先週、株式市場の雰囲気を劇的に変えたのは18日(水)の米国FOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の0.5%利下げが行われたことでした。

 0.25%ずつ利下げするのが一般的なため、その倍の0.5%利下げは米国の景気後退が深刻であることの証明にもなりかねません。果たして株価にとってポジティブかどうか、事前には判断しづらい面もありました。

 しかし、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長はFOMC終了後の記者会見で、0.5%の利下げはあくまで「(景気変動に対して)後手に回らない」ための予防的なものであることを強調。

 米国経済も雇用情勢も堅調に推移していると市場を安心させた上で、0.5%の大幅利下げを新しいペースと捉えるべきではなく今後、利下げを急ぐつもりはないことを強調しました。

 まさに市場が望む最高といえる回答で、利下げという中央銀行の政策大転換を無難に切り抜けたパウエルFRB議長の手腕は見事だったといえるでしょう。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数はFOMC終了当日の18日(水)は小幅安だったものの、週間では前週末比1.36%続伸しました。

 本来、米国が通常の倍の0.5%利下げを行うと日米金利差が大きく縮小するため、急速な円高を招くと警戒されていました。

 しかし、パウエル議長が今後の利下げペースは緩やかになると発言したことで、逆に為替市場ではドル高円安が進行。

 FOMC前の16日(月)には一時1ドル=139円50銭台まで円高が進みましたが、FOMC翌日の19日(木)には143円90銭台まで円安に振れました。

 円安進行を好感して先週の日経平均株価(225種)は前週末比1,142円(3.1%)高の3万7,723円まで上昇。

 トヨタ自動車(7203)が7.3%高となるなど、円安が海外収益の追い風になる自動車株が業種別上昇率ランキングの上位に食い込みました。

 また、3月期決算企業の中間期の配当権利付き最終日が今週26日(木)に迫っていることもあり、海運、石油・石炭製品、鉄鋼といった高配当株セクターが配当権利取りの買いで上昇しました。

 20日(金)昼に終了した日本銀行の金融政策決定会合で追加利上げが見送りになったことも好材料でした。

 取引時間終了後に記者会見した植田和男総裁は、政策判断には「時間的余裕がある」と発言、追加利上げを急がない意向を表明しました。

 7月末の前回会合後には「政策金利0.5%は壁ではない」という追加利上げに積極的な発言が急速な円高進行と世界的な株安につながっただけに、今回は慎重な発言に終始しました。

 日本が祝日の振替休日だった23日(月)には米国の9月PMI(製造業購買担当者景気指数)の速報値が発表され、製造業はここ15カ月で最低の水準まで低下。しかしサービス部門PMIが予想を上回ったことを好感して、S&P500種指数、ダウ工業株30種平均はともに史上最高値を更新しました。

 24日(火)早朝のドル/円レートは1ドル=143円50銭前後と、一時144円40銭台をつけた20日(金)よりやや円高で推移しています。

 連休明け24日(火)の日経平均終値は前週末比216円高の3万7,940円でした。米国株好調のほか取引時間中に中国人民銀行が金融緩和を発表もあり、値上がり幅は一時700円を越え、約3週間ぶりに3万8,000円台を回復しました。しかし、その後は利益確定売りに押されました。

 今週、米国では24日(火)に民間調査会社コンファレンス・ボードの9月消費者信頼感指数、25日(水)に8月の新規住宅販売件数、27日(金)に8月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)が発表されます。

 26日(木)にはニューヨークで開催される米国国債市場会議で、パウエルFRB議長をはじめFRB高官が発言します。

 日本国内では何といっても27日(金)の自民党総裁選の投開票に注目です。

 ここにきて保守派でアベノミクスの株高円安政策を継承する高市早苗氏も有力候補に浮上しており、誰が総裁になるかで日本株が大きく変動する可能性が高いでしょう。

先週:0.5%の予防的利下げ&良好な景気指標で米国株最高値!円安進行で日本株も幅広く上昇!

