トランプ氏が米大統領に返り咲き。上院でも4年ぶりに多数派を奪還
2024年11月5日(現地時間)、米国で大統領選挙が行われ、共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のカマラ・ハリス氏を破り、アメリカ合衆国の次期大統領に当選しました。米大統領が一度再選に失敗した後、この地位に返り咲くのは132年ぶりの出来事で、史上2人目の「快挙」となりました。
私自身、11月6日午前8時(日本時間)に開票が始まってからというもの、頻繁に複数のメディアがリアルタイムに報じる開票速報に目をやっていました。午前中からお昼くらいにかけては、「トランプ氏が飛ばしているなあ。でもまだまだ序盤。まったく分からない」くらいの感覚で見ていましたが、午後になると、「これはもうトランプで決まりなんじゃないか。激戦州と言われる7州でもトランプリード。ただハリスによる巻き返しもあり得る」という感想へと変わっていきました。
そして、17時30分ごろ、楽天証券が開催した「アメリカ大統領選挙緊急特番」のライブトークに生出演したころには、トランプ氏はすでに勝利演説を行っており、まだ当確ではなかったですが、「トランプ政権の再現」を前提に話していました。同時に行われた議会選挙においても、上院が4年ぶりに多数派を奪還、残る焦点は、下院がどうなるかに絞られたという様相を呈していました。
私が本稿を最終確認している11月7日午前11時時点(日本時間)において、下院選挙(全435議席)を巡っては、共和党が204議席、民主党が189議席を獲得、いずれも過半数の218議席には届いていない状況で、残る42議席をどちらが奪うかという状況です。
選挙前、上院は民主党、下院は共和党が多数派を占めていましたが、今回すでに上院で多数派を占めている共和党が下院も獲れば、トランプ大統領率いる共和党はいわゆる「トリプルレッド」を実現し、注目される「トランプ関税」を含め、政策が実行しやすくなります。米国から発せられるあらゆる政策における「トランプ色」が強まるとも言えるでしょう。それが吉と出るか凶と出るかに関しては、今後の情勢を注視していく必要があるでしょう。
中国政府がトランプ氏勝利を迅速、慎重に祝った背景にある三つの意図
本連載が動向を追う中国も、米大統領選挙の模様を、固唾(かたず)を飲んで見守っていたことでしょう。中国が米大統領選挙をどう見ているかに関しては、先週のレポート「中国は米大統領選をどう見ているのか。八つの視点から解説」で扱った通りですが、ここでは、その結果がいまだ完全に確定していない選挙に対する中国側の現時点における反応をのぞき込んでみたいと思います。
中国政府は11月6日23時30分(北京時間)、中国外交部報道官の名義で「我々は米国国民の選択を尊重し、トランプ氏の大統領当選を祝福する」と、短く声明を発表しました。
今後、中国共産党指導部や政府からどのような声明や談話が発表されるのかを注視したいですが、この声明文には、三つの意味が込められていると私は理解しました。
一つ目が、中国政府として、トランプ氏の当選、これから発足に向けて動き出すトランプ政権に対して、慎重な姿勢を持っているという点です。習近平(シー・ジンピン)国家主席や李強(リー・チャン)首相、あるいは王毅(ワン・イー)外相ではなく、「外交部報道官」という名義を使ったという事実は重要だと思います。
二つ目が、中国政府として、トランプ第2次政権との関係を安定、前進させるという姿勢を有しているという点です。開票が進む中、トランプ氏の勝利は当確したとはいえ、11月6日中に祝福の声明文を出した事実は、習近平政権としての政治的意思を表していると言えます。
三つ目が、中国政府として、米国側にも「中国人民の選択を尊重してほしい」という注文を付けている点です。習近平政権が米国の対中政策で最も嫌がるのが、中国共産党や中国の特色ある社会主義といった政治体制やイデオロギーへの批判とけん制というのが私の理解です。米国には米国の体制や価値観があるように、中国にもそれらがある、我々は米国のそれらを尊重するから、米国にも中国の体制や発展モデルを尊重してほしいというけん制でしょう。
米中関係はどこへ?
トランプ氏の勝利を受けて、米中関係はどこへ向かうのでしょうか。米中関係を巡る基本的な「型」は、台湾問題や中国経済など、日本の経済・安全保障環境に質的な影響を与えるファクターを考える上での前提条件になります。
今後の見通しとして、私は三つのポイントに着目する必要があると考えています。
1.「トリプルレッド」が実現するか
トランプ氏は、大統領就任後、中国の全ての商品に60%の関税を課すと公言してきました。台湾海峡を封鎖した場合には、150~200%課すとすら言っています。議会の両院が共和党多数で占められれば、トランプ氏が掲げる政策は当然実行しやすくなり、「ねじれ」ている状況と比べて、「対中強硬」の傾向は強まる、言い換えれば、米中関係が不安定化しやすい要因となり得るでしょう。
2.トランプ第2次政権にだれが「入閣」するか
トランプ第1次政権を振り返ってみると、トランプ氏の個人的な嗜好(しこう)が政策に反映されたケースも多々ありますが(就任初日のTPP(環太平洋連携協定)脱退など)、政策の実行プロセスにおいては、対中通商や台湾問題を含めて、側近たちの意見が相当程度影響していたようにも見受けられます。
例えば、第1次政権で通商代表(USTR)を務め、今回も政権入りが濃厚なロバート・ライトハイザー氏は、米中貿易戦争の勃発、激化に深く関与した人物ですが、中国との通商関係に関して、
「戦略的デカップリングは均衡と公平を達成し、重要な依存関係を排除するために実施されるべきだ」
「関税を高騰させ、中国の最恵国待遇を打ち切り、国家間の投資を遮断し、中国のソーシャルメディア企業をブロックし、技術協力を停止し、現在4,000億ドル近くある中国の貿易黒字がなくなるまでこの措置を続ける」
などと述べています。こういった側近たちの考え方が、トランプ第2次政権の対中政策にどう、どこまで影響するのか。トランプ氏一人の考えで政策が決定、実行されるわけではない、という点を念頭に置いておく必要があるでしょう。
3.トランプ、習近平両氏がどのような「個人的関係」を構築するか
日本の安倍晋三元首相との関係にも露呈されていたように、トランプ氏は諸外国との外交関係に向き合う際、その国の首脳がどういう人間なのかという点を重視する傾向があるように思います。安倍元首相は、トランプ氏の心をがっちりつかみ、しかも信頼されていました。
習近平氏はどうでしょう?確かに、政策レベルでは、トランプ第2次政権ではバイデン政権以上に「対中強硬」色が強まる可能性が高いです。一方、習近平氏は過去に4年間、トランプ氏と向き合った経験値を有しており、首脳同士として対したことがなく、かつ女性であるハリス氏と比べれば、「相手に不足はない」という思いを持つに至るのかもしれません。
トランプ、習近平両氏の個人的関係ややり取りが、米中関係、そしてその先にある世界経済や地政学情勢(例えば、欧州と中東で続く戦争をどう止めるか)にどんな影響を与えていくのか、注目していきたいと思います。
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