徐々に注目されるファイナンシャル・ウェルビーイング

 過去に何度か、ファイナンシャル・ウェルビーイングというテーマを取り上げてきましたが、徐々に言葉が普及し始めています。

 今年の4月にスタートした金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、そのミッションとしてファイナンシャル・ウェルビーイングの実現を掲げています。

 そして、ファイナンシャル・ウェルビーイングとは「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在および将来にわたって、経済的な観点から一人一人が多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」としています。

 なんとなく「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座を開いて投資を始めさせるのが金融経済教育」と思われていますが、そうではない、「お金の問題解決はもっと広い分野にわたり全体として幸福度の向上を行うことが金融経済教育のテーマ」ということを宣言しているわけです。

 ファイナンシャル・ウェルビーイングについて、これは面白いテーマだといろいろ書いてきた身からすると、感慨深いものがあります。

ズバリ、投資は私たちのウェルビーイングを高めてくれるのか

 さて、ファイナンシャル・ウェルビーイングを高める要素としては以下のようなものがあげられます(いずれも有意義であることを示す調査データが存在します)。

  • 年収の向上(特に低年収からの脱出)
  • 家計の安定の向上(年収にかかわらず有意義)
  • ライフプランを通じた将来への計画
  • 消費を通じた満足度の獲得
  • 資産額の増

 などがあげられます。これらは、お金を通じた取り組みを通して経済的な不安を縮小させ、また現在と将来のお金の安心を確保していくことになります。

 このとき、投資は資産を効率的に増やしていくための選択肢といえます。しかし、投資そのものが私たちを幸せにしてくれるのかは、なかなか難しい問題です。投資を通じた幸せはいくつかの次元が同時に存在するからです。

  • 資産の価値(つまり残高)が増える幸せ
  • 資産増が生活の安心、未来の豊かさをもたらす幸せ
  • 投資を通じて社会経済が豊かになることの幸せ
  • 自分が仕事をせずともお金が増えるという幸せ

 などがあげられます。投資をする人としない人の幸福度の違いをダイレクトに質問した調査としては、ブラックロックのデータがあります。これによると幸福度の差は20ポイントも生じているそうです。

 資産形成が順調に推移していることや実際に資産額が積み上がっていくこと、ファイナンシャル・ウェルビーイングを高めることは、別の調査でも幸福度が高いことが示されています。

アクティブ運用、個別株投資が「投資のウェルビーイング」なのか

 投資実感とウェルビーイングについて、もう少し考えてみます。「自分の投資した企業(具体名つき)が成長した!社会の役に立った!」という投資実感が、もし私たちの幸福感を高めてくれるとすれば(確かに高まりそうです)、これは投資を通じたウェルビーイング獲得の一つです。

 しかし、インデックス運用では味わいにくいものです。オールカントリーで全世界の株式にまんべんなく投資をしていると、自分がどの企業に投資をしたのか感覚は持ちにくく、世界の経済成長が平均的に私の資産価値の増をもたらしてくれたと考えることになります。平均というのはなかなか直接的な幸福感につながりにくいものです。

 そうなると、個別株投資やアクティブ運用の投資信託が投資を通じたウェルビーイングを高める可能性があります。

 個別株で、自分が推したいと思う企業に投資、その企業の成長、株価の上昇、社会の発展が伴えば、これはウェルビーイング的にはポジティブです。

 同様に、運用方針、企業選定のコンセプト(場合によっては実際に投資をしている企業名)に賛同してアクティブファンドを買う場合も、基準価額の上昇はウェルビーイング的にプラスになりそうです。

 ただ、いかにもセールストークと結びつきそうな「におい」がするのは気になります。自分自身が内面から実感するよりも、「あなたのウェルビーイングを高める投資」と運用会社や企業からアプローチされる可能性もありそうで、そこは注意が必要です。++

インデックス投資家のウェルビーイングはどう実感されるか

 実は先月、投資とウェルビーイングについて別所でコラムに書いたところ、インデックス投資家から意見をいただきました。「むしろ、個別企業への応援とか実感とかいった感覚を排するところにインデックス投資家のウェルビーイングはあるのではないか」という意見です。

 アクティブファンドがインデックスを平均的に上回らないとして、その差(手数料の割高さ)を「ウェルビーイングな投資」として納得させる恐れがあるのではないか、それならむしろ毎日マーケットウおッチをしなくてもいいインデックス投資を行い、日々の生活や仕事に専念できるほうがファイナンシャル・ウェルビーイングではないか、というわけです。

 本来、ファイナンシャル・ウェルビーイングがお金の不安解消にあるとしたら、それもそのとおりです。銀行預金よりも高い利回りを期待しつつ、投資に対するリソースを割くことはできるだけ抑える一方、リスクを抑える方法としてインデックス投資は魅力的で合理的な選択肢です。

 だとすれば、インデックス投資家のファイナンシャル・ウェルビーイングに、投資実感を無理に介在させなくてもいいのではないか、と考えることができます。これもまた投資とファイナンシャル・ウェルビーイングの一つのアプローチといえるでしょう。

ファイナンシャル・ウェルビーイングは

 もともと「インデックス派」と「アクティブ派(あるいは個別株投資派)」は投資に臨むアプローチが異なります。長期投資家と短期投資家もまたアプローチが異なります。

 これはどちらかが間違っている、というわけではなく、同じ株式市場をフィールドとしていても、違う手法があることが投資のおもしろさだと考えるべきです。

 そう考えれば、ファイナンシャル・ウェルビーイングをどう感じるかも、両者に違う見方があっていいわけです。

 投資を通じて得られるファイナンシャル・ウェルビーイングについて考えてみましたが、あなたはどちらのウェルビーイングがしっくりくるか、一度考えてみてはどうでしょうか。

 運用方針の違いに着目したウェルビーイングの違いや幸福度獲得の差異などの調査がみつかれば、また紹介してみたいと思います。