます。
シェアやリポスト(他のユーザーの投稿を引用した投稿)をすることができたり、アルゴリズムによるおすすめ機能によって、関心がありそうな他のユーザーの画面に表示されたりするため、たった一つの投稿が膨大なユーザーに拡散される場合もあります。
また、投稿に対してコメントをしたり返信をしたり、DM(ダイレクトメッセージ)にてユーザー間で直接やり取りをすることができます。写真や動画、短いフレーズで、感情に訴えるメッセージを送信することも可能です。
一方で、発信者による情報の精度にばらつきがあるため、フェイクニュース(ニセ情報)の拡散リスクが比較的高い、興味に基づくアルゴリズムによって、ユーザーが偏った情報を見てしまい、当該ユーザーの視野が狭くなる懸念も指摘されています。
SNSでは、簡潔で感情的な表現が注目されやすいため、扇動的な内容が支持を集める場合があります。最近の動向が示すとおり、選挙や政治活動での活用が進む中で、(政策への支持よりも)感情的な支持を得る手段としてSNSが重視される場合もあります。
既存メディアの情報の発信者は、テレビ局、ラジオ局、新聞社、出版社など、限られた機関です。視聴者・読者に情報を届けることが中心で、双方向の交流は限定的です。情報は取材・編集を経て精査され、事実確認が行われています。
社会全体を対象にしており、視聴者個人の興味関心にかかわらず、広範囲の情報を発信しています。法律や放送倫理に基づいて運営され、ニセ情報や扇動的な内容が抑制される傾向があります。
一方で、情報発信に時間がかかり、速報性に欠ける場合があります。また、番組制作、印刷、配信などにコストがかかり参入障壁が高かったり、視聴者や読者の反応を直接的に取り入れる仕組みが限定的であったりします。
上記をまとめると、SNSは「迅速で双方向性が高いが、人々の感情が膨張する可能性がある」、既存メディアは「公共性が強いが、即時性や双方向性に課題がある」と言えるでしょう。完璧な情報発信者は存在しません。両者を補完的に活用することが望まれます。
SNSの影響を考える上で重要な「2010年」
そのSNSは、いつごろから普及し始めたのでしょうか。以下の世界のスマートフォン販売台数がその参考になります。スマートフォンが普及するにつれて、各種SNSが普及していきました。そのきっかけは、2010年ごろでした。日本でiPhone4が発売されたころです。
その後、2016年ごろまで、世界におけるスマートフォンの販売台数は急速に増えていきました。2018年ごろから頭打ちになっていますが、それでも毎年、12億台程度の販売が行われています。新規需要急増の流れは終了したものの、買い替え需要が継続していると考えられます。
このことは、すでにスマートフォンが世界全体で入手できる人にほぼ行き渡ったこと、そしてそうした多くの人たちがSNSを利用できる状態にあることを、示唆しています。
図:世界のスマートフォン販売台数 単位:百万台
SNSが世界に影響を与えたことを考える上で、「2010年ごろ」を外すことはできません。これ以降の図全てに、上の図と同様、「2010年ごろ以降」と書かれた黄色の枠がありますので、注目してみてください。
SNSは選挙戦においてゲームチェンジャーの存在だと述べましたが、実際の影響は選挙だけでなく、民主主義の形すら変えていると、筆者は考えています。
SNSは情報戦・心理戦の「ドローン」
戦いにおける「ドローン」は、攻撃する側の損害を最小限にし、相手に大きなダメージを与える手段の一つです。筆者は、SNSは情報戦・心理戦におけるドローンであると、考えています。以下は、打撃戦、情報戦、心理戦の三つの戦いの概要と関係を示した図です。
打撃戦は直接的に、建物、インフラなどのモノや要人、市民などのヒトに損害を与えるための戦いです。現代では銃、戦車、戦闘機、戦艦、爆弾、ミサイル、ドローンなどが用いられます。
図:SNSが各種戦いに与える影響
情報戦は間接的に、民主主義などの思想や世界平和などの秩序に損害を与えるための戦いです。情報操作を行うために、怪文書、偽造文書、フェイクニュースなどが用いられます。心理戦は間接的に、尊厳などの心(精神)に損害を与える戦いです。印象操作や脅迫、各種トラップなどのために、見せしめやいけにえなどが行われることがあります。
こうした三つの戦いは、補完し合っています。物理的な戦いが目立つ状態では、目に見える打撃戦が中心ですが、打撃戦に関わる情報戦・心理戦が同時進行します。物理的な戦いを伴わない戦い(過去の事例は、東西冷戦、貿易戦争、資源争奪戦など)においては、情報戦と心理戦が中心になります。
情報戦・心理戦に深く関わっているのが、SNSです。情報戦の要(かなめ)である情報操作、心理戦の要である印象操作に、SNSが深く関わることができるからです。
SNSのおススメ機能によって、関心を持っていると思われる人の画面に情報操作・印象操作に関わる情報が自動的に掲載されたり、自動的に翻訳する機能によって、異なる言語を使う人に同情報が伝わったりする可能性があります。こうしたことを経て多数の人が注目する「バズった」状態になった場合、より深く情報戦と心理戦に関わることになります。
