世界中が注目した米大統領選挙が今週11月5日(火)に行われました。
当初は大接戦も予想され、結果が判明するのに時間が掛かるとの見方もあったのですが、いざふたを開けてみれば、共和党候補のトランプ氏の勝利が思ったよりも早い段階で確定的となりました。
さらに、大統領選と同時に実施された議会選挙についても、上院・下院ともに共和党が過半数を占める勢いとなっており、いわゆる「トリプル・レッド(共和党が大統領と両院を占める)」が見込まれています。
こうした状況を受け、日米の株式市場は大きく上昇する反応を見せています。
開票動向が随時報じられていた6日(水)の国内株市場では、トランプ氏の優勢とともに日経平均株価が値を伸ばし、前日比で1,000円を超える上昇となったほか、先物取引市場でも、ナイトセッション入りした午後5時半前に日経225先物(大取の中心限月)が4万円台に乗せ、4万170円まで値を伸ばす場面がありました。
その後にオープンした米国株市場でも主要株価指数が大きく上昇し、ダウ工業株30種平均(NYダウ)やS&P500種指数、ナスダック総合指数がそろって史上最高値を更新しました。トランプ氏が掲げる減税や規制緩和などの「マーケット・フレンドリー」な政策期待や、大統領選挙があっさりと勝敗が決したことによる安堵(あんど)感も買いを誘ったと思われます。
このように、トランプ氏勝利に対する日米株式市場の初期反応は良好だったわけですが、重要なのはこの先の相場展開の方です。
市場の内外では、早くも「トランプ大統領の復帰で今後はどうなる?」的な議論が、政治・経済・外交面などのさまざまな切り口で活発化していますが、結局は「予測不能なトランプ氏」という強いキャラクター性を前に、複数の可能性を想定するのにとどまっています。
とはいえ、「出たとこ勝負」で相場に臨むわけにはいきませんので、今回のレポートでは、足元の株価の動きの確認と、吉兆予想し難い「株価材料トランプ」への視点について整理して行きたいと思います。
実は日経平均の状況はあまり変わっていない?
まずは、国内株市場の動きを日経平均で捉えて行きます。
<図1>日経平均(日足)の動き(2024年11月7日時点)
冒頭でも述べたように、トランプ氏勝利濃厚が伝わった6日(水)の日経平均は前日比で1,000円を超える上昇となりました。上の図1を見ても、この日のローソク足が大きな陽線(終値が始値よりも高い線)を形成し、5日と25日の2本の移動平均線を上抜ける「2本抜け」となっていることが分かります。
一応、上方向への意識を強める格好となりましたが、翌7日(木)の取引では、上昇スタートとなったものの、下落に転じてこの日を終えているほか、高値についても、9月末の自民党総裁選時の値幅(9月27日の高値と9月30日の安値)内での推移が継続したままとなっており、現時点ではまだ相場に新たな方向感が生まれていません。
そのため、日経平均の状況はあまり変わっていないと言え、この状況を脱するには、少なくとも4万円台乗せを定着させる必要があります。
米国市場は株式と債券で「見ている景色が違う」可能性
続いて、米国市場についても見て行きます(下の図2)。
<図2>米主要株価指数の動き(2023年末を100)(2024年11月6日時点)
繰り返しになりますが、6日(水)の米主要株価指数はそろって史上最高値を更新しています。上の図2でも、足元で急上昇していることが読み取れます。
株式市場では、トランプ氏の勝利を織り込む「トランプトレード」が選挙前の先月半ばあたりから始まっていたこともあり、達成感などで売りが出てくることも想定されていたのですが、実際のマーケットはさらに上値を伸ばす格好となりました。
また、「新値は買い」という相場格言通り、引き続き株価上昇を続けて行けるかが焦点になりますが、こちらのレポートでも指摘したように、足元の米国株は割高感があるため、ここから先は、割高感を意識しながら上値をトライすることになります。
そして、株価が高値を更新する一方で、下段のMACDが下向きとなる「逆行現象」が発生しており、トレンドの下方転換を示唆するサインが出ていることも押さえておく必要があります。
その一方、株式とは異なる動きとなっているのが米国の金利です。
<図3>米10年債利回り(日足)の動き(2024年11月6日時点)
上の図3は米10年債利回りの日足チャートですが、足元の利回りが4.4%台に乗せるなど、金利の上昇傾向が続いています。
株式市場はトランプ氏の政策のポジティブな面を反映していましたが、債券市場の方は、関税強化や移民政策、財政出動による財政赤字懸念、インフレ再燃警戒など、ネガティブな面が反映されたと考えられ、株式と債券市場とで見ている景色が違っている印象です。
一般的に、株価の上昇と金利の上昇が併存する状況は継続しにくい(通常は逆相関の場面が多い)ため、相場のムードはポジティブとネガティブのあいだで揺れ動きながら、市場間のギャップを修正して行くことになりそうです。
トランプ氏の政策のポイントは?
