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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「世界分裂、原油も銅も農産物も高止まりへ」
世界の民主主義は2010年ごろにピークアウト
V-Dem研究所(スウェーデン)は、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化して多数の指数を公表しています。自由民主主義指数もその一つです。この指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。
以下のグラフは、過去120年間(1903年から2023年まで)の世界平均の推移です。
図:自由民主主義指数(世界平均)(1903~2023年)
第一次世界大戦後、第二次世界大戦後、冷戦終結後に目立った上昇が見られました。民主主義を掲げ、建設的な話し合いを経て、世界が平和に向かう機運が高まった時代です。逆に、第二次世界大戦や東西冷戦の最中は低下しました。同指数はこの100年超、おおむね世界の民主主義の動向を反映してきたと言えます。
以下の図は2023年の状況を示しています。オレンジが濃ければ濃いほど民主的な度合いが低く(0に接近)青が濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが高い(1に接近)、ことを意味します。
図:自由民主主義指数(2023年)
人口のシェアは、オレンジが濃く民主的度合いが低い国が77%、青が濃く民主的度合いが高い国が17%と、圧倒的に前者が優位です。率直に言って今、世界は民主主義が行き詰まり、分断状態にあります。2010年以降、こうした傾向が目立ってきています。
西側、非西側、スタンスなしで世界は分裂
ここからは世界分断の発生過程を確認します。下図の左のとおり、東西冷戦が終結した1989年ごろから世界の民主主義がピークに達した2010年ごろまで、世界は民主主義の機運を強める方向でおおむね一致していました。
お互いを認め合い、話し合い、世界が団結して前に進もうとしていたころです。1993年のEU(欧州連合)発足や、その後、断続的に発生した東欧諸国のEU加盟などは、まさにその象徴だったと言えます。
しかし、冒頭の図「自由民主主義指数(世界平均)(1903~2023年)」が示す通り、世界の民主主義は2010年ごろをピークに、徐々に減退しはじめました。この2010年ごろ以降のイメージが下図の右のとおりです。
図:世界分断・分裂の過程(筆者イメージ)
2010年ごろ以降、あくまで民主主義を貫く西側諸国、それと対抗する姿勢を鮮明にする非西側諸国との間で分断が目立ち始めました。この分断は、考え方が真っ向から割れていることから、(1)スタンスの分断だと言えます。
同時に、西側や非西側と意図的に距離を置く、あるいは無関心などの理由で、明確なスタンスを示さない国の存在も目立ち始めました。この分断は、(2)スタンスの有無の分断だと言えます。2010年ごろ以降、(1)の分断を中心とし、(2)の分断も相成って、世界はさながら「分裂」状態にあると言えます。
世界が分断・分裂した背景については以前の「SNSが世界を壊す?金(ゴールド)相場上昇へ」で詳細を述べたとおり、SNSとESGのマイナスの側面が目立ったことによる影響が大きかったと考えられます。
図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景
世界分裂は「資源の武器利用」のきっかけ
世界分裂・分断は、戦争や資源国の出し渋りの直接的なきっかけになり得ます。そして戦争や資源国の出し渋りは、コモディティ(国際商品)価格を上昇させるきっかけになります。以下の図は、これらの流れを示しています。
世界で分断・分裂が目立つことで、「自国第一主義」が目立ちやすくなります。そうすると、自国の「食やエネルギーの安全保障」を訴える国が増えやすくなります。その結果、資源を武器として利用する国が増えやすくなります。
こうした主要な生産国による「資源の武器利用」は、コモディティ(国際商品)の需給を引き締める大きな要因になっています。
武器利用の原因である分断・分裂が、2010年以降の世界規模の大きな潮流の中で起きたことを考えると、早期に武器利用をやめさせることは困難だと言わざるを得ません。それはすなわち、各種コモディティ(国際商品)市場に、強い上昇圧力がかかり続けることを意味します。
図:分断・分裂がもたらすコモディティ(国際商品)マーケットへの影響
銅、原油、小麦など「武器化」の実績あり
世界分断・分裂の影響を、個別のコモディティ銘柄で確認します。以下の図は、世界の民主主義のピークアウトの起点となった2010年と2023年(農産物は2022年)における、主要なコモディティ銘柄の生産国上位10カ国(偏在性が高い銘柄は10に満たない場合がある。例えば、プラチナは5~6カ国で世界のほぼ100%を生産している)の自由民主主義指数の平均とその変化を示しています。
