与党大敗、前向きな変革が起こるか慎重に見極める必要

 27日投開票の衆院選では、与党(自由民主党・公明党)が過半数を割る大敗となり、立憲民主党・国民民主党などが大幅に議席を伸ばしました。裏金問題にきちんと決着をつけられなかったことの、強い批判があらわれました。

 これまで自民党の派閥間の話し合いで決められてきた日本の政治が、政党間の前向きな協議によって決められる時代を迎えられるか、正念場です。過半数を割った自民党は、追加公認や新たな連立を模索することで政権維持をはかると思われますが、資本主義の成長戦略を実行できない何も決められない政権になると、株式市場にマイナス影響が大きくなります。

 今後の政権運営を、慎重にウオッチする必要があります。

先週の日経平均は円安が進む中で下落

 先週(営業日:10月21~25日)の日経平均株価は、1週間で1,067円下落して3万7,913円となりました。

 先週は、円安(ドル高)が進んだ週でした。1ドル=149円台から152円台まで円安が進みました。これまで円安だと株高(日経平均上昇)、円高だと株安(日経平均下落)となる傾向が続いてきましたが、先週は珍しく、円安が進む中で、日経平均が下がりました。

日経平均とドル/円為替レートの週次推移:2023年1月4日~2024年10月25日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所作成

 今年の日経平均は7月11日まで「円安株高」局面が続いていました。ところが、1ドル=161円台、日経平均は4万2,224円をつけた7月11日を境に、「円高株安」局面に転換しました。急激な円高が進むとともに、円高で企業業績が悪化する懸念が出る日本株が売られ、日経平均が急落しました。

 9月後半から10月にかけて、再び、流れが変わりました。再び、円安が進む中、日経平均は反発しました。「円安株高」に戻ったように見えます。ところが、先週は、一段の円安が進む中で、日経平均が下がりました。これまでの日経平均とドル/円の連動性(ドルが上がると日経平均が上がり、ドルが下がると日経平均が下がる傾向)が低下したように見えます。

ドル金利上昇によって再び150円台へ円安が進む

 米景気減速・米インフレ率低下を受けて、8月~9月前半にかけて、ドル金利が低下して、円高(ドル安)が進みました。そのまま年末から2025年にかけて、さらに円高が進む可能性もありました。年末から来年にかけて、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを続けると見込まれる一方、日本銀行は利上げスタンスを維持しているからです。

 ところが、9月後半から10月にかけて、再びドル金利が上昇して、円安(ドル高)が進みました。米景気が想定以上に強く、FRBによる利下げが鈍化するとみられ、米金利上昇につながりました。

 さらに先週は、米大統領選でトランプ氏優位の見方が広がったことも、米金利上昇・ドル高につながりました。トランプ氏公約は、法人減税・インフラ投資など景気刺激策が多く、米国でインフレ懸念を強めるとみられています。

 また、トランプ氏が、米国の全ての輸入品に10%もしくは20%の普遍的基本関税を課し、さらに中国製品に60%の関税をかける方針であることも、米国内の物価上昇→インフレ再燃につながるとみられています。

日米2年金利差とドル/円為替レートの月次推移:2019年末~2024年10月(25日)

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成:2019年末~2024年10月(25日)

 円安が進めば、日経平均は上昇することが多いのですが、先週は、円安が進む中で、日経平均が下がりました。円安株高の連動性が低下している可能性があります。

円安でも日経平均が下がった理由

 先週、円安が進む中で、日経平均が下落した理由として、以下三つが考えられます。

【1】円安が一時的とみられている可能性

 FRBによる利下げが鈍化する見通しから、足元、米金利が上昇しました。確かに、米景気は想定よりも強く、利下げが遅れる可能性はあります。ただし、利下げが遅れるだけで、FRBが利上げする環境にはありません。一方、日本銀行(日銀)は先行き、利上げするスタンスを崩していません。日米金利差が縮小する可能性がある中で、さらなる円安が進むとは考えにくいところです。

 米大統領選でトランプ氏優位の見方が広がったことが、米金利上昇を通じて円安要因となりましたが、トランプ氏自身は「ドル高は災難」と述べており、もし実際に大統領になれば、円安(ドル高)批判を始める可能性もあります。

 1ドル=150円台では、日本銀行が大規模円買い介入を実施しており、介入に対する警戒もさらなる円安を進みにくくする可能性があります。日銀による為替介入に米国政府は批判的ですが、急激な円安が進む時に円買い介入を行うことについては理解を示しています。

 以上の要因から、1ドル=150円台に乗せる円安が進んだものの、さらなる円安は見込みにくいと考えられます。

【2】10月27日投開票の衆院選で自民党苦戦の見方が広がったこと

 石破政権の支持率低迷から、衆院選で自民党が苦戦するとの見方が広がったことも、先週の日本株にマイナス要因となりました。日本株の動きを支配している外国人投資家は、自民党政権への求心力が弱まる局面では、資本主義の成長戦略・構造改革が進みにくくなるとみており、日本株への投資を減らす傾向があります。

【3】海外投機筋が「日経平均先物買い」「円売り」トレードを進めにくくなった可能性

 7月11日まで「日経平均先物買い」「円売り」ポジションを高めていた海外投機筋は、8月5日にかけての急激な「円高株安」で大きな損失を被っています。ここから再び「日経平均先物買い」「円売り」を行うことに慎重になっている可能性があります。

日経平均と、外国人投資家の日本株売買動向(売り越し・買い越し):2024年6月24日~2024年8月30日

出所:東証データ・QUICKより楽天証券経済研究所が作成。外国人売買は、株式現物と株価指数先物の合計

 上のグラフを見ると、7月11日にかけて日経平均を大量に買った外国人投資家は、8月5日にかけての暴落で損切りを強いられており、大きなダメージを被ったと考えられます。上のグラフに示されている外国人売買は、「株式現物の売買」と「株価指数先物の売買」の合計です。驚くべきは、その内訳です。以下をご覧ください。

日経平均騰落幅と外国人売買(買い越し・売り越し):2024年6月24日~8月30日

出所:東証データ・QUICKより楽天証券経済研究所が作成。外国人売買は、株式現物と株価指数先物の合計、億円未満概数のため合計が一致しないことがある

 7月11日~8月5日にかけての「円高株安」について詳しい説明をお読みになりたい方は、以下のレポートを参照してください。

3分でわかる!今日の投資戦略:2024年9月2日 令和のブラックマンデー続報、歴史的暴落にプット売りが影響(窪田真之)

日本株は長期投資で「買い場」の判断継続

 日本株は、長期投資で良い買い場との判断を継続します。ただし、これから7-9月決算がピークを迎えることに加え、11月5日の米大統領選、11月6~7日のFOMC(米連邦公開市場委員会)など重大イベントが控えているため、これからも「急落・急騰」を繰り返す可能性があります。

 これらのイベントを大過なく通過し、米景気ソフトランディング、日本の景気の緩やかな拡大継続が見えてくるまでは、上値が重い可能性があります。

 ただし、いつも述べているように、日本株は割安で、長期的な上値余地は大きいと私は考えています。割安な日本株を時間分散しながら買い増ししていくことが、長期の資産形成に寄与すると考えます。

 最後に「株トレ」新刊出版のお知らせです。ダイヤモンド社より8月に、以下、私の新刊が出版されました。

「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」
一問一答形式で、株式投資のファンダメンタルズ分析を学ぶ内容です。