そこで、あらためてトランプ氏の政策について整理し、ネガティブ面ついてもう少し掘り下げておく必要がありそうです。
まず、トランプ氏の掲げる主な施策は下記になります。
- 減税(トランプ減税の恒久化、法人税率引き下げ)
- 関税強化
- 不法移民対策
- 規制緩和(エネルギー開発など)
これらの政策の進捗(しんちょく)度合や手を付ける順番、そしてその内容などによって、景気刺激効果や米財政への影響、インフレ再燃の可能性などを推し量っていくことになります。
そこで参考にしたいのが、米国の上下院の元議員らが超党派で構成する「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」が10月7日に公表した、大統領選挙の両候補者の政策に伴う財政上の影響についての試算です。
この試算では、今後10年間の中心値でハリス氏が約3.5兆ドル、トランプ氏が7.5兆ドルの赤字増加が見込まれています。
<図4>今後10年間で予想される米政府の債務増加額の試算(2026年度~2035年度)
さらに、責任ある連邦予算委員会は、その内訳についても示されています(下の図5)
<図5>トランプ氏の政策による財政への影響の内訳
上の図5で目立つのは、やはり減税による財政支出の負担増が大きいことです。「トランプ減税の恒久化」と「減税・税額控除」と合わせて10年間で9兆4,500億ドル規模になります。
具体的な内容としては、トランプ前政権時代の2017年に成立した「トランプ減税」のうち、2025年末に期限を迎える個人所得減税などを恒久的に延長することや、相続税や贈与税の基礎控除額の増加、そして法人税率の引き下げなどです。
今回の米大統領および議会選挙で「トリプル・レッド」が濃厚となる中、法案可決へのハードルはかなり低くなったと言えますが、政策規模が巨大なだけに、景気への好影響と同時に、米国債の格下げ観測などが高まりやすいため、今後の格付け機関の動向や、米国債の入札状況などに警戒する必要がありそうです。
そして、目立っているもう一つの点は、収入項目にある「関税強化」です。こちらは10年間で2兆7,000億ドルの収入増が見込まれています。
トランプ氏は選挙戦の期間中に、全ての輸入品に10%の一律関税をかけると主張し、税率については20%と発言したこともあるほか、中国製品には60%を課すとの発言も出てきています。
上の図5を見ても分かるように、関税による収入寄与度はかなり大きく、トランプ氏が財政悪化を緩和させるために、関税強化にかなり力を入れてくる可能性がありそうです。
関税は輸出側ではなく輸入業者が支払う制度のため、米国内での販売価格に転嫁される公算が大きく、インフレを誘導したり、相手国からの報復措置を招く恐れがあります。
そのため、関税強化は段階を踏みながら進めて行く可能性が高そうですが、一気に一律関税をかける動きになった場合にはインフレ警戒が高まるかもしれません。
気になるあの人物、イーロン・マスクの存在
そして、もう一つ気になるのが、マスク氏の存在です。今回の大統領選挙における功労者の一人でもありますが、同氏が政権内においてどのようなポジションに就くのかも焦点になりそうです。
マスク氏はEV(電気自動車)製造企業のテスラの経営者であり、テスラ社は中国でビジネスを展開しています。前回のトランプ政権時は中国に強い圧力を掛けていましたが、マスク氏の影響で中国に対するアプローチがこれまでとは異なってくるかもしれません。
例えば、半導体などの先端技術に関する品目や、米国内の小売業を圧迫しているSHEIN(シーイン)やTemu(テム)といったディスカウントEC(電子商取引)業者など、的を絞って中国へプレッシャーをかけることなどが考えられます。
もっとも、トランプ氏の大統領就任は来年1月になるため、本格的に政策が動き出すまでには、まだ時間がありますが、その間に、トランプ氏の不規則かつ予測不能な発言が出てくることも想定されるため、しばらくは「トランプ発言」に市場が振り回される場面が増えるかもしれません。
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