「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第55回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日のクイズ
今回は、半導体関連株について学ぶクイズを二つ出します。
【第1問】以下は、日経平均株価と半導体株指数の動きを比較するグラフです(2012年1月末の値を100として指数化)。半導体株指数の動きを示しているのは、【A】【B】のうち、どちらでしょう?
日経平均と半導体株指数の月次推移:2012年1月~2024年11月(12日)
【第2問】半導体関連で、日本が強みを持つ(世界シェアの高い企業が多い)のは、どの分野でしょう? 以下【1】【2】【3】から、二つ選んでください。
【1】半導体メーカー(半導体の設計・開発、または製造を行う会社)
【2】半導体材料メーカー(半導体に必要な材料を生産する会社)
【3】半導体製造装置メーカー(半導体製造に必要な装置を生産する会社)
半導体は第四次産業革命に不可欠
世界中で、「第四次産業革命」と呼ばれる変化が、急速に進んでいます。そのインフラを支えるのに不可欠な部品が、半導体です。
あらゆる経済活動などをデータ化してビッグデータを作り、AI(人工知能)を活用して分析し、新たな付加価値を生むビジネスが次々と登場しています。この変化を、第四次産業革命と呼びます。
その恩恵は、私たちの生活の隅々に急速に浸透しつつあります。最近、めざましく進化を遂げているのが「生成AI」です。生成AIの活用によって、これまで人間にしかできないと考えられていたさまざまな業務が効率的に遂行できるようになってきました。人間を超えるパフォーマンスを出す分野も増えています。
IoT(モノのインターネット化)が進み、パソコン・スマホだけでなく、家電製品、自動車、産業用機器、ロボットなどあらゆるハードウエアで半導体が使われ、ネットにつながるようになりました。
IT革命→インターネット革命→AI革命と、言葉は変わっていきますが、第四次産業革命によって、世界中で付加価値を生むビジネスの仕組みが、大きな変化を遂げつつあります。それに伴い、半導体の高度化、成長が続いています。
正解
【第1問】半導体株指数の動きを示しているのは【A】です。【B】は日経平均です。
再掲:日経平均と半導体株指数の月次推移:2012年1月~2024年11月(12日)
【第2問】日本が強いのは、【2】半導体材料と、【3】半導体製造装置です。
残念ながら、【1】半導体メーカーとして強い会社は、今の日本にはありません。
1980年代には、日本の総合電機(NEC、日立製作所、東芝)が、半導体で世界トップの座を、米国から奪いました。ところが、1990年代以降、日本の半導体産業は凋落し、かつての力はまったくありません。今は、米国のエヌビディア、AMD、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子などが、世界の半導体産業を支配しています。
ただし、日本は、半導体材料・半導体製造装置では、依然として世界的に高い競争力を維持しています。半導体シリコンウエハで信越化学工業(4063)・SUMCO(3436)が世界過半数のシェアを握っています。また、半導体製造装置で東京エレクトロン(8035)、半導体テスターでアドバンテスト(6857)が高い競争力を有しています。
半導体は成長産業、半導体関連株への投資価値は高いと判断
改めて、日経平均と半導体株指数の動きを示した、上のチャートをご覧ください。日経平均は、2012年1月末との比較で4倍超に上昇しています。かなり良いパフォーマンスです。ただし、半導体株指数は、同じ期間に9倍超に上昇しています。
半導体は成長産業であり、半導体関連株に投資することが資産形成に寄与すると思います。ただし、半導体関連株に投資するのは簡単ではありません。投資タイミングをはかることがとても難しいからです。
上のチャートを見ると分かる通り、半導体関連株は、しばしば急落します。急落・急騰を繰り返しながら上昇していくのが、半導体関連株です。
半導体産業には、シリコン・サイクルといわれる好不況の波があります。誰もが強気で半導体メモリの好調が続くと思っているときに突然ピークアウトし、半導体不況が始まります。もう半導体では稼げないと思われている半導体不況の大底から、突然急回復が始まり、空前の半導体ブームになります。
みんなが強気の時に買うと大損し、みんなが弱気の時に買うとすごくもうかることが多かったのが、半導体関連株です。だから、投資タイミングをはかることがとても難しいのです。
投資タイミングをはからず、半導体株に淡々と分散投資していくのが良い
半導体株を、良いタイミングで買って良いタイミングで売ろうとしない方が良いと思います。うまく売買しようと思うと、かえって最悪のタイミングで売買してしまう可能性があるからです。
そのことをご理解いただくために、過去26年のシリコン・サイクルと半導体関連株の値動きを簡単に解説します。まず、世界の半導体出荷金額の推移をご覧ください。
