円安の材料と背景
ドル/円は1ドル=150円を超えてから、ドル高要因と円安要因によって目立った押し目もなく、あっさりと1ドル=153円台後半の円安となりました。今週から来週にかけて重要イベントがめじろ押しですが、まずはこの円安の背景を振り返ってみます。
- 9月中旬のFRB(米連邦準備制度理事会)の0.50%の利下げ以降、米経済指標は軒並み堅調だったことから、FRBの利下げペースが遅くなるとの見方が浮上。特に10月に発表された米9月雇用統計以後は、年内2回の利下げ観測が1回との見方も浮上し、FRB高官からも利下げを慎重にする必要があるとの発言が相次いだ。従って、11月利下げも含め、FRBは年内利下げを慎重に進めるのではないかとの思惑が強まったことがドル高要因の一つとなった。
- 米大統領選でトランプ候補が優勢との見方から、トランプ氏の政策(減税による財政拡大、関税引き上げ、移民制限)によるインフレ再燃懸念から米長期金利が上昇し、ドル高要因となった。
- 日本銀行の植田和男総裁は、24日の*G20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、追加利上げの判断までには「時間的な余裕がある」と9月の日銀会合後と同じ考えを述べた。円安が物価に与える影響については、米経済の動向や米大統領選などを含めて「丹念に分析して見極めていく」として追加利上げに慎重に判断する考えを示したことから、早期利上げ観測が後退し、円売り要因となった。
- 27日の衆院選の結果、自公過半数割れによって政局混迷が嫌気され、円売り要因となった。今後の政局も新たな連立政権の枠組み、首相指名選挙(11月11日)など不確実性が高まる中では、日銀が早期の追加利上げに踏み切ることはできないだろうとの思惑からも円売りが進んだ。また、部分連立となれば、財政拡張路線に向かう可能性もあり、米国と比べて財政の健全性が劣る日本の財政赤字拡大は円安材料にもなっている。
*G20…G7の7カ国にアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合・欧州中央銀行を加えた20カ国・地域
米大統領選挙ほか、重要イベントが続く今後のドル円見通し
以上のように、FRBの利下げ観測後退、米大統領選後のインフレ再燃懸念による米長期金利上昇、日銀の追加利上げ慎重姿勢、日本の政局混迷によってドル高、円安となりました。これらの要因が続くかどうかが今後の注目点となります。
ただ、今週から来週にかけては、重要イベントがめじろ押しであり、相場は上下に振れることが予想されるため注意が必要です。重要イベントの日程は以下の通りです。
10月30~31日 日銀金融政策決定会合
10月30日 ユーロ圏7-9月期GDP(国内総生産) 10月ADP雇用統計 米国7-9月期GDP
10月31日 米9月PCEコアデフレーター
11月1日 米10月雇用統計
11月5日 米大統領選挙
11月6~7日 FOMC(米連邦公開市場委員会)
11月11日 日本の首相指名選挙
日銀会合では24日の植田総裁の発言と変わらず、判断するまで「時間的な余裕がある」として、米国景気や米大統領選挙を見極めて判断するとの内容になるのではないかと思われます。ただ、日本の選挙結果は24日の発言後に明らかになったため、政局がどのように影響するのか注目です。
与野党とも景気や物価高対策を最優先と考えていることから、1ドル=150円以上の円安に対するけん制発言や日銀に対する注文が選挙前よりも強くなるかもしれません。
植田総裁は、ドル/円が1ドル=150円を超えていても、米景気のソフトランディング期待が高まっていても、「時間的な余裕がある」と言い続けていますが、そう言っている間に円安対策としての利上げと景気対策としての利上げ時期後ろ倒しとのジレンマに陥り、動きづらくなるのではないかと懸念されます。
そのような状況を海外投資家に見透かされると、円がさらに売られるかもしれません。
米国の景気と物価、雇用については、30日の米7-9月期GDPは実質年率で3%の予想と強い数字になっていますが、31日のFRBが注目する米9月PCEコアデフレーターが弱く、11月1日の米10月雇用統計が弱い場合、金利低下、ドル安の動きとなることが予想されます。数日で反対の動きになることも予想されるため注意が必要です。
米雇用統計の雇用者はハリケーンやストライキの影響によって予想は11万人と、前月25.4万人の増加から大きく低下する予想となっています。この低下予想は市場ではほぼ織り込まれているとはいえ、予想を上回ったり、下回ったり、また、過去2カ月分の修正などによっては波乱材料になるため注意する必要があります。
29日に発表された9月JOLTS(雇用動態調査)求人件数は744.3万件と予想800万件を大きく下回りました。この結果を受けてドル売りとなったものの、同時に発表された10月消費者信頼感指数が予想を上回ったため、元の水準に戻りました。
しかし、11月1日の米雇用統計は予想を下回るのではないかとの思惑が高まっています。下方リスクを警戒すると同時に、その思惑が高まっていることから、逆の結果が出た時の動きにも注意する必要があります。
また、米雇用統計の結果は米大統領選挙にも影響を与える可能性があります。雇用統計が弱ければドル売りとなりますが、弱い雇用統計は現政権にとって不利な材料となるため、トランプ優位となり、時間差で金利高、ドル高となるシナリオも想定されます。市場の反応は読みづらいところがある点にも留意しなければなりません。
さらに11月5日の米大統領選挙では、すでにトランプ・トレード(債券売り<金利上昇>、ドル高)が市場に織り込まれて動いていますが、実際に結果が出た時にその動きが加速するのかどうかにも注意する必要があります。
「Buy the rumor, sell the fact」(「うわさで買って事実で売る」)の相場格言のように、トランプ氏勝利となった時に、反対の動き(債券買い<金利低下>、ドル安)になるのかどうか注目です。
一方、27日のトランプ陣営の集会で応援演説に立ったコメディアンがプエルトリコに対する差別的な発言を行ったことが波紋を広げています。米本土にはプエルトリコ系が約580万人暮らしているとされ、激戦州の一つペンシルベニアには出身者が約47万人いるとのことです。反発が広がれば、選挙戦に影響するのではないかとの見方も出てきています。
ハリス副大統領が勝利した時には、トランプ・トレードと反対の動きになることも予想されますが、ハリス氏勝利の場合は、翌日には判明しないかもしれません。トランプ氏が敗北宣言をせず、再集計の要請や不正投票を主張し、決着は長引くかもしれないため、相場は乱高下することも予想されます。この点にも留意する必要があります。
ドル/円は、日銀が動きづらくなることから、介入かFRB要因に左右される面が強くなりそうです。日本の政局混迷状態では介入はやりづらいのではないか、との海外勢を中心とした見方が広がれば、円安地合いは続くかも知れません。
FOMCは米大統領選挙後の11月6~7日に開催されます。FRBは慎重に利下げを判断するのではないか、年内利下げは1回ではないかとの見方が浮上していますが、米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチによると、11月の0.25%利下げ確率は100%、12月利下げ確率は78%となっています。
11月の利下げ後、12月の利下げを示唆しなくても否定しない場合は、ドル売りが強まることが予想されます。しかし、ドル/円は円高に振れても、円安地合いがくすぶっているため限定的な動きになりそうです。
日本の政治も為替もこの2週間が正念場になりそうです。
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