7度「退場」しても諦めずに投資を続け、「ダブルコア+サテライト戦略」と名づけた投資法によって復活を遂げた投資熊さん。後編ではポートフォリオの中核に位置づけている配当銘柄の選び方、さらには投資初心者へのアドバイスもお願いしました。
配当利回りにはあまりこだわらない
トウシル:前回、保有銘柄を大きく「コア」と「サテライト」に分けているとお伺いしました。ポートフォリオの中核をなす「コア」は何銘柄くらいで構成されるのですか。
投資熊さん:投資の鉄則の一つに「分散投資」があります。私もリスク回避のためには分散することが大事だと考えているので、約20銘柄ほどを保有しています。
トウシル:具体的な銘柄名をお教えいただけますか。
投資熊さん:ポートフォリオ全体は公開していないのですが、ブログなどで公表しているのは、三菱商事(8058)、伊藤忠商事(8001)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)、東京海上ホールディングス(8766)、オリックス(8591)、三菱HCキャピタル(8593)、トヨタ自動車(7203)、三菱重工業(7011)、NTT(日本電信電話:9432)、信越化学工業(4063)、INPEX(1605)などです。
また、前に話したように米国株ETF(上場投資信託)のVTも保有しています。
トウシル:配当利回りが3~4%くらいの高配当銘柄が多いですが、全てがそうというわけではないですね。
投資熊さん:配当利回りは、配当銘柄を選ぶ重要な指標の一つではあります。ただ、私は長期保有を前提としているので、今現在、配当が多いか少ないかよりも、長期にわたって安定的に配当を受けることができるか、さらにいえば株価上昇と合わせたトータルリターンを期待できるかどうかを重視しています。
ですから、配当利回りだけでなく、総合的見地から検討するようにしています。
トウシル:具体的には何を見て判断していますか? 必須のチェックポイントを聞きたいです!
投資熊さん:可能な限り多くのデータを見ていますが、その中でも特に、二つの点を注意して見ています。一つは「過去のデータや傾向から未来を探る」というやり方。もちろん、「過去」は「未来」を保証するとは言いきれません。
しかし、「未来を想定する有力な手掛かり」にはなります。具体的には、これまでどのように配当金を支払ってきたか、しっかり増配してきたか、減配したことはないかなどをチェックしたりしています。
トウシル:何年も連続増配してきた銘柄は、今後もその可能性が高いし、繰り返し減配している企業は再び減配する可能性があると読むわけですね。それに対して過去に減配している銘柄は要注意、とみるわけですか?
投資熊さん:一度でも減配したところは信用できないと決めつけるのは早計かもしれません。決めつけはしません。経営環境が苦しいなどの理由で一時的に減配しても、状況に合わせて増配に転じているなら、さほど問題はないでしょう。私が気にしているのは「過去の危機直面で、その企業がどう動いたか、どう乗り切ったか」という企業の対応です。
ここ数十年を振り返ると、リーマンショックや東日本大震災、コロナショックなど、マーケット下落時は多くの企業が減配や無配になってしまいました。しかし、そういう厳しい環境の中でも減配せずに乗り切った企業もあります。そうした企業は、ちょっとやそっとのことでは揺るがない体力が備わっていると考えていいでしょう。
また、重要視するのは、企業のHPなどに掲載されている「配当方針に関する記載」です。利益を投資家に還元しよう、という意欲があるかどうかも注視しています。
「ほったらかし」は否定派!買った後もこまめにチェック!
トウシル:著書の中で配当に関するデータだけでなく、売上げや利益などの経営指標もチェックすると書かれていますね。
投資熊さん:会社が傾きかけたら配当を支払うどころではなくなりますし、当然、株価も下落します。ですから、たとえ誰もが知っているような企業であっても、売上げが上昇傾向にあるか、利益は伸びているか、今後の見通しは明るいか、などは必ずチェックします。
トウシル:とくに重視しているデータはありますか。
投資熊さん:多くのデータを見て、総合的に判断しようとしていますが、強いて言うならば、売上げの推移をチェックしています。
また、EPS(1株当たり利益)もチェックしています。企業がどれくらい稼いでいるかを1株当たりで表したもので、配当株投資における最も重要な指標の一つと考えています。この数値が安定、もしくは上昇傾向にあればひとまず安心、下降傾向だったら何かしらの問題が生じているとらえるべきでしょう。
トウシル:熊は冬眠をする動物なのですが(笑)、投資熊さんは冬眠なしで、できる限りのデータや企業動向を追っておられますね。書籍の105ページに記載されている「投資熊流優良配当銘柄チェックシート」が秀逸です! 実際に保有している銘柄に当てはめたチェック結果も納得でした。
手堅いディフェンシブ株も、しっかりと目を離さずにチェックされていて、眠ってる暇などないですよね(笑)。
投資熊さん:はい。ほったからし投資で稼ごうなどありえないですよ。過去の自分に言ってやりたいですよね、楽して稼ごうと思うなって(笑)。
今では、買う前はもとより、買った後も、経営状態や財務状況をこまめにチェックします。どんな企業であれ、絶対に安泰ということはありえません。誰も予想できなかったような事態に直面することも考えられます。たとえ配当金目的であっても、買ったあと、放置しておくというのは賛成しかねます。
トウシル:長期保有が基本の「コア」銘柄でも、決算書や企業方針などで問題が見つかったりしたら、売却することもあるんですか?
