国慶節休暇明けの中国株は?乱高下に募る不安定感

 先週のレポートで扱ったように、10月1~7日、中国は国慶節休暇でした。中国政府によるテコ入れも作用し、休暇前夜に中国株が「急騰」した模様に言及し、休暇後にどうなるか、株価の上昇は長続きするのか、実体経済の回復につながるかどうか、という問題提起をして、筆を置きました。

 休暇明けの初日に当たる8日、上海株式指数は市場が開くと同時に、休暇前(9月30日)の終値3,336ポイントから3,674ポイントまで急上昇しました。上昇流は長くは続かず、終値で3,489ポイントまで落ちましたが、それでも、前営業日の終値から4.6%上昇しました。A株に投資している私の中国の知人たちも、何はともあれ、休暇明けのこの日、前営業日を上回って市場が閉じたという点を重要なポイントとして挙げていました。

 中国の大手民間企業に勤める中堅幹部は次のように語ります。

「この日(8日)、上海、深圳両証券取引所の取引高が過去最高を記録したこともあり、個人投資家の間には興奮感が充満している。休暇前に政府が一連の景気刺激策を出しているし、低迷してきた経済がこのまま迅速に回復するのではないかという期待感すら漂っている」

 一方、香港ハンセン指数は8日、10%以上下落し、2008年以来最悪のパフォーマンスを記録しました。国慶節休暇を経て、投資家が香港株から本土株に乗り換えたのではないかという見方もあります。中国本土出身で、現在香港で働く中国国有企業の幹部に話を聞くと、「国慶節休暇後というタイミングにもかかわらず、私は引き続き香港株を買い、本土株に手を出さなかった。結果、損をした。自分の判断ミスに泣いた」としながらも、「不安定感は残るだろうが、中国株の盛り上がりは今後一定期間続くのではないか」と語っていました。

 前述の民間企業幹部を含め、「今回の株価上昇はどのくらいの期間続くのか」という視点で足元の市場動向を眺めているように見受けられます。それだけ慎重に見極めなければならないほど、中国経済を巡る不安要素と不確実性は根深く、普遍的だということでしょう。

 実際、私が現在本稿を執筆している10月9日16時00分(日本時間)時点で、上海総合指数は前日の終値に比べて6.5%、深圳成分指数は8.0%、香港ハンセン指数は1.7%下落しています。国慶節休暇を挟んだ中国株の乱高下ぶりは、中国経済を取り巻く不安定感を象徴しているように見受けられます。

国慶節休暇中の経済活動はどうだったのか?

 市場がお休み中だった国慶節休暇期間中の経済活動はどうだったのかを振り返ってみたいと思います。中国政府や国営新華社通信など官製メディアは、10月1~7日という1週間の経済活動が旺盛だったと宣伝して回っているように見受けられます。

 10月9日時点で発表されている中国政府各機関による統計をいくつか見てみましょう。

項目 統計 前年比
国内旅行者数 7.65億人(のべ) 5.90%
国内旅行者数による消費額 7,008億元 6.30%
自動車販売台数   11.7%(うち電気自動車45.8%)
全国重点小売り&飲食産業販売額   4.50%
地域間移動者数 20億人(のべ) 3.90%
出入国者数 1,310万人(のべ) 25.80%
映画館チケット販売額 21億元  
映画館鑑賞者数 5,209万人(のべ)  
中国政府の発表を基に楽天証券経済研究所作成

 これらの数字を見る限り、コロナ禍明けで迎えた昨年の国慶節に比べて、各種指標が伸びているのは確かだと言えるでしょう。一方、これらの経済活動が、国慶節後の景気回復にどれだけつながるのかに関しては、今後の動向を見ていかなければなんともいえないというのが私の現時点での見方です。

 前述した株式市場が、若干誇張して言えば、休暇前と後で対照的とも言えるパフォーマンスを見せているように、長期休暇中の経済活動が一時的な、一過性のものに終わる可能性も十分にあります。例として、この1週間、北京市の新築住宅の取引量は前年に比べて倍近く増えたようですが、この流れを持続できるのかどうかは不透明だと言えます。

景気動向は依然不透明。中国政府が示した五つのポイント

 休暇明けの10月8日、国家発展改革委員会というマクロ経済や産業動向を見る上で極めて重要な政府機関の高級幹部らが記者会見を開き、昨今の景気動向やマクロ政策などについて説明を行い、一部記者からの質問にも答えました。

 各種報道を眺めると、この会見で、「財政出動を含めた新たな景気刺激策が打ち出されなかった」「休暇後の株価下落は市場の失望感を露呈している」といった論調が多いようです。私もこの見方を否定するわけでは全くありません。

 一方、先週のレポートで検証したように、中国政府は国慶節休暇前すでに「小バズーカ」とは言える程度の複合的な景気支援策を出している経緯を踏まえれば、それから間もないこのタイミングで、しかも記者会見という場で新たな景気刺激策を打ち出すとはそもそも思えません。

 私が記者会見を通じて感じたこととして、例えば1兆元(約20兆円)の超長期国債や約3.12兆元(約62兆円)の地方特別債といった財政出動が、どれだけ実行されているか、言い換えれば、中央政府主導のマクロ政策が、どれだけ実体経済の回復につながっているかに対する意識や姿勢に緊張感を覚えました。政策を打ち出したところで、それがきちんと現場レベルで実践されなければ意味がない、ということなのでしょう。

 この記者会見で私が最も注目したのは、一連の景気刺激策を巡る照準性、有効性と持続可能性を高めるという観点から、発展改革委員会として五つのポイントを掲げたことです。

  1. 経済を運営する上での下ぶれ圧力
  2. 国内における有効な需要の不足
  3. 一部企業の生産や経営が直面する困難
  4. 不動産市場の継続的な低迷
  5. 株式市場の乱高下

 昨今の中国経済を巡るこれら五つの動向にどう対するか、という観点から、休暇前に出された金融緩和、不動産支援、株式市場支援、そして中央政府によるマクロコントロールの目玉である財政出動は実施されなければならない、と習近平(シー・ジンピン)指導部が考えているということです。裏を返せば、昨今の中国経済を巡る最大の課題がこの五つだということなのでしょう。

 党・政府指導部によるこの現状・課題認識を念頭に、引き続き中国経済の動向を注視、分析していきたいと思います。