今や、SNSは情報戦・心理戦を行う上で欠かせないツールだと言えるでしょう。SNSを使えばスマートフォン一つで、一度に広範囲に、安価で手軽に情報戦・心理戦を仕掛けたり、加担したりすることができます。
その意味で、攻撃する側の損害を最小限にし、相手に大きなダメージを与え得るツールであるSNSは、情報戦・心理戦を行う際のドローンだと言えるかもしれえません。
SNSは民主主義を停滞させる重要要素
SNSの環境では、既存の思想や体制に反発心を抱く人たちの間で不満や不安が共有され、それが既存の思想や体制への反発心で一致して、膨張することがあります。不満・不安をきっかけとした「民意の濁流」は、感情が強く優先された状態であるため、民主主義を減退させる要因になり得ます。
2010年ごろ以降に目立ち始めた、SNSを一因とした社会構造の変化は、以下の指数に注目することで確認できます。V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化した自由民主主義指数です。
図:自由民主主義指数(世界平均)(1903~2023年)
民主主義の根幹に関わる、公正な選挙、表現の自由、法の支配が守られているかなどを数値化したこの指数は、0と1の間で決定し、0に接近すればするほど自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。グラフは、過去120年間(1903~2023年まで)の世界平均の推移です。
第1次世界大戦後、第2次世界大戦後、冷戦終結後に上昇したことが分かります。民主主義を掲げ、建設的な話し合いを経て世界が平和に向かう機運が高まった時代です。逆に、第2次世界大戦や東西冷戦のさなかは低下しました。こうした動きより、同指数はこの100年超、おおむね世界の民主主義の動向を反映してきたと言えます。
同指数の低下は、民主主義の行き詰まりや、西側諸国の相対的な影響力低下が始まっていることを示唆しています。それはつまり、非西側の相対的な影響力増加、世界分断・分裂の深化が始まっていることを示唆していると言えます。
先述のとおり、SNSは感情優先、建設的な議論なしが許される世界であるため、民意が濁流と化す場になり得ます。2010年ごろ以降、武力衝突を伴う政権転覆が相次いだアラブの春やBREXIT、2016年・2024年のトランプ氏の米大統領選挙の勝利など、民主的かどうか議論が必要な大きな出来事が起きています。
最近では、SNS上で偽情報が横行したり、誹謗中傷が相次いだりして、建設的な議論ができなくなるケースが散見され、社会問題が発生しています。SNS起因の民主主義の後退は、民主正義と考える西側の影響力後退、ひいては非西側の台頭を許す世界分裂の一因になり得ます。
以下の図のとおり、世界分裂は、戦争や資源国の出し渋りの直接的なきっかけになり得ます。世界で分裂が目立つことで、「自国第一主義」が目立ちやすくなります。そうすると、自国の「食やエネルギーの安全保障」を訴える国が増えやすくなります。その結果、資源を武器として利用する国が増えやすくなります。
実際に今まさに、人為的な「減産」は原油で、政治的意図を持った「輸出制限」は小麦などの農産物で断続的に行われています。こうした主要な生産国による「資源の武器利用」は、コモディティ(国際商品)の需給を引き締める主な要因になっています。それが一因で、世界規模のインフレが継続しています。
図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景
SNS台頭(一因)→民主主義停滞→世界分裂→戦争発生・資源武器利用横行→不安・インフレ継続→中央銀行の金(ゴールド)保有増加継続、という流れが2010年ごろから継続しています。以下のとおり、「中央銀行」と民主主義停滞や世界分裂といった「見えないジレンマ」は、金(ゴールド)市場の中長期・超長期視点の上昇圧力の一つです。
人類がSNSを使用し続ける限り、この流れが終わることはないと筆者は考えています。選挙での混乱はまだまだ序章に過ぎず、SNSをきっかけとした社会不安はこれから噴出する可能性があります。(闇バイトの多くもSNSがきっかけと報じられている)
図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年11月時点)
国内外の金(ゴールド)相場は、歴史的な高値水準にありますが、高いことが今後上昇しない理由にはなりません。これまで、高いと言われても、何度も高値を更新して今に至っています。材料さえあれば、上昇し得ます。
長期視点での注目材料は、本レポートで述べてきたとおり、2010年ごろから続くSNSがもたらすさまざまな脅威です。筆者はこの脅威が続く限り、金(ゴールド)相場は、細かい短期視点の上下を繰り返しながらも、長期視点で上昇し得ると考えています。
[参考]積み立てができる投資商品例
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)
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