決算発表集中で個別銘柄では明暗分かれるも、日経平均は方向感の乏しい動きに

 直近1カ月(10月18日~11月15日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで0.9%の下落となりました。3万8,400円~4万円レンジ内での推移となり、衆議院議員総選挙、米大統領選などの大型イベントがあったわりに方向感は定まりませんでした。

 10月後半の調整場面は3万8,000円割れ水準で押し目買いに下げ渋り、一方、11月前半の上昇場面では4万円大台手前の水準で戻り売り圧力が強まる形になっています。なお、この期間(10月18日~11月15日)のダウ工業株30種平均は0.4%の上昇となっています。

 期間中前半は売り優勢の展開となりました。オランダの半導体製造装置メーカー大手であるASMLホールディング(ASML)の決算が引き続き半導体関連銘柄の先行きに不透明感をもたらしたほか、衆議院選挙において政権与党である自公連立の過半数割れリスクが台頭して懸念材料視される形となったようです。

 ただ、市場が警戒した通りに、選挙では与党が過半数割れを喫する形となりましたが、その後はあく抜け感が優勢となりました。また、野党による閣外協力が必要な情勢となったことで、より景気の浮揚効果が高まる政策が今後は打ち出されてくるとの期待も高まったようです。

 11月に入ると、米大統領選でのトランプ氏勝利を織り込む動き、いわゆるトランプトレードが活発化しました。米長期金利の上昇を織り込んで為替市場ではドル高・円安が進行し、日本株のフォローとなりました。

 しかし、こちらもトランプ氏勝利の決定後は上値が重くなる状況となっています。米中貿易摩擦による世界経済の先行き懸念が高まったほか、長期金利上昇によって米国の利下げペースが鈍化するとの見方も強まりつつあるようです。

 この期間は7-9月期の決算発表が本格化したことで、その内容によって個別銘柄では明暗が大きく分かれる状況となりました。決算のポジティブサプライズが大きかった古河電気工業(5801)SWCC(5805)住友電気工業(5802)などの電線株がそろって大きく上昇したほか、さくらインターネット(3778)なども20%超の上昇となっています。

 青山商事(8219)は大幅な増配が、THK(6481)は大規模な自社株買い発表が強いインパクトとなりました。ほか、コニカミノルタ(4902)は投資ファンドの株式保有で、マネックスグループ(8698)はビットコイン価格の上昇で、ディー・エヌ・エー(2432)は新作ゲームの好調で、それぞれ買い進まれました。

 半面、エムスリー(2413)東京製鉄(5423)太陽誘電(6976)などは決算が嫌気されて大幅安、資生堂(4911)コーセー(4922)などの化粧品株も約20%の大幅安となっています。関西電力(9503)は公募増資が嫌気され、他の電力株にも警戒感が一時波及しました。

トランプ新政権の政策や日銀の金融政策の行方など見極めたいタイミングに入る

 例年であれば、新春相場への期待を高めたいタイミングといえますが、今年は次期トランプ政権の政策に対する不透明感が強く、積極的な資金流入は目先手控えられる公算が大きそうです。

 とりわけ、半導体規制や高関税政策に伴う中国の景気先行き懸念は、日本企業にとって中国向け輸出回復期待を後退させます。決算発表後に売り優勢となっている半導体、電子部品、化粧品などの株価反発には重しとなりそうです。

「米国第一主義政策」による米国株の上昇期待などは、日本株に好影響を及ぼす余地がありますが、米国において利下げペースの鈍化が意識される状況下、期待通りの展開になっていくのか不透明でもあるでしょう。

 さらに、ここからの円安進行は為替介入のみならず、日本銀行の早期利上げにつながる可能性も高いとみられます。ちなみに、日銀の利上げは、トランプ政権にとってもドル高是正に向けて望ましい動きであると考えられます。

 一部報道によると、7-9月期の企業の最終損益と事前の市場予想を比較した場合、6割近い企業が市場予想を下振れたと伝わっています。増配や自社株買い実施のアナウンスが株価の下支えにつながった企業も多いとみられ、短期的な決算見直しの動きは強まりにくいといえそうです。