世界半導体出荷額(3カ月移動平均):1998年1月~2024年9月
半導体の需要は常に増加し続けていますが、半導体出荷額は減少することがあります。半導体市況が大きく下落する時に、出荷額が減少します。最先端の半導体の開発競争がこのような変動を生じさせます。
半導体では、常に微細化・高機能化の開発競争が行われています。最先端の半導体は、なかなか歩留まり【注】が上がらないため、供給不足で価格が高止まりします。そのうち、量産に成功する企業が出始めるとばく大な利益を稼ぎ、半導体ブームとなります。
【注】歩留まり(ぶどまり)
工場で生産される半導体から、「不良品」を取り除いた出荷可能な「良品」の比率を、「歩留まり」という。最先端の半導体は、生産が難しく、当初、歩留まりが低い。技術がこなれて生産が軌道に乗ると、歩留まりが上昇する。
ところが、量産に成功する企業が増えると価格は大きく下がり、半導体メーカーの収益が悪化して半導体不況になります。このような循環が半導体メモリといわれる、かつての半導体の主戦場で起こっていました。今は半導体の種類が増え、少量多品種のカスタム品が増えたこともあり、昔ほどの激しいシリコン・サイクルはなくなりました。それでも開発競争は続いています。
今はAI半導体の開発競争が激しくなっています。そこで先行しているエヌビディアが巨額の利益をあげています。その生産を受託している台湾TSMCも好調です。ただし、AI半導体もいずれ量産に成功する企業が増えると価格が低下するはずです。それがいつになるのかは分かりません。
このように、半導体の開発競争が続く限り業界特有のシリコン・サイクルはなくなりません。それが上のグラフに見られるようなサイクルを生じさせています。
半導体関連株は、シリコン・サイクルを先取りして動く
最初に申し上げたように、半導体関連株は半導体不況の最中に次のブームを織り込んで急騰し始め、半導体ブームの最中に次の不況を織り込んで急落する傾向があります。
近年のシリコン・サイクルと半導体関連株の動きをざっくりまとめたのが、以下の表です。
シリコン・サイクルと半導体関連株の動き:2017年~2024年10月
表の説明をよく読んでいただくと気づくと思いますが、半導体関連株はこれまでシリコン・サイクルを1年くらい先取りして動いてきました。
【1】半導体ブームの中で関連株が急落した2018年
シリコン・サイクルでは上昇局面なのに、株価が急落しているのが2018年です。厳密にいうと半導体業界が大ブームに沸いていたのは2018年前半まででした。年後半は、ブームの中心にあったフラッシュメモリ(データセンターやスマホの記憶媒体に使われる半導体)やDRAM(一時的なデータ保存に使われる半導体)の需給が緩み、市況が下落し始めていました。
さらに、米中ハイテク戦争の影響を受けて、中国での需要鈍化が鮮明になりました。半導体ブームの終焉(しゅうえん)を先取りして、日本の半導体関連株は2018年の1年間にわたり大きく下がりました。
【2】半導体不況の中で関連株が急騰した2019年
2019年になり半導体不況が始まると、株価は逆に急騰を始めました。次のブームを織り込む動きが始まっていました。
【3】半導体ブームの中で関連株が急落した2022年
2022年はまだブームが続いていましたが、メモリ市況が下落するなどブーム終焉を思わせる事象が現れていました。次の不況を織り込んで株価は急落しました。
【4】半導体不況の中で関連株が上昇し始めている2023年
2023年は「半導体不況の年」ですが、半導体関連株は急騰し始めました。2024年からのブーム復活を先取りした動きと考えることができます。
【5】2024年の後半に入って半導体関連株が急落
今年、半導体関連株が急落した理由として二つの可能性が考えられます。
一つは、2025年からまた半導体不況になるのを織り込んでいる可能性です。
もう一つは、半導体ブームの中での一時的な調整の可能性です。
どちらなのかは現時点では分かりません。2025年になってから分かることでしょう。
このようにシリコン・サイクルを読むのは難しく、半導体関連株の買い時をはかるのはとても難しいことです。徹底的に勉強して良いタイミングでの売買を目指すか、あるいは、売買タイミングを考えずに、常に一定比率の半導体関連株を持ち続けるか、どちらかが良いと思います。
最後に、私の著書出版のお知らせです。
テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく学びたい方へ
8月1日に、私の「株トレ」新刊が、ダイヤモンド社より出版されました。
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」
一問一答形式で、株式投資のファンダメンタルズ分析を学ぶ内容です。
2021年12月出版の前作「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」の続編です。
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