※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「10月4日(投資の日)は年一度のチャンス」
毎年10月4日は投資脳を再点検する好機
毎年10月4日は「証券投資の日」です。日本証券業協会が、たくさんの人々に証券投資に関心を持ってもらえるよう、「投(とう=10)資(し=4)」の語呂合わせから、1996年に制定、2003年に日本記念日協会に登録しました。
2009年に登録名称を「投資の日」に変更しましたが、2017年からは再び「証券投資の日」で登録されています。証券業界はこの日を中心に、全国各地でさまざまな普及活動を行っています。
図:毎年10月4日は「証券投資の日」
証券に限らず、債券、通貨、コモディティ(国際商品)、金利、暗号資産など、「市場」とつくものは刻々と動いています。人間は、目に見えても見えなくても、動くものに関心を寄せる性質があるため、投資家を含む市場関係者の多くは、ほとんど常に市場の動きに関心を寄せたり、心を奪われたりしています。
何かに関心を寄せ続けていると、近視眼的な状態に陥ることがあります。近視眼的な状態は瞬間的な力は出やすいものの、持続的な力は出にくい傾向があります。投資を含む人生全般においては、数十年単位という長期視点で力を持続させる必要があるため、定期的に頭の中が近視眼的になっていないかを、点検しなければなりません。
筆者は、1年に1回訪れる10月4日は、日ごろから投資で使っている脳を再点検する機会であると考えています。それまでの1年間で行ってきた投資活動を振り返ったり、投資活動の大前提となる市場環境を再確認したり、今後の投資方針を再検討したりする、年に一度のチャンスです。
社会は今、空前の分断期にあるという事実
2024年の証券投資の日が属する週に掲載する本レポートは、世界規模かつ長期視点の市場環境の現在地を確認する場とします。投資脳を再点検する際の一助になれば幸いです。まずは「自由民主主義指数(2023年)」を確認します。
図:自由民主主義指数(2023年)
V-Dem研究所(スウェーデン)は、世界各国の民主主義の状況を数値化して多数の指数を公表しています。自由民主主義指数もその一つです。青が濃ければ濃いほど自由で民主的な度合いが高く、オレンジが濃ければ濃いほど民主的な度合いが低いことを意味します。
人口のシェアは、青が濃く民主的度合いが高い国が17%、オレンジが濃く民主的度合いが低い国が77%と、圧倒的に後者が優位です。率直に言って今、世界は民主主義が行き詰まり、分断状態にあります。民主主義をよしとする欧米が中心の西側(日本を含む)と、そうでない非西側の間に明確な溝が生じています。
また、以下は民主的な度合いが高い国の数と、民主的な度合いが低い国の数の推移です。この推移を見ると、この分断が「2010年ごろ」から始まったことが分かります。
図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945~2023年)
比較的平和とされる日本で暮らしていると世界が分断状態にあり、その分断が深化しつつあることなど想像ができないかもしれません。後述しますが、この分断深化は足元の物価高の一因です。そう考えると、多少なりとも世界分断が深化していることを実感できると思います。
世界分断はなぜ起きた?SNSとESGが一因
自由民主主義指数が示した「2010年ごろ」以降の分断深化は、以下の経路が一因で起きたと筆者は考えています。2010年ごろから普及し始めた「SNS(交流サイト)」と「ESG(環境・社会・企業統治)」が、分断深化に強い影響をもたらしました。
これらはともに、人類(特に西側諸国の人々)が良かれと思って普及させたものですが、2010年ごろ以降、負の面が強く出てしまい、世界分断の一因になってしまっています。
図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ価格上昇の背景
SNSは、もともと人間が持っている「つながりたい」という根源的な欲求を実現するツールでした。しかし、2010年代に起きた北アフリカ・中東地域における民主化の波「アラブの春」や、2016年の英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票、同年のトランプ氏が勝利した米大統領選挙などに、SNSが深く関わったといわれています。
このように、2010年ごろ以降、SNS上で民意が濁流と化して、民主主義の根幹が揺らいだ出来事が何度も発生しています。さらに近年は、感情をむき出しにした投稿や、誹謗(ひぼう)中傷、ニセ情報の横行が、大変な社会問題になっています。
こうした建設的な議論とかけ離れた状態を実現してしまうのもまた、SNSだと言えます。SNSには、民主主義を脅かす装置という側面があると言えます。
そして、西側が正義とする民主主義の行き詰まりは、非西側が勢力を拡大するきっかけになり得ます。その意味で、SNSは世界分断を深化させていると言えます。
また、ESGは2010年ごろから、投資先を選別するツールとして積極的に用いられ始めました。そして確かに、温暖化ガスの排出削減や労働環境の改善などの成果を上げました。ですが、普及が急速・一方的であったため、社会にひずみや分断を生み出しました。「ESG投資がもたらす光と影」と例えられることもあります。
「石油は悪」など、極端な環境保護活動が産油国の立ち位置を下げ、逆にそうした行為によって環境保護をうたう西側の企業に莫大(ばくだい)な資金が流入し、非西側の産油国から、西側の環境保護企業への利益の移転が起きました。ESGもまた、世界分断を深化させていると言えます。
