資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。

お悩み

積立投資に慣れてきたが次はどうしたらいいのか?

國仲真弓さん(仮名)専業主婦・34歳(既婚、ご主人は会社員、子ども1人)

 結婚を機に、将来の子どもの教育資金や住宅ローンの支払いに備えるために、國仲さんは家計をしっかりとやりくりして余裕資金を確保し、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を利用した積立投資を続けていました。

 その間に子どもが生まれたり、主人が転職したりとさまざまなライフイベントがありましたが、もともと清貧な生活を心がけていたこともあって毎月一定額を積立投資することができていました。その結果、株式相場が好調なこともあり、中期目標としていた金額まで資産を増やすことができました。

 今年、新NISAが始まったことで周りの友人の中にも積立投資を始める人が増えていますが、うまくいっているという人もいればそうでないという人もいます。

 友人に比べると積立投資の経験が長かった國仲さんはアドバイスを求められましたが、自分としては何か特別なことをしたつもりはなかったのでうまく説明することができませんでした。

 國仲さんのように積立投資でうまくいく人とそうでない人、その違いはどこにあるんでしょうか? 

なぜ「NISAで積立投資」というシンプルな投資戦略がうまくいかないのか?

 2018年1月から旧制度のつみたてNISAが始まり、資産形成はこれまで投資をしてこなかった現役世代にもYouTubeなどを通じて広がっていきました。さらに、2024年からは新制度のNISAが始まったことで、加速度的に「NISA×積立投資」の資産形成が家計に定着しつつあります。

 積立投資を旧制度のつみたてNISAのころから続けている人の中には、すでに一定の資産を形成することに成功している人もいます。数年間積み上げた原資と株式相場の上昇による資産運用の成果です。その人たちが何をしてきたかというと、國仲さんのように毎月積立投資を一定額続けていただけで、何か特別なことをしていたわけではありません。

 実際に投資をしてみると分かりますが、一生懸命資産運用をしているからといって資産運用がうまくいくわけではありません。むしろ積立投資だけでなく、いろんな投資を試していると失敗するケースもあります。

 今回は「NISAで積立投資」というシンプルな投資戦略がうまくいかない人の理由について解説したいと思います。

NISAで積立投資がうまくいかない理由1:短期的な値動きを気にし過ぎている

 短期投資とはどのぐらいの期間の投資をイメージするでしょうか? 短期投資の例としては、数秒から数分程度で売買を繰り返す「スキャルピング」、1日の間で取引を完結させる「デイトレード」、数日から数週間で取引を行う「スイングトレード」などがあります。

 つまり数日程度の取引だけでなく、数週間の取引でも短期投資といわれています。投資手法はさまざまですが、1年未満の投資はまだ期間としては短いといえるでしょう。しかし、実際に投資を始めてみると投資資産の価格変化が気になって、短期間で投資の成否を判断してしまう人も少なくありません。

 運用を始めるとこれまでは気にもしていなかった経済や株価、政治情勢の情報が気になってくることはよくあります。投資で自分の資産が動くことによる当事者意識が強くなるからでしょう。そうした情報に翻弄(ほんろう)されてしまい、目先の値動きにとらわれて肝心な投資目的を忘れてしまうのです。

 積立投資のシミュレーションをしてみると、投資原資の少ない運用初期よりも最終的に売却して運用成果を刈り取る後半の運用成果の方が重要であることが分かります。特に1年目は投資資金と毎月の積立額の比率に大きな差がないため、日々の運用成果はさほど重要ではありません。積立投資は長期投資であることを念頭におきましょう。

NISAで積立投資がうまくいかない理由2:投資金額の設定を間違えている

 積立投資は単純に一定金額を長期間継続して積み立てし続けるという投資手法です。一見単純そうにみえる投資ですが、資産形成層にとって一定金額を投資し続けるということは、家計の収支状況にかかわらずお金を投資に回すことを意味しています。

 そのため、大きな支出があって一時的に手元資金が少なくなったり、相場の下落により資産額の目減りと家計の収支を比較して投資しない方が良いと短期的な目線で判断してしまったりして、投資を辞めてしまうことも少なくありません。

 投資をする際には一定金額の貯蓄があることや、家計の収支が年間でプラスとなっていて、毎月の収支も一時的な支出を除けばプラスになっていることで余裕資金があることが前提です。投資をしすぎていて現預金が少なくなるという状況は本末転倒です。

 さらにライフプランをイメージして、将来の大きな支出も計算しておくことで積立投資を途中解約する可能性を減らすことができます(もちろんその支出のために積立投資をしていくことも選択肢の一つですが)。

 順番を間違えてはいけません。まずは収入の増加や余分な支出を削減することで収支を改善させて、ある程度の貯蓄をつくることが資産形成の第一歩です。そこから、余裕資金を安定的に毎月投資に回せる状況になって初めてNISAで積立投資を始めるべきです。

NISAで積立投資がうまくいかない理由3:いろんな投資に手を広げようとしてしまう

 積立投資の魅力の一つは、機械的に毎月一定金額を同じ日に投資する設定をすれば、あとは投資用の資金が不足しないように入金しておけば良い、というシンプルな投資手法であることです。さらにNISAで行うことで運用利益は非課税になるので、最終的に利益が出ていれば運用利益の手残りは通常の課税口座(現状20.315%の課税)に比べて、1.25倍にもなります。

 つまりは、特に投資判断に手間暇をかける必要がなく、税負担もないことから投資経験は不要で、投資知識もさほど多くを求められないので、投資初心者でも始めやすく実績もある投資手法というわけです。

 しかし、人間慣れてくると他の投資手法や商品にも目がいきます。例えば、積立投資の金額を増やしたり、積み立てする商品を他にも増やしたりと考えだします。投資信託だけでなく個別銘柄株式、国内株式だけでなく米国株式やETF(上場投資信託)、REIT(リート:不動産投資信託)など他の金融商品と比較することでしょう。

 いろんな金融商品や投資手法を知ることはとても良い投資行動です。しかし、積立投資の魅力も忘れてはいけません。多種多様な投資商品に手を出して管理ができなくなったり、長期投資のつもりが短期間でいろんな投資をしたりして成否を安易に判断してはいけません。どんな投資手法で何に投資するのか、あなたの投資目的は何なのかを忘れないようにしましょう。

「NISAで積立投資」の魅力はシンプルであること

積立投資は手間暇をかけることなく、継続することが成功の鍵

 運用で成果を出すためには労力や時間をかける必要があるというのは間違いです。もちろん、運用で大成功して資産を築いた人の中には投資知識を身につけるために多大な労力と時間をかけた人もいますが、それはあなたが目指す運用のやり方でしょうか?

 ほとんどの人は運用よりも仕事や家庭に時間をかけています。そうして安定した収入と生活をする中で余裕資金ができた人が資産形成のために積立投資をしています。積立投資のやり方は学んでいても、運用のためにそれほど多くの時間は割いてはいないでしょう。

 ただ、積立投資はそれでいいのです。労力や時間をかけることなく、市場の原理に任せておくことが積立投資の目的であり、ひたすらに継続することが大切なのです。

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