SNSは2010年からスマホを介して急速普及

 近年、ニセ情報やひぼう中傷が絶えず投稿されたり、犯罪の際の通信手段になったりするなど、SNSは社会問題の温床の様相を呈しています。

 SNSは、人間の根源的な欲求の一つである「つながりたい」を実現する素晴らしいツールとして、スマートフォンを介して2010年ごろから世界的な普及が本格化しましたが、先述のとおり、近年は社会に深刻なダメージを与えるケースが目立っています。

図:世界のソーシャルメディアユーザーシェア

出所:we are socialおよび世界銀行のデータを基に筆者作成

 2023年11月にトウシルに掲載された記事、山崎元がホンネで回答「人生のムダを省くことについて、山崎さんの意見を教えて下さい」で、SNSについて故山崎元さんは「主張の連呼と揚げ足とりが横行する殺伐とした空間になった」「そこに居て快適な空間ではなくなっている」「精神の幸せのためには距離を取った方がいいと思うことが多い昨今」と、述べています。

 筆者も同じように感じることが多くなっていました。本レポートでは、なぜSNSはそのような場になってしまったのか、そしてそのことが市場にどのように影響するのかなどについて、筆者の考察をまとめます。

SNSは部分解釈、感情噴出などのきっかけ

 筆者は、SNSが西側諸国と非西側諸国の間に生じている世界分断を深化させた一因になったと考えています。経緯は以下のとおりです。

図:SNS普及開始から世界分断が深化し始めるまでの経緯(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 SNSがスマホを介して世界的に普及→部分解釈、偏ったつながり、感情噴出が横行→人間の「生き物」としての性質が顕在化→国際的な学力低下、建設的な議論減少→「実態」よりも「思惑」優先→民主主義が行き詰まり→「世界分断」深化、という流れです。

 この流れは、人間の根源的な性質を背景に進行しているため、逆流することはありません。部分解釈、偏ったつながり、感情噴出が横行の箇所を補足すると、以下のようになります。

図:SNSが世界的に普及したことで人類の間で起き始めていること(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 このように考えると、SNSはすでに部分解釈、横と縦のつながりにおける浅い感覚に基づいた取捨選択、そして感情噴出の場となっていると言えます。さらにここ最近では、こうした場がSNSというネットの世界だけでなく、リアルの世界でも蔓延(まんえん)し始めていると感じます。

SNSをきっかけに人間の「生き物」化が進行

 SNSの本格的な普及と同じ時期に目立ち始めたのが、学力の低下です。以下は、国際学力調査「PISA」の結果の推移です。

 OECD(経済協力開発機構)は、PISA(ピザ:Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査を実施しています。

 義務教育修了段階(15歳)においてこれまでに身に付けてきた知識・技能を、実生活で直面する課題にどの程度活用できるかを測るため、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野などを調査します。

図:国際学力調査「PISA」の結果(OECD主要23カ国平均)

出所:OECDのデータより筆者作成

 2010年ごろから、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野の全てで、低下傾向が鮮明になっています。タイミングが世界的なSNS普及の始まりと同じであること、SNSが部分解釈、横と縦のつながりにおける浅い感覚に基づいた取捨選択、感情噴出の場を提供していることなどを考えれば、学力低下にSNSが関わっている可能性を否定することはできません。

 SNSの日常利用がもたらしている人類への内面的な変化を補足した資料が以下です。人間は、SNSを利用する中で自覚なく、たくさんのことを失っていると言えます。SNSは人間から、「思考・集中・時間」という大変に重要な資産を奪っているとも言えます。

図:SNSの日常利用によって人類の間で起き始めた内面的な変化(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 SNSは部分解釈、横と縦のつながりにおける浅い感覚に基づいた取捨選択、そして感情噴出の場といえます。「人間の弱さ」とは、悦楽におぼれたり、不安を遠ざけたり、複雑な思考を回避したりする性質を示した言葉ですが、SNSはこうした弱さを最小化できる場であるわけです。

 人間は言葉を操る、深く考える、じっくり味わうなどの能力を持つ高等な生き物です。こうした能力を駆使して自分の弱さと向き合うことはまさに、「人間として生きること」と言えます。ですが、SNSという世界で自分の弱さを最小化することは、素晴らしい能力を放棄することと同じです。それはつまり、「生き物として生きること」に他なりません。