近年、世界のESG投資信託から過去最大の資金流出があった、温室効果ガス排出の正味ゼロを目指す保険業界の国際加盟団体がピーク時から半減した、気候変動関連の株主提案・賛成率が過去10年で最低になった、米国の運用大手のCEOが「ESGという言葉は使わない」と発言した、などESGを否定する動きが強まりはじめ(大手メディアより)、ESGを始めた西側でも混乱が生じてしまっています。(この点も、非西側の勢力拡大につながる)
「2010年ごろ」を起点に考えることが重要
SNSはスマートフォンを介して世界的に普及しました。以下のとおり、2010年が世界のスマートフォン販売台数の本格拡大の起点になりました。
2010年は、初めてインカメラが搭載されたiPhone4が発売された年でした。その後、iPhoneのみならずスマートフォンは、生体認証、ワイヤレス充電、耐水・防じん、デュアルSIM、5G対応、広角カメラなどの機能が豊富になり、世界に広がっていきました。
大衆から人気を得ることを第一とし、民主主義と対極にあるとされるポピュリズムがSNSで膨れ上がりやすい性質を持っていたことに多くの人が気付いたのは、スマートフォンが世界全体にほぼ行き渡った後でした。
図:世界のスマーフォン販売台数 単位:百万台
また、2010年は中国の米国債残高が減少し始めたタイミングでもあります。いわゆる「中国の米国離れの始まり」です。
非西側の急先鋒である中国が、自由で民主的なことを正義とする西側主要国の資産の保有高を減らすことは、西側と非西側の距離が離れることと同じ意味と言えます。オレンジ色の線で示した自由民主主義指数の世界平均が、歩調を合わせるように低下し始めたことが、それを補完しています。
図:中国が保有する米国債残高と自由民主主義指数(世界平均)
さらに、以下は中央銀行による金(ゴールド)の買い越し量の推移です。
図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
中央銀行は「銀行の銀行」と呼ばれています。通貨を発行したり、物価と雇用を安定させるために金融政策を検討・決定したり、事態急変に備えて外貨準備高を保有したりする公的な金融機関です。例えば、日本では日本銀行が、米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)が、EUではECB(欧州中央銀行)が、その役割を担っています。
ウクライナ戦争が勃発したり、米国で急な利上げが行われたりした2022年に金(ゴールド)の積み上げ量(購入-売却)は、統計史上最大となりましたが、もともと、リーマンショック発生後、特に2010年ごろから増加傾向が目立っていました。
中央銀行が外貨準備高の一部を金(ゴールド)で保有する理由は、長期的な価値保全/インフレヘッジ、危機時のパフォーマンス、効果的なポートフォリオの分散化、歴史的地位などです。このグラフは、2010年ごろ以降、中央銀行が世界の分断深化が進んでいることを敏感に察知していることを、示していると言えます。
金(ゴールド)上昇、原油高止まり継続か
2010年ごろ以降、世界分断が深化していることは、世界のスマートフォンの販売台数、中国が保有する米国債残高や自由民主主義指数(世界平均)、中央銀行による金(ゴールド)の買い越し量の状況からも、明らかです。それに「SNS」と「ESG」が加担していることもまた、事実でしょう。
こうした点を見落としたまま、証券、債券、通貨、コモディティ、金利、暗号資産など、「市場」とつくものを分析することなど、到底できません。1年に1回訪れる10月4日は、こうした長期視点の時代の流れを再確認するのに大変に適しています。
投資の際は、近視眼的に目の前の値動きだけを追わず、世界全体において長期視点で起きている事象を意識する必要があります。長期視点の資産形成を行っている投資家だけでなく、短期視点でデイトレードを行っている投資家であっても、こうしたことを知っておくことは必要です。目の前の価格は、膨大な情報を織り込んでいるからです。
以下は、金(ゴールド)と原油の長期視点の価格推移です。金(ゴールド)は歴史的高値を更新中、原油は長期視点で高止まりしています。
図:S&P500指数と金(ゴールド)の価格推移
図:WTI原油(月足平均)
ともに、分析の際は長期視点の高水準であることを意識し、近視眼を取り除く必要があります。その上で短期的には、金(ゴールド)は代替通貨起因の上昇圧力が代替資産起因の下落圧力を打ち消して上昇、原油は増産観測起因の下落圧力と戦争起因の上昇圧力に挟まれて高止まり継続、というシナリオをイメージするのが自然であると、筆者はみています。
日々、慌ただしく動く市場を見ていると、長期視点の世界情勢や各種市場の値位置に意識が行き渡らなくなる時があります。そのような時は、本レポートを読み返していただいたり、毎年の投資の日(10月4日)に思考をリセットしたりしてみるとよいでしょう。投資も人生も「長期視点」は、大変に重要だからです。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)
中期:
関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
商品先物
CFD
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。