 先週18日(水)終了のFOMC後には、参加理事たちが今後の政策金利の水準を予想した分布図「ドットチャート」も公開されました。

 2024年中に0.25%の利下げを2回行うというのが中央値でしたが平均値では1.5回程度。今後の利下げペースは緩やかというパウエルFRB議長の発言と一致するものでした。

 実際、先週発表された米国の景気・雇用指標は米国経済のソフトランディング(軟着陸)を示す良好なものばかりだったことも株式市場の安心感につながりました。

 17日(火)の8月小売売上高は前月比0.1%増で予想の0.2%減を上回る伸び。

 19日(木)の週間新規失業保険申請件数も予想を下回る21.9万件で4カ月ぶりの低水準でした。

 これまで落ち込みが続いていた製造業部門も16日(月)の9月ニューヨーク連邦準備銀行製造業景気指数、19日(木)のフィラデルフィア連銀製造業景気指数がともに予想を上回り、これまでのマイナス圏からプラス圏に転換。製造業の組み入れ比率が高いNYダウは前週比1.62%高と史上最高値を連日更新しました。

 今回、米国の景気や雇用が失速する前に先手を打って予防的に0.5%の大幅利下げが行われたことは、株価にとって最良のシナリオといえるでしょう。

 日本株では焼き鳥居酒屋「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループ(3193)が13日(金)の決算発表で今期2025年7月期の最高益更新と大幅増配の見通しを打ち出し、前週末比26.7%も上昇。

 ソフトウエアのテスト業務を行うSHIFT(3697)が16.2%高、日本最大のフリマサービス運営のメルカリ(4385)が12.3%高となるなど、米国の利下げによる世界的な金利低下が追い風になる中小型のグロース(成長)株の上昇が目立ちました。

 円安が追い風の自動車株や高配当が魅力の海運、鉄鋼株といった外需株だけでなく、成長性の高い小売・サービス関連の内需株にも幅広く買いが広がったのは、今後の日本株にとって非常に良い兆候です。

今週:誰が自民党新総裁になるかで相場急変動!米物価高再燃や中東情勢緊迫化に注意!?

 今週は26日(木)の配当権利付き最終日に向け、高配当株に対する買いが続きそうです。

 ただ予想利回りが5%を超え、先週8.0%も上昇した日本郵船(9101)など海運株は昨年2023年も配当権利付き最終日を迎える前に、権利落ち後の下げを見越して株価が下落。11月初旬まで下降トレンドが続いたこともあり、今回もその再来となる恐れもあります。

 27日(金)には9人の候補者が立候補した自民党総裁選で新総裁が選出されます。

 自民党所属の国会議員や党員・党友の支持率調査で有力視されているのは小泉進次郎元環境相、石破茂元自民党幹事長、高市早苗現経済安保相の3人。

 株式の売却益など金融所得課税強化や法人税増税などに言及している石破茂氏が新総裁に選出されると、株式市場にはネガティブでしょう。

 立候補当初に解雇規制緩和を打ち出したあとトーンダウンしている小泉進次郎氏はライドシェア全面解禁などの規制緩和を政策に掲げています。まだ若く外交面などでの力量不足を不安視する声もあり、長期的に見て株式市場がどう反応するかは未知数。

 小泉氏は新総裁に選出されたら、できるだけ早期に衆議院の解散総選挙に打って出ると発言しています。総選挙は株価の追い風になることが多いので期待が持てそうです。

 旧安倍派などからの支持を受ける高市早苗氏はアベノミクスの株高円安政策を継承する可能性が高いので、株式市場にとってはポジティブでしょう。

 保守派で軍事力の増強を唱えているため、三菱重工業(7011)川崎重工業(7012)など防衛関連株には追い風です。

 その一方、中国に対しては強硬な保守派のため、ただでさえ中国経済の不振で株価が下落している産業用ロボットのファナック(6954)安川電機(6506)、化粧品メーカーの資生堂(4911)など中国関連株には逆風になるかもしれません。

 今週の米国経済指標では、27日(金)発表の8月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)が波乱要因になりそうです。

 変動の激しい食品・エネルギーを除くコアPCEデフレーターは7月の前年同期比2.6%増から2.7%増に伸びが加速する予想です。

 もし予想以上に上振れした場合、堅調な米国の経済・雇用情勢を背景に米国の物価高が再び加速する懸念が台頭する可能性もないとはいえないでしょう。

 すでに発表済みの8月CPI(消費者物価指数)では同じコアCPIが事前予想を上回り、住居費などサービス分野の物価高止まりが判明しているだけに注目されそうです。

 先週のFOMCでの0.5%利下げにもかかわらず円安トレンドが進行したことで、今週の日本株には死角らしい死角がありません。

 ただ、そんなときほど思わぬネガティブサプライズが発生するもの。

 週末にはイスラエルとレバノンの武装組織ヒズボラの戦闘が激化するなど、中東情勢が緊迫化しています。思わぬ地政学的リスクの高まりには注意が必要かもしれません。