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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「日中首脳会談が開催。習近平政権が石破政権に歩み寄る三つの理由」
石破茂―習近平両首脳による会談がペルーで開催
APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するためにペルーを訪問した石破茂首相が11月15日、現地で中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と初の会談を行いました。会談は同時通訳付き、当初予定していた20分を上回り、約35分間行われました。石破首相が会談後の会見で、「非常にかみあった意見交換だった」と記者団に語っています。
私が中国の政府関係者や有識者らと意見交換をしている限りでは、習近平氏を含め、中国側も石破氏との会談に対して前向きな感想を抱いており、「近年における日本首脳との会談の中では、最も好感触だった」(中国政府関係者)という見方すらあるようです。
「日中首脳会談」という意味で言うと、石破首相は10月、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議に出席するために訪れたラオスで李強(リー・チャン)首相とも会談をしていますが、党・国・軍の最高指導者を担う習近平氏と、政府の首脳に過ぎない李強氏との間には非常に大きな権力ギャップが存在します。日本の首相にとっても、習氏、李氏、どちらに会うかによってその意義や影響には深い次元で差異が生じてきます。
今回、第三の地で開催された国際会議に便乗した形ではありますが、石破氏が習氏と対面で会談した事実を過小評価すべきではないというのが私の考えです。
石破政権の対中政策を「評価」する中国側
習近平国家主席は石破首相との握手から着席、冒頭の挨拶といった一連の流れの中で、和やかでリラックスしている様子でした。私の中国理解によれば、仮に中国国内で日本との関係を前に進めることに批判的、反対的な意見や雰囲気が充満していて、習近平政権としても同様の立場を取っている状況下で、習氏がそういう振る舞いをすることは基本ありません。
習氏は冒頭の挨拶で、石破氏が再度首相に選ばれたことを祝福し、石破政権が日中関係を発展させる観点から前向きなシグナルを発していることに対して「賞賛」の意を示しました。中国側が、石破政権とはある程度話ができる、案件を前に進められるという目星をつけた上で今回の会談に臨んでいることの一つの証左だと私は理解しました。
石破首相からも、「日中関係が発展して良かったと両国民が実感できるような具体的成果を双方の努力で積み上げていきたい」という旨が強調されました。両国外務省がプレスリリースで発表しているように、今後、環境・省エネを含むグリーン経済や医療、介護、ヘルスケアといった分野で、具体的な協力の進展を図っていくこと、およびグローバルな課題を巡って協働していくことで一致しました。
日中間の懸案であった、福島第一原発のALPS処理水放出後、中国政府が日本産水産物の輸入を禁止してきた問題に関して、先日両国政府間で輸入を再開する方向で合意がなされましたが、この点に関しても「今後きちんと合意を実施していくことを確認した。習主席自身が言及したことは非常に重いと考えている」と石破首相は記者団に対して答えています。
特筆すべきは、今回の首脳会談で、外相の相互訪問を早期に実現すべく調整することを確認し合った点です。日中のような二カ国間関係にとって、首脳同士が定期的、かつ頻繁に相互に訪問し合う「首脳外交」が持続的に展開されるに越したことはありませんが、それは両国の国内事情や地政学情勢などがありなかなか難しい。そんな中でも、外交を統括するトップである外相同士が第三国ではなく、相手国を訪問し合うことがメカニズム化されるのは、日中関係の安定的発展にとってポジティブであり、そういう政治的、外交的土壌は日中間の経済やビジネス関係にも波及していくことでしょう。
その意味で、次の焦点は、コロナ禍以降止まっていて、財界を中心に声が上がっている、中国政府の日本国籍保持者に対する短期渡航ビザ免除措置の再開でしょう。こちらも、11月末、あるいは年内をめどに実現させるべく、中国国内でも、政府機関と旅行会社などの間で事前のやり取りが始まっているようです。
ビジネス出張を含め、ビザが必要かどうかというのは、時間や労力といったコスト面でも大いに違いが生じてきます。習近平政権の石破政権に対する期待、今回の首脳会談への評価と、ビザ免除措置再開、水産物禁輸措置解除の着実な実行といったイシューは密につながっており、年末に向けて、中国側からどんな発表がなされるのか、注視していく必要があると思っています。
習近平政権が石破政権に歩み寄る三つの理由
ここからは、習近平政権はなぜ石破政権に歩み寄ろうとしているのかに関して、三つの視点から検証してみたいと思います。
一つ目が、習近平政権として石破首相、および同政権が中国との関係改善に前向きだという認識を抱いている点です。中国側が日本の対中政策で往々にして気にするのが、歴史、台湾、安全保障、および習近平主席率いる中国共産党などに対する見方やスタンスですが、石破氏は個々のテーマに違いはあるものの、全体的には中国のレッドラインを理解し、中国との関係を安定的に前進させたいという立場を取っている、という認識を中国側が抱いているという点は重要だと思います。この認識がなければ、習氏の会談での表情はもっと硬かったと推測されます。
二つ目が、中国自身が直面する課題を克服・解決するために、日本との外交関係を改善しておきたいという点です。ここでいう課題には、台湾や経済などが含まれるでしょう。本連載でも繰り返し扱ってきたように、台湾情勢は引き続き緊張していくのは必至で、そんな中、隣国であり、台湾情勢の行方にも深くコミットしている日本と、中国にとっての「核心的利益」であるこの問題で誤解や誤読が生じないようにしたいということでしょう。経済に関しても、景気がなかなか上向かない中、日本との外交関係の改善を、日本企業の対中投資、中国事業の継続と強化につなげることで、外部環境の改善を経済の持続的成長に生かしたいと考えているのでしょう。
三つ目が、「トランプ2.0」に相当程度の不確実性が予想される中、隣国であり米国の同盟国でもある日本との関係を改善しておきたいという点です。習近平氏率いる中国共産党指導部は特に、トランプ氏が「中国の全ての商品に60%の関税を科す」という公約を実行した場合の中国経済への下ぶれ圧力、台湾政策を巡る極端な言動が台湾海峡を巡る動向に与え得る影響を警戒しているようです。状況次第では、同盟国の日本を通じて、トランプ政権の動向を探る、同政権に何らかのメッセージを伝えるといった手だても考えているでしょう。
日本の政府、企業としては、中国側が思惑として持つ上記3点を念頭に、日本と中国との間の各種動向を観察し、それぞれの立場から分析していくべきだと考えます。
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