 このことは、民主主義を維持するために必要な社会では建設的な議論や、それに必要な自他の確立(自分を相対化)、自他を尊重する精神が損なわれつつあることを意味します。SNSが見えない社会基盤を崩壊させつつあると言っても言い過ぎではありません。

 文部科学省が進めている大学入試改革において、学力の三要素「1.知識・技能、2.思考力・判断力・表現力等、3.主体的に学習に取り組む態度」を提唱しはじめたのは、こうした背景があるためだと、筆者はみています。大学入試改革は、SNSをきっかけとした社会基盤の崩壊を食い止めるための策でもあると言えます。

SNSが株式市場を「実態以上」に押し上げた

 SNSが普及し始めた2010年ごろ以降、情報の受け手は無意識にこれまで以上に「見たいものを見たい」と思うようになりました。SNSが、部分解釈、横と縦のつながりにおける浅い感覚に基づいた取捨選択、そして感情噴出の場であることを考えれば、自然な流れです。

図:SNSが及ぼした情報の受け手と発信者の関係への影響

出所:筆者作成

 こうした流れの弊害の一つが、「見たくないものを見ない」人が増えたことです。情報の発信者はこうした流れを感じ取り、これまで以上に「受け手が見たいものを見せてあげたい」と思うようになりました。いつの間にか「実態」と「思惑」の乖離(かいり)、つまり「経済の歪み」が大きくなってしまいました。

 その結果、半年から1年程度先の「思惑(プラスの思惑は期待、マイナスの思惑は懸念)」を織り込み傾向があるとされる株式市場において、2010年ごろ以降、突出した上昇が目立ち始めました。

 SNSで大きくなった情報の受け手の「見たい」という思いに、情報の発信者が「見せたい」と答え、それらが渦となって期待が膨張し、株価指数の上昇に拍車がかかりました。

図:2010年ごろ以降の米国の主要株価指数の推移(1984年1月を100として指数化)

出所:世界銀行およびQUICKのデータをもとに筆者作成

 株価指数の上昇が、需要(買い手)と供給(売り手)の立場が比較的平等で「実態」に近いとされるコモディティ(国際商品)を圧倒したことの説明は、SNSというキーワードを使わずに行うことは不可能でしょう。

分断深化継続で金(ゴールド)は高止まり

 以下は、SNSが民主主義の行き詰まりや世界分断深化に影響を与え、それらが戦争や資源国の出し渋りの原因となり、その結果として高インフレが残っていることを説明した資料です。

 2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における武力衝突を伴った民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国がEU(欧州連合)離脱を決めた国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、深く、SNSが関わっているとされています。

 これらは、SNS上で濁流と化した民意が民主主義の根幹を揺らした出来事として多くの人が記憶していると思います。SNSが民主主義を脅かす装置という側面を持っていることを示す、具体例です。

 民主主義の行き詰まりは、西側が正義と考える非西側が勢力を拡大するきっかけになり得ます。その意味で、SNSは世界分断を深化させていると言えます。

図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景

出所:筆者作成

 以下の通り、筆者はSNSをきっかけとした「見えないジレンマ」は、金(ゴールド)相場を支える超長期視点のテーマに据えています。

 SNSがスマホを介して世界的に普及→部分解釈、偏ったつながり、感情噴出が横行→人間の「生き物」としての性質が顕在化→国際的な学力低下、建設的な議論減少→「実態」よりも「思惑」優先→民主主義が行き詰まり→「世界分断」深化、という流れは、人間の根源的な性質を背景に進行しているため、逆流することは考えにくいと言えます。

 つまりそれは、金(ゴールド)相場に超長期視点のゆっくりとした上昇圧力がかかり続けることを意味します。日々の細かい上下をこなしつつも、数年・数十年単位で見れば、金(ゴールド)相場は、上昇トレンドを描く可能性が高いと、筆者は考えています。

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年9月時点)

出所:筆者作成

[参考]積立ができる貴金属関連の投資商品例

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入

投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)