 決算発表通過による投資リスク低下という面では、確かに買い安心感は強まる余地もありますが、それと同時に株主還元策発表のタイミングが通過したことによる売り安心感も強まっている状況であるともいえます。

 目先の注目イベントとしては、11月20日に予定されている米エヌビディア(NVDA)の決算発表が挙げられます。国内半導体関連株などに与える影響も大きくなりますが、市場の期待値が非常に高い状況にあるため、決算発表が株高につながるためのハードルは高いと考えられます。

 ほか、米国の12月利下げ見送り観測も強まる中、27日のPCE(個人消費支出)デフレーター、12月6日の雇用統計などに対する関心もより強まりそうです。

 今後の物色動向としては、グロース株よりもバリュー株がやや優勢とみられます。米長期金利の上昇基調は今後も続くとみられ、グロース株にとってはマイナス材料とされそうです。一方、来年に入ってからはNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)資金が高配当利回り銘柄に流入してくる可能性は高く、この点からもバリュー優位と想定されます。

 物色テーマとしては、引き続き防衛関連が挙がるでしょう。トランプ氏の自国優先主義から考えて、防衛力拡充の必要性が高まるとみられます。また、石破茂首相の「地方創生」も注目されますが、この点では、地方銀行、自治体向けに実績のあるIT会社などが期待されます。また、女性に選ばれる地域づくりの観点からは、子育て支援なども注目テーマとなってくるでしょう。

 業種では住宅着工に回復の兆しが出ていることで住宅関連銘柄が今後の見直しの対象となってきそうです。日本銀行の利上げ観測は高まっていますが、むしろ短期的には駆け込み特需を想定したい局面です。

直近決算期で評価が高まった高配当利回り銘柄に注目

 2025年も年明けからの早い段階で、NISA投資が活発化するものと考えられます。NISAにおける主要投資対象である高配当利回り銘柄などは、年明けからの資金流入、それに伴う株高を見込んでもいい局面と判断されます。とりわけ、直近の決算発表を受けて株価評価が高まった銘柄などは、新たな組み入れ候補として注目度の高まる余地が大きいと考えます。

 配当利回りが4%以上ある時価総額1,500億円以上の銘柄の中で、7-9月期決算発表を境に評価が高まった銘柄をスクリーニングしています。

 具体的には、決算発表の当日(取引時間中に決算を発表)、あるいは翌日(大引け後に決算を発表)に株価が10%以上上がった銘柄をピックアップしています。ストレートに決算が好調だった銘柄のほか、警戒されたほどの業績の落ち込みがなかった銘柄、株主還元策の拡充が評価された銘柄なども含まれています。

(表)決算発表を機に株価が急伸した銘柄

コード 銘柄名 配当
利回り
(%)
11月15日
終値
(円)
時価総額
(億円)
今期営業
増益率
(%)
騰落率
(%)
7296 エフ・シー・シー 6.63 3,045.0 1,585 5.9 30.24
4114 日本触媒 5.82 1,855.0 2,893 20.8 9.31
5938 LIXIL 5.17 1,740.5 5,001 52.9 9.36
2127 日本M&AセンターHD 4.39 660.6 2,225 5.8 13.43
7148 FPG 4.31 3,025.0 2,583 10.7 34.15
注:今期営業増益率は会社計画
注:騰落率は10月25日終値比

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが4.0%以上(11月15日現在)
  2. 時価総額が1,500億円以上
  3. 7-9月期決算を発表した銘柄
  4. 決算発表日、あるいは発表翌日に株価が10%以上上昇

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 エフ・シー・シー(7296・東証プライム)

 クラッチ専業の自動車部品メーカーです。二輪向けが47%、四輪向けが53%(2025年3月期見込み)を占めており、利益構成比は二輪向けが高くなっています。主要顧客別では、筆頭株主となっているホンダグループ向けが4割弱を占めますが、四輪では現在フォード向けが最も高い構成比となっています。

 また、海外売上比率は米国やアジアを中心に90%以上の水準となっています。非モビリティ事業では、セラミックセッターやリチウムイオン電池用導電助剤の量産化などを進めています。

