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著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
石破ショック?日本株は「買い場」と考える理由、歴代内閣と日経平均の動き

外国人売買で乱高下する日本株

 本コラムで繰り返しお伝えしている通り、日本株を動かしているのは過去30年以上、外国人投資家です。外国人は買う時は上値を追って買い、売る時は下値をたたいて売るので、外国人が買い越す月は日経平均株価が上昇し、外国人が売り越す月は日経平均が下落する傾向が鮮明です。

 日本株の動きを予想するとき、「外国人から日本がどう見えているか」を常に考える必要があります。私はファンドマネージャー時代、欧米の年金基金や中東・アジアのソブリンウェルスファンドとしばしば日本株の見方について議論してきました。

 その経験から分かっていることを言いますと、まず外国人投資家は日本の政治をよく見ています。資本主義の構造改革・成長戦略を推進する自民党が選挙で勝って支持率が高まり強いリーダーシップを発揮するときに日本株を積極的に買ってきます。自民党の支持率が低下するときには、日本株を売ってきます。

 本レポートでは、日本の政治が外国人投資家からどう見えているか、私の解釈を詳しく伝えます。その前に注釈です。本レポートは外国人投資家の見方、日本株の先行きを予想するために書くもので、特定の政党や政治家を支持する意図は全くありません。

自民党総裁選に期待が高まっていたが石破氏勝利にはネガティブ反応

 最近、岸田政権の支持率低下が鮮明となり、自民党政権が弱体化する懸念が高まっていたことが、日本株の上値を抑える要因となっていました(円高や米景気動向など他にもいろいろ要因はありますが今日は政治要因にしぼって話をします)。

 ところが、岸田文雄首相が突然退陣を表明し、総裁選に多数の候補者が出て政策議論が盛り上がっていたので、新総裁の下で自民党が支持率を再び高める期待が出ていました。特に、金融緩和を継続、景気刺激策に積極的な高市早苗氏に、その期待が集まっていました。

 9月27日の決選投票では、石破茂氏が高市氏に逆転して勝利しました。金融所得課税強化を実施したいと述べていた石破氏の勝利を受けて、9月30日の日経平均は急落しました。急落の詳しい分析については、以下、昨日のレポートを参照してください。

3分でわかる!今日の投資戦略:2024年9月30日 石破総裁で日経平均が下がるところは「買い場」と考える理由

 私は、石破新総裁は自民党主流派の考えも入れて、バランスの取れた政策を実施していくと予想しています。従って、石破総裁誕生で日経平均が急落したのは「過剰反応」と考えており、日本株は長期投資で良い買い場を迎えていると判断しています。

外国人投資家は小泉内閣と第2次安倍内閣を高く評価

 ここで2001年4月以降の日経平均の動きと、日本の政権推移を振り返ります。

<小泉政権発足以降の歴代首相と日経平均の動き:2001年4月~2024年9月30日>

出所:内閣府官邸HP・QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフで、外国人投資家の大量の買いによって日経平均がダウ工業株30種平均を大幅に上回る上昇率になった年が2回あります。赤丸をつけている所です。2005年と2013年です。2005年はNYダウが前年比0.6%下落する中で日経平均が40.2%上昇しました。2013年はNYダウが26.5%上昇する中で日経平均は56.7%も上昇しました。

 この二つの年の共通点は、「解散総選挙で自民が大勝、小泉首相・安倍首相が強いリーダーシップを発揮」したことです。資本主義の構造改革・成長戦略が進む期待から、外国人が日本株を積極的に買ってきました。米国株以上に、日本株が魅力的になったと外国人が考えた年です。

 2012~2013年に日本株ファンドマネージャーだった私は、欧米、中東、中国、韓国の機関投資家と面談してよく話しました。国が違っても、日本株を見ている外国人投資家の考えには共通点がありました。

 アベノミクスがスタートした2013年によく聞かれたのは以下の言葉です(多数の外国人の言葉を筆者が要約)。「社会主義的な政策を進める政党から資本主義政党に政権が戻ったので日本株のポジションを増やす」

 外国人がいかに日本の政治の変化をよく見ているかご理解いただくために、小泉政権以降の、解散総選挙前後の日経平均をお見せします。解散総選挙後の大きな動きは、外国人投資家が引き起こしています。

<衆院解散総選挙前後の日経平均の動きを比較:総選挙の28営業日前から、58営業日後までの動き>

出所:各種資料より楽天証券経済研究所が作成。総選挙実施日直前の日経平均を100として指数化。▲28は28営業日前、30は30営業日後、50は50営業日後を示す

 2005年の第3次小泉政権による郵政解散選挙と、2012年12月の第2次安倍内閣がスタートした選挙の直後に、外国人投資家は、日本株を大量に買ってきました。

 民主党政権誕生では、外国人投資家は、日本株を売ってきました。岸田内閣開始の後も、外国人は当初、売りが先行しました。「金融所得課税強化」や「企業の内部留保に課税」などの議論が出たことを嫌気したと考えられます。

 ただし、岸田政権は、その後政策を修正し、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など資産立国を目指す戦略を打ち出したことから、その後外国人の買いが復活して、日経平均は大きく上昇しました。

 日経平均の動きには、衆院の解散総選挙以外の要因も複雑に絡み合っています。日本の政治とは関係のない、世界景気の影響も強く受けています。従って、上記のグラフに出ている日経平均の動きが、解散総選挙だけで決まったと言うつもりはありません。

 解散総選挙に伴う外国人の反応は、あくまでも、たくさんある相場変動要因の中の重要な一つです。

解散総選挙の後、石破政権はどうなる?

 二つのシナリオが考えられます。株式市場にとってプラスになる展開とマイナスになる展開です。まず株式市場にとってプラスになる展開、つまり外国人がさらに日本株を買い増ししたくなるシナリオは以下です。

◆株式市場にとってのバラ色シナリオ

【1】石破首相の元、自民党が結束
【2】自民党の支持率が上昇
【3】衆院選で自民党が勝利。
【4】新政権が経済対策・外交で強いリーダーシップを発揮

 上記は、株式市場にとってのバラ色シナリオです。そうなるかもしれないと思う外国人が増えれば、外国人の買いによって日経平均は再び4万円を目指して上昇していくことになると思います。

 一方、株式市場にとっての悲観シナリオは以下の通りです。

◆株式市場にとっての悲観シナリオ

【1】新総裁の元に自民党が結束できず分裂続く
【2】自民党の支持率の低迷続く
【3】衆院選で自民党が敗北
【4】弱体化した政権下で思い切った政策を打ち出せない

 上記の悲観シナリオに近い展開になると思う外国人が増えれば、外国人は日本株を売り、日経平均は再び大きく下がることになるでしょう。

 今後の政治イベントから、目が離せない展開が続くと思います。11月5日に米大統領選があります。共和党が勝つか、民主党が勝つかによって、世界の株式市場に大きな影響が及ぶと思います。それについては、後日、解説します。

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