トランプ氏圧勝から、トランプ・トレードへ
4年に1度のイベントは予想していた接戦ではなく、激戦7州全勝というトランプ氏の圧勝で終わりました。しかも、予想以上に早く決着したのは驚きでした。激戦7州を全勝したことから分かるように、トランプ氏が強かったというよりもハリス副大統領が弱かったという印象です。
トランプ氏の総得票数は約7,483万票(2020年7,422万票)で、ハリス氏の約7,123万票を上回りました。しかし、2020年のバイデン氏の総得票数は約8,100万票だったため、大きく下回っています。米国民は若い世代だけでなく、都市部、富裕層もトランプ氏を選択し、経済問題、特に物価高に対して現政権にノーを突きつけたようです。
トランプ氏の勝利報道後はトランプ・トレードも見られ、長期金利の上昇とともに1ドル=154.70円近辺まで円安が進みました。しかし、翌8日(日本時間)にはFOMC(米連邦公開市場委員会)が控えていたことからポジション調整のドル売りが見られ、152円台へ円高となりました。
8日のFOMCは予想通り0.25%の利下げとなりましたが、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「12月の利下げはデータ次第」と肯定も否定もしなかったため、利下げによるドル売り後は再びドル高となっています。FOMC内部では12月の利下げについて相当意見が分かれているのかもしれません。
パウエル議長はハト派色をにじませながらもタカ派の理事たちを意識して、歯切れがあまりよくない発言が多かった印象です。12月のFOMCまで、データによって相場が右往左往しそうな気配です。まずは13日の米10月CPI(消費者物価指数)に注目です。
FOMC後のドル買いもじりじりと進み、再び1ドル=154円台後半へ円安となりました。しかし、155円手前でもたついている状況です。相場は落ち着いた動きをしており、8年前の勢いのあった円安とは異なった動きをしています。
8年前は予想外のトランプ氏勝利だったことから、政策期待が膨らみ11月中に約13円のドル高・円安となりました。しかし、今回は事前に織り込まれた動きがあったことや、トランプ政権を経験していることから、市場は冷静な動きとなっているようです。
また、8年前はFRBがタカ派姿勢だったこともドル高の要因でしたが、今回はゆっくりですが緩和ペースであるため、そのことも円安を抑制しているのかもしれません。
トランプ政権では円高?円安?どちらなのか。ドル円の今後の見通し
トランプ政権では、関税引き上げ、移民規制、減税などの財政出動によるインフレが懸念されています。来年1月に実際にトランプ第2次政権がスタートすると、長期金利が一段と上昇し、ドル高・円安になるのではないかと懸念されています。
しかし、トランプ政権では、対日政策について関税の引き上げだけでなく、円安是正についても発言してくる可能性に留意しておく必要がありそうです。
第1次トランプ政権でもトランプ氏はドル高をけん制していましたが、今年の4月にドル/円が34年ぶりの1ドル=160円台のドル高・円安になった時には、米国の製造業にとって「大惨事だ」と発言しています。
現在の対米貿易収支は2023年で8.7兆円の黒字となっており、4年ぶりに対米輸出は対中輸出を抜きました。この対米貿易黒字は、トランプ氏が前回勝利した2016年に比べて1.9兆円増えています。
そして、当時2016年のドル/円レートは平均で1ドル=108円台、2023年は平均140円台で、この7年間で3割ほどドル高・円安になっています。加えて、再び円安に動き始めていることから、日本の対米貿易黒字をにらんだトランプ政権からの円安けん制発言には注意する必要があります。
さらに、第1次政権でUSTR(米通商代表部)の代表を務めたライトハイザー氏に再登板を要請したと報じられています。この報道直後は、関税引き上げや通商交渉が厳しくなるとの思惑からトランプ・トレードによるドル高が見られましたが、対中強硬派で知られる同氏は日本に対しても前政権で対米貿易黒字の削減を迫った人物であるということには留意しなければいけません。
同氏の人事はまだ決定してはいないようですが、もし、ライトハイザー氏が第2次政権でもUSTRの代表になった場合は身構える必要があります。来年1月の政権発足前でも対日貿易赤字を縮小するべく対日関税引き上げや円安けん制の発言を行ってくる可能性があるため、市場の警戒心が高まることが予想され、ドル高・円安の頭を抑える材料となりそうです。
ドル/円はトランプ政権発足によって一本調子の円安に向かうというよりも、円安は抑制的な動きになるかもしれません。そして、トランプ氏の政策によってインフレ懸念が再燃すれば、FRBは利下げペースを緩めざるをえないかもしれません。
一方で、トランプ第2次政権で実際に政策(減税、移民規制、関税引き上げ)が実行された場合、インフレ再燃の可能性があります(ドル高)。しかし、同時に金利上昇や貿易取引の鈍化によって、米国だけでなく世界的に景気へ悪影響を与える可能性もあるため、スタグフレーション(物価上昇と景気後退)が起こる可能性も想定されます。
その時は、一時的にドル高になっても金利上昇と景気後退懸念から株は下落し、ドル安の動きになるでしょう。FRBは、インフレ再燃懸念から金融緩和スピードが抑制的になるかもしれませんが、景気後退の可能性も意識し、金融緩和スタンスを継続することが予想されます。
このスタンスは円安を抑制し、景気後退の兆候が見られた時はドル安環境に転ずるシナリオも想定されます。
トランプ政権の政策によるインフレ懸念、長期金利上昇によるドル高シナリオと、インフレ再燃、長期金利上昇による株下落、景気後退懸念という二つのシナリオを同時に想定しておく必要があると思われます。それにFRBの金融政策という要因が絡むためシナリオは複雑になることが想定されますが、一方向に進むと思い込むのではなく、相場に柔軟に臨む必要がありそうです。
さらに、金利上昇とドル高シナリオの場合、日本銀行にとっては追加利上げをやりやすい環境になっていることが予想されます。日銀の追加利上げ観測の高まりは円安を抑制し、円高バイアスが高まる可能性についても留意しましょう。
イーロン・マスク氏の活躍に注目
もう一点、イーロン・マスク氏の活躍に注目したいと思います。大統領選勝利の演説後の家族写真に一緒に写ったイーロン・マスク氏は、トランプ氏の信頼も厚く、テクノロジーを用いた政府効率化を期待されています。
コストカッター(経費削減男)と呼ばれる同氏の活躍によって政府支出の削減効果が期待されれば、長期金利が低下してくるという見方があり、これはドル安要因です。トランプ氏は彼を天才と呼んでいますが、政治家と官僚の大組織の中で同氏の活躍が続くのかどうか注目したいと思います。天才の行動はトランプ氏でさえも分からないかもしれません。
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