資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。
お悩み
NISAの成長投資枠を使って高配当株へ投資をしたい
三宅千佳さん(仮名)会社員・40歳(既婚、ご主人も会社員、子ども2人)
仕事は定時で帰っているが、子どもの世話で毎日忙しくしている三宅さん。子どもが小学生になったので、多少ですが自分の時間も取りやすくなってきました。
その時間を使って、今後の家庭の資産形成についてどうしていくかを改めて考え直していました。以前友人たちと一緒にNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)のつみたて投資枠で積立投資を始めてからちょうど1年がたって、少しずつ投資にも慣れてきていました。
最初は慎重に投資をしようと金額を抑えて積立投資をしていましたが、慣れてきたのでもう少し増額してもいいかなと思ってご主人に相談してみたところ、少しは成長投資枠も使ってみようという話になり、高配当株への投資を検討することになりました。
積立投資の増額もいいかなと思っていましたが、配当金が年に2回もらえるという積立投資にはない魅力を知って、さっそく高配当株の銘柄選びをすることにしました。すると、配当を出している銘柄が思っていた以上にたくさんあって、どんな基準で選んだらいいのか悩んでいます。
三宅さんのようにNISAの成長投資枠をうまく活用するにはどうしたらいいのでしょうか?
「NISAで高配当株投資」ではどんな銘柄が選ばれているのか?
高配当株への投資はもともと個人投資家の間で人気があり、「配当」の魅力は非課税口座のNISAによってさらに高まっています。
ただし、NISA口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなるので注意が必要です。
では、みなさんNISAの成長投資枠を使ってどんな株式を保有しているのでしょうか? 下の表は2024年10月末時点の楽天証券でのNISAの国内株式保有残高ランキングをまとめたものです。すると、上位10銘柄中8銘柄は配当を多く出しており、うち5銘柄は3.0%を超えています。
やはり高配当株式はNISAでも人気が高いようですが、その中でも投資が成功している人と失敗している人がいます。そこで今回は、「NISAで高配当株投資」がうまくいかない理由についてお伝えしたいと思います。
NISAで高配当株投資がうまくいかない理由1:安定業績の企業で長期投資=ローリスクと誤解している
高配当株への投資に興味を持つ方は、成長性の高い企業よりも歴史があり業績も安定している企業の中で配当が高い銘柄を選ぶ傾向にあります。これは銘柄選びとしては正解の一つだと思いますが、中にはこうした企業の銘柄であれば配当も高いし安定した投資ができると勘違いしているケースが多々あります。
安定した投資とは、つまりリスクが低い=「投資資産の価格変動の幅が少ない投資」ということです。長期的に安定した高い配当を出せる優良企業であれば、投資先として長期保有するのにふさわしいと思いますが、株式投資なのでリスクが低いわけではありません。
あえて言うなら「株式投資の中では」相対的にリスクが低いと言えるかもしれませんが、基本的には日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)に連動するようなインデックス投資や債券投資に比べるとリスクが高いと言えるでしょう。
個人投資家の心理として、優良企業であれば長期投資をしても損をしないと考える方は一定数います。しかしここで問題になるのは、長期的な目線の話ではなく、高配当株式の価格変動がご自身のリスク許容度の範囲内かどうかという話です。長期投資という言葉で判断を終わらせずに、投資目的にあった投資商品なのかをしっかり確認しましょう。
NISAで高配当株投資がうまくいかない理由2:高配当銘柄の選び方を間違えている
魅力的な高配当株とはなんでしょうか? それは株価が長期的に上昇しつつも、高い配当利回りを維持できている銘柄だと私は考えています。配当利回りは以下の計算式で算出されています。
配当利回り(%)=(1株当たりの年間(予想)配当金÷株価)×100
株価が上昇すれば配当利回りは下落し、株価が下落すれば配当利回りは上昇します。つまり、株価の上昇によって下落した配当利回りを維持するためには配当金を増やす必要があり、配当金がそのままでも株価が下落すれば配当利回りは上昇することを意味しています。
しかし、高配当銘柄といわれる銘柄であっても配当利回りは3~5%程度ですので、ほとんどの銘柄で年間の株価変動率の方が配当利回りより大きくなります。そして配当利回りが極端に高いというのは株価の下落が理由であることがよくあります。
個人投資家は「利回り」という言葉に惑わされがちですが、大切なのは配当利回りと株式売買益をあわせたトータルの収支です。そのためにも、ただ業績が安定している企業や昔からある大企業というだけではなく、少しでも業績が上昇している企業や今後利益の上昇が見込める業界などから高配当銘柄を選ぶようにしましょう。
NISAで高配当株投資がうまくいかない理由3:株価の値動きに一喜一憂してしまう
株式投資のやり方は人それぞれで、長期投資をする人もいれば短期的な投資を繰り返す人もいます。あまりにも短期的な投資は投機のようになるのでおすすめはできませんが、1年間の間で起きるイベントや相場変動をうまく捉えて利益を継続的に出している人もいるのは確かです。
では、高配当株投資はどの程度の期間的な目線で投資をするべきなのでしょうか? 私は長期的な目線で考えるべきだと思います。配当金は国内株であれば年1~2回、米国株なら年4回程度の銘柄が一般的です。もちろん、配当がもらえる権利落ち日の翌日には配当予想分の株価が下落することはよくあります。
短期的な投資では、高配当株の高い配当という魅力を目的とした投資にはなりません。結果的に短期投資になることはあっても、投資する時には少なくとも3~5年程度の投資であると考えて銘柄を選び、日々の株価に一喜一憂しないようにすることが大切です。
配当が欲しいから権利落ち前に株式を購入するのではなく、魅力的と思える高配当株を見つけたら、そこからどの程度の金額をどのくらいの期間を使って株式を購入するのかを考えてみましょう。リスクの高い、値動きの大きい投資先ほど一括購入でなくて買い付け時期をある程度分散することが高値づかみをして失敗しないためにも有効です。
「NISAで高配当株投資」の銘柄選びは慎重に
高配当株投資はローリスクではないが魅力的な投資
高配当株投資は国内株でも海外株でも根強い人気があります。ネット証券の保有残高をみると国内株の方が成長性よりも配当が高い銘柄が選ばれている傾向になり、米国株などは高配当株よりも成長性や自社株買いで株価の上昇を重視している企業の銘柄が選ばれているようです。
投資信託では米国株の高配当株を対象として新規設定銘柄も出てきて残高を増やしており、やはり高い人気であると見て取れます。米国株には過去何十年も継続して高い配当を出している銘柄も少なくないため、今後はますます人気が出てくるでしょう。
ただし、株式投資なので個別株ならリスクは高いと言えますし、投資信託で数十銘柄に分散投資されているとしてもリスクはそれなりにあることは、高配当株を対象とした株式指数の過去の値動きからも分かるはずです。
高配当株投資はローリスクとはいえませんが、魅力的な投資であることに違いありません。自分の投資目的の許容できるリスクを理解した上で検討してみましょう。
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