 2025年3月期上半期(4-9月期)の営業利益は100億円で前年同期比55.3%増となっています。従来計画であった78億円を大きく上振れました。インドやインドネシアにおける増収効果に加えて、為替の円安効果も収益の押し上げ要因となりました。2025年3月期通期予想は160億円、前期比5.9%増を据え置いています。

 二輪事業を上方修正した一方、四輪事業は下方修正しています。中国の下振れリスクや為替の影響を考慮して、上半期と比較して利益水準の低下を見込んでいますが、下期の為替レートは140円を前提としており、上振れの余地は大きいとみられます。

 11月1日の決算発表を受けて、翌営業日の株価は20.6%の急伸となりました。上半期業績の上振れ着地に加えて、配当予想の大幅な引き上げがインパクトにつながりました。年間配当金は従来計画の76円から202円にまで引き上げ、上場20周年を迎えたことによる記念配当126円を実施するようです。

 また、発行済み株式数の2.5%に当たる125万株、25億円を上限とする自社株買いの実施も発表しました。米トランプ氏の大統領就任を受けて、目先はエンジン車の復調が見込まれる点など、同社にとってフォローとなる可能性もあるでしょう。

2 日本触媒(4114・東証プライム)

 紙おむつに使用される高吸水性樹脂の世界トップ企業です。アクリル酸、酸化エチレンなども主力分野となります。成長事業としては、電池・水素関連材料、ディスプレイ・半導体(レジストなど)材料、中分子原薬受託製造や医薬品開発支援などのライフサイエンス事業も手掛けています。

 リチウムイオン電池の電解質として使われ、電池の長寿命化を実現させる素材「イオネル」などが今後の期待製品となります。海外売上比率は50%超の水準となっています。

 2025年3月期上半期(4-9月期)の営業利益は104億円で前年同期比4.5%増となり、従来計画の90億円を上振れています。第1四半期(4-6月期)の同22.8%減から一転増益にも転じています。スペシャリティケミカルズの需要堅調推移やディスプレイ関連製品の販売数量増加に加えて、円安効果による採算改善なども収益の押し上げにつながっているようです。

 2025年3月期通期では、従来予想の180億円から200億円、前期比20.8%増に引き上げています。上半期の上振れ着地に加えて、原料価格の下落による一段の採算改善も見込んでいるようです。なお、下半期の為替レートの前提は145円であり、さらなる業績の上振れ要素といえます。

 11月7日に決算を発表していますが、当日の株価は11.6%の上昇となっています。7-9月期の収益急回復に加えて、配当予想の引き上げも好感されていいます。年間配当金は従来計画の70円から108円にまで引き上げられています。

 会社側では2025年3月期から2028年3月期までの4期間において、配当性向100%またはDOE(株主資本配当率)2.0%のいずれか大きい金額を目安に配当を実施するとしています。一段の業績上振れの可能性が残る点は、さらなる増配にもつながるものといえます。

 なお、高吸水性樹脂は日本の高齢化社会の到来、新興国の生活水準の向上により、今後の成長余地も大きいと考えられます。

3 LIXIL(5938・東証プライム)

 2011年にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生した国内最大手の住宅設備機器メーカーです。トイレ、洗面化粧台、浴室、キッチンなどのウォーターテクノロジー事業(LWT)、窓や玄関ドア、エクステリア製品、インテリア建材などのハウジングテクノロジー事業(LHT)を展開します。

 世界150カ国以上で事業展開、ショールーム数は16市場116拠点(2023年3月末現在)にのぼります。GROHE、American Standardといった世界的ブランドも傘下に収めています。

 2025年3月期上半期(4-9月期)の事業利益は105億円で前年同期比18.9%増となっています。第1四半期(4-6月期)は6.3億円で同82.9%減であったことから、第2四半期(7-9月期)は急回復となった格好です。

 国内LWT事業は新商品展開などによってリフォーム向け売上高が好調に推移、同事業では海外向けも、新商品効果や構造改革効果で収益底打ちが鮮明化しています。2025年3月期通期計画は350億円で前期比51.1%増を据え置いています。国内外ともにLWT事業の収益回復持続を見込むほか、LHT事業も窓リフォームの受注増加などによって、底打ち反転を見込んでいます。