投資熊さん:もちろんです。定期的にポートフォリオの保守・点検を行い、必要に応じて見直します。
トウシル:先ほど「一つは過去のデータや傾向から未来を探る」とのことでしたが、もう一つの方法も教えてください。
投資熊さん:その会社の事業内容や取り巻く環境などを調べて、将来性があるのかどうかを探ります。今現在、手掛けている事業に発展性はあるのか、新規事業は進んでいるのか、ターゲットにしている市場は拡大傾向にあるのか、さらには業界自体の将来性にも探りを入れます。
データから、ある程度想定はできますが、それがどれくらい当たるかについては、分かりません。しかし、その分野の専門家が分析してまとめた資料や書籍など、いくらでもありますから、それらに目を通して概要をつかむようにはしています。
雑音はシャットアウト、自分が決めた道を黙々と進む!
トウシル:投資熊さんと話していると、周囲の雑音には目もくれず、自分が信じる投資法を粛々と実行しているという印象を受けます。手っ取り早く利益を得よう、と前のめりな姿勢を感じないのですが、やはりそれは、7度の退場を経験されているからでしょうか。
投資熊さん:そうかもしれませんね。以前は「雑音」に惑わされてばかりでしたが(笑)、今は誰が何を言っていようと気になりません。SNSで異様に盛り上がっている銘柄などもあえて無視しています。
トウシル:ちなみに「○歳までに資産1億円を実現させる」といった目標は立てていないのですか。
投資熊さん:はい、立てていません。もちろん1億円に魅力を感じないわけではありません。
しかし、数字を意識し過ぎると、自分の実力に見合わないことをしたり、ふだんやらないことに手を出したりしがちですよね。それがたまたまうまくいけばいいですが、「たまたまうまくいく」なんてことはそう滅多にないと経験上、痛いほど分かっています。ですから、今後も、市場平均を上回ることに全力を注ぎ続け、あとは結果として受け止めるのみです。
トウシル:最近はFIREを目指す人も多いですが、そういう考えはないのでしょうか?
投資熊さん:確かにサラリーマンを辞められるなら辞めたいし、FIREもしたいのですが、急いではいません。お金が貯まったら結果としてFIREに踏み切るかもしれませんが。
トウシル:では、最後にこれから投資を始める人や、投資初心者に向けてアドバイスをお願いできますか。
投資熊さん:まずは自分の「軸」を決めるところから始めてほしいと思います。投資によって何を実現したいのか、どれくらいの運用期間を想定しているのか、投資について勉強する意欲はあるのか、どれくらい労力を傾ける気があるのか(毎日株価の動きをチェックするくらいのことはするつもりなのか、それともほったらかしにしたいのか)などをよく考えてみることです。
それらが整理できたら、どんな投資スタイルが向いているのか、おのずと見えてくると思います。私は、何も考えずに始めたので、あれこれ手を出した挙げ句、7度も退場するハメになりました。
トウシル:例えばあまり労力を傾ける気はない、できれば「ほったらかし」がいいという人は、インデックス投資を選んだほうがいいんでしょうか?
投資熊さん:はい、それが性に合う人は無理をしなくてもいいと思います。ただ、「市場平均以上」を望むなら、ある程度は労力をかけることを覚悟すべきでしょう。
トウシル:ほかにアドバイスはありますか。
投資熊さん:経験から言いますが(笑)、勉強も努力もせずに、最初から大金を投じてはいけません。暮らしを圧迫するほど投資に資金を投入することには反対です。
私が実践している、ダブルコア+サテライト投資は、投資額が大きければ大きいほど配当金が増えます。また、比較的リスクが少ない投資法であるのも事実です。そのため、できるだけたくさん買おうと考える人もいると思いますが、自分のキャパシティを超えた量の株を持つと、ストレスに感じるようになりがちです。
特に、投資に慣れていない人の場合、「株価が暴落したり、減配したりしたらどうしよう…」という思いがつきまとうため、不安感に苛まれることになります。その結果、少しでも株価が下がるとプレッシャーに耐えきれなくなり、売らなくていいのに売り払うという行動に出てしまったりします。
トウシル:最初は腹八分目、いや、腹五分目くらいに抑えるのがいいかもしれませんね。
投資熊さん:はい。ぜひそうしてほしいです。それと、もう一つつけ加えるなら、「投資は簡単」などと思わないことです。ネット上には「誰でもすぐに始められる」「知識がなくても稼げる」みたいな言葉が溢れています。そういう言葉に安易に乗ることだけは避けてほしいですね。
トウシル:投資熊さんの著書には「投資で困らない方法」が、基礎にのっとってきちんと書いてあり、「カンタンにもうけられる、稼げる」などの言葉が一つも出てこない理由が分かりました。7度もの失敗を乗り越えて、自らの投資術を確立されただけに、とても説得力があります。本日はありがとうございました。
>>前編「7度の「退場」から復活!不滅の投資スタイルの秘訣とは…投資熊さんインタビュー[前編]」
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