冒頭で述べたとおり、同指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。このため、ここに示した主要銘柄はいずれも、自由度や民主度が比較的低い国(非西側諸国)で生産されていることが分かります。
なおかつ、ほとんどの銘柄において、2023年(農産物は2022年)の同指数が2010年よりも低下したことが分かります。金属、エネルギー、農産物という分野を横断したコモディティ全般において、「生産国の非民主化」が進行していると言えます。
生産国での非民主化は、民主主義を正義と捉え、かつそれらの品目を大量に消費する西側諸国との分断・分裂が目立ちつつあることを意味します。先述の通り、分断・分裂は、生産国に「資源の武器利用」を促す強い動機になり得ます。
図:各種コモディティ(国際商品)生産国上位の自由民主主義指数(平均)
目下、「資源の武器利用」は、原油においてはOPECプラスの減産、小麦などの穀物においてがロシアの輸出制限などで起きています。
また、西側がESG(環境・社会・企業統治)の考え方に基づき、社会を脅かす国や企業と取引を控える動きを鮮明にし、制裁(おしおき)の名目で、2022年に戦争を勃発させて今もなおウクライナへの侵攻を続けているロシアで生産された金属を、世界の在庫に流入させない動きが進行しています。
これによって、一部の金属銘柄において、需給ひっ迫に拍車がかかっています。
このように、武器利用による需給ひっ迫懸念だけでなく、西側自らが需給ひっ迫に拍車をかけていることで、各種主要銘柄は以下のとおり、2010年ごろ以降、目立った上昇トレンドを描く、あるいは長期視点で水準を切り上げ、切り上げた水準を維持する動きを鮮明にしています。
図:各種コモディティ価格(過去約40年間)
物価を左右するコモディティ価格は最上流
とかく、コモディティ相場は景気動向に左右されると思われがちですが、景気動向が顕著にけん引したのは世界分断・分裂が目立ち始める2010年ごろよりも前の時代です。確かに、2000年ごろから2008年までの中国やインドなどの新興国が台頭してきた時代は、景気動向がコモディティ相場をけん引しました。
ですが、2010年ごろから始まった世界分断・分裂流れの中で、「資源の武器利用」が行われやすくなり(思惑も含む)、徐々に生産国側の動きが相場に大きな影響を与えるようになりました。こうした世界規模で長期視点の流れを読み取らなければ、今どきのコモディティ相場の動向を分析することは不可能だと言えます。
原油相場も銅相場も、かつては「景気のバロメーター」と呼ばれましたが、分断・分裂が目立ち始めてからは、景気が悪化する局面でも、産油国が減産を強化すれば原油相場は上昇しますし、西側がロシア産の金属を買わないようにする姿勢を鮮明にすれば銅相場は上昇します。
逆に、景気が上向いている局面でも、産油国が減産を緩めれば原油相場は下落しますし、供給が安定的になる材料が出れば銅相場は下落します。2010年ごろ以降の世界分断・分裂進行は、原油や銅から「景気のバロメーター」という役割を奪ったと言えるでしょう。
以下のように、コモディティ(国際商品)は、社会のさまざまな事象の上流に位置します。金融政策が物価動向を意識しているのであれば、それはコモディティ相場を意識していることとほとんど同じ意味です。ガソリンなど直接的なモノの価格だけでなく、電気代や輸送代が関わるサービスの価格にも、コモディティ価格は強い影響を及ぼしています。
図:コモディティが川上にあることのイメージ
世界分断・分裂が目立ち始めた2010年ごろ以降の、コモディティ市場の環境の変化に十分に留意の上、コモディティが社会的事象の川上にあることを再認識する必要があります。
需要の側面だけでコモディティ相場を観察しないこと、コモディティ相場は生産国側の思惑が強く影響していること、実際に、2010年ごろ以降に価格高騰・高止まりが発生している銘柄がいくつもあることなどに、留意しなければなりません。
分断・分裂は、長期視点の世界的潮流です。その一因が、SNSやESGなど、人類がよかれと思って始めた動きであるため、すぐにやめることはできません。このため、世界分断・分裂は今後も長期にわたり、継続する可能性があります。
これはつまり、「資源の武器利用」が長期化する、各種コモディティ市場に上昇圧力がかかり続ける、長期視点の価格上昇・価格高騰が続くことを意味していると、筆者は考えています。世界全体の潮流を感じ、過去の常識にとらわれず、市場と向き合うことが、重要であると考えます。
[参考]コモディティ関連の投資商品例
投資信託(NISA成長投資枠 対象)
海外ETF
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)
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