 10月30日に決算発表を行っており、翌日は11.7%の株価上昇となりました。事業利益は上半期実績が105億円にとどまり、通期計画350億円の達成には依然としてハードルが高い状況であるものの、通期の市場予想は280億円程度の水準にとどまっていたことから、市場コンセンサスの切り上がりにはつながる状況となっています。

 株価の長期低迷が続いていたこと、PBR(株価純資産倍率)は0.8倍程度に放置されていることから、構造改革の効果が顕在化しつつあることを見直す余地が大きいと考えられます。

4 日本M&AセンターHD(2127・東証プライム)

 M&A(買収や合併)支援・事業承継の仲介におけるトップ企業となります。成約実績は4年連続でギネス世界記録に認定されているようです。全国の地方銀行の9割、信用金庫の8割、1,031の会計事務所と提携して、国内最大級のM&A情報ネットワークを構築していることが強みとなります。

 コンサルタント職の人員は700名超、東南アジアを中心に海外拠点も5カ所あります。上場支援サービスなども手掛けており、国内外のプロ投資家向けの株式市場であるTPM向けへの支援会社数は累計で42社となっています。

 2025年3月期上半期(4-9月期)の営業利益は59億円で前年同期比2.9%減となっています。従来計画の45億円は大きく上回る着地になっています。成約件数が伸び悩んで売上高は計画未達でしたが、1件当たりのM&A売上高が堅調に推移したほか、コストの削減なども進んだもようです。

 2025年3月期通期予想は170億円、前期比5.8%増を据え置いています。先行指標となる新規売り受託件数や新規買い受託件数などは順調に拡大し、過去最高水準となっているようです。また、売り受託件数のうち大型案件数も過去最高のようです。

 10月30日に決算を発表し、翌31日の株価は12.4%の上昇となりました。実績値が計画を上回る着地となったことで、過度な業績懸念が後退する形となったようです。第1四半期決算がネガティブな結果となって、その後の株価も低迷していたため、見直しの動きにつながりました。

 年間配当金は特別配当金6円を含む29円計画を継続しています。配当性向60%水準以上の基本方針は継続としていることで、通期業績上振れならば、それに伴う増配も期待できることになります。過去15期間の経常利益年平均成長率は19.4%と成長性が高い銘柄でありながら、高い配当利回り水準であることは注目できるでしょう。

5 FPG(7148・東証プライム)

 オペレーティング・リースを手掛けるリースファンド事業、国内・海外の不動産ファンド事業が主力事業となります。リースでは、航空機リース、コンテナリース、船舶リースなどを手掛けています。2027年4月1日より原則適用開始となる「リースに関する会計基準」においても、同社のリースファンド事業への影響は極めて軽微としています。

 国内不動産ファンド事業では、300億円超の大規模案件を立て続けに組成し、2024年9月期の年間組成額は1,158億円にまで拡大しています。海外不動産ファンド事業でも、事業開始以来初めて単年度内に複数案件を組成しています。

 2024年9月期の営業利益は286億円で前期比56.8%増となり、従来予想の256億円を上回りました。海運案件を主体としたリースファンド事業、国内不動産ファンド事業がけん引、それぞれ年間販売額は過去最高を大幅に更新しています。

 また、2025年9月期は317億円、同10.7%増を見込んでいます。国内・海外不動産ファンド事業の販売額拡大を見込み、リースファンド事業は海運案件を主体とした収益性の高い案件を厳選して組成する方針のようです。ファンド事業の在庫確保は極めて高水準な状態にあり、業績拡大の確度は高いとみられます。

 10月31日に決算を発表、翌日の株価は12.0%高となっています。決算の実績数値が上振れ着地となったほか、2025年9月期の2ケタ増益見通しなど、好決算がストレートに好感されました。加えて、2024年9月期期末配当金は従来計画の67.10円から81.55円に引き上げ、2025年9月期は前期比10.1円増の130.4円を計画とし、一段の配当利回り妙味の高まりにもつながりました。

 さらに、発行済み株式数の1.2%に当たる100万株、20億円を上限とする自社株買いも発表していますが、10月16日に前回の自社株買いを終了したばかりであったため、インパクトが強まる形になったようです。