直近1カ月:米大幅利下げ期待で中小型グロース上昇、円高が上値抑制も
直近1カ月(8月9日~9月20日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで7.7%の上昇となりました。歴史的波乱局面となった8月前半の株価急落からのリバウンドが継続する格好となり、9月2日には3万9,080円まで上昇し、8月の株価急落前の水準をほぼ回復する形となりました。
その後はいったん、9月9日の3万5,247円まで調整しましたが、20日にかけては再度上値追い基調となり、25日移動平均線の3万7,447円レベルを上回ってきている状況です。なお、この期間(8月9日~9月20日)のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は6.5%の上昇となっています。
期間前半は、円高進行の一服や米国の利下げ期待などを背景に、売られ過ぎ是正の動きが続く形となりました。ただ、3万6,000円台を回復後は、しばらく日経平均は方向感の定まらないもみ合いが続きました。
この期間には、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が8月23日に開催された経済シンポジウム・ジャクソンホール会合において、9月の利下げ見通しを明らかにしました。また、市場の注目度が高かった米半導体大手エヌビディアが好決算を発表しましたが、それぞれポジティブなインパクトは限られました。
そして、9月前半には再度調整局面を迎えました。米ISM製造業景気指数が市場予想を下振れ、あらためて米国の景気後退懸念が強まったほか、FOMC(米連邦公開市場委員会)の大幅利下げ観測が強まったことで、為替も再度円高方向にペースを速める状況となり、日本株の売り材料につながりました。
9月17~18日に開催されたFOMCでは、0.25%の利下げにとどまるとの見方も多かった中で、0.5%の大幅利下げが決定しました。しかし、懸念された為替市場でのドル安円高は進まず、むしろ、あく抜け感から円安方向に向かう流れとなりました。結果、その後の株式市場は大きく上昇する展開になっています。
この期間では、円谷フィールズホールディングス(2767)、Appier Group(4180)、SHIFT(3697)、JMDC(4483)、M&A総研ホールディングス(9552)などが30%以上の上昇となるなど、米国の大幅利下げ期待を背景に中小型グロース(成長)株の上昇が目立ちました。総務省がデータセンターの地方分散を後押しと発表したことで、さくらインターネット(3778)なども大幅高となりました。
ほか、フジクラ(5803)は業績予想の大幅上方修正が好感され、住友林業(1911)は利下げに伴う米国の住宅需要拡大が期待される形になりました。セブン&アイ・ホールディングス (3382)もカナダ企業からの買収提案を受けて一時急伸しています。
半面、米半導体関連株の上昇一服傾向が続いたことで、日本マイクロニクス(6871)、野村マイクロ・サイエンス(6254)、ディスコ(6146)、レーザーテック(6920)などの同関連株が下落率上位となっています。
また、円高進行の動きは三越伊勢丹ホールディングス(3099)などの一部インバウンド関連にもネガティブな影響を与えました。三井ハイテック(6966)は想定以上の下方修正がネガティブサプライズにつながりました。
輸出関連中心に円高一服の買い安心感広がる
今後の日米金融政策のコンセンサスとしては、米国では、11、12月のFOMCで0.25%ずつの利下げ実施、日本では、12月、ないしは2025年1月に利上げを実施という見方になっているとみられます。短期的にこのコンセンサスが変化する可能性は低く、当面は、日米金融政策が株式市場のリスク要因にはなりにくいでしょう。この点からは、目先の株式市場は買い安心感が強い状況と言えます。
とりわけ、7月以降のドル安円高反転の動きは、こうした日米金融政策の行方を急速に織り込んだ結果と捉えられ、一段の円高進行の可能性は低下したと考えられます。円高の進行が警戒視されてきた輸出関連株などのリバウンドに注目が向かっていくものと期待できます。
目先の注目イベントとしては、9月26日の中間期末権利落ち、27日の自民党総裁選挙投開票、10月1日の米副大統領候補討論会、ISM製造業景気指数、同日からの中国国慶節入り、7日からのノーベル賞受賞者発表、10月中旬からの米企業の2024年7-9月期決算発表などが挙げられます。
権利落ちに関しては、日経平均で260円程度の配当落ちの影響が想定されていますが、一方で、1.3兆円程度の権利落ち再投資の先物買い需要が発生すると試算されています。このタイミングでは需給面のプラスインパクトが見込めるでしょう。また、米国の利下げでグロース株に関心が向かいやすい中、配当権利落ちの影響が相対的に高いバリュー株から、資金シフトの動きが権利落ち後は一段と進む可能性もあるとみます。
自民党総裁選は現在、小泉進次郎氏、石破茂氏、高市早苗氏の3候補が優位とみられていますが、誰が首相になったとしても、株式市場の先行きに大きな違いは生じないでしょう。ただ、市場の期待が相対的に高い高市氏が勝利した場合、短期的にポジティブインパクトが強まる余地はありそうです。この場合、日銀の利上げタイミングもややずれ込むとの見方が生じるでしょう。
そのほか、2カ月連続で市場にネガティブ反応をもたらした米ISM製造業景気指数の下げ止まりが見られるか、中国の国慶節入りに伴う国内インバウンド(訪日客)需要への影響が強まるかなどが注目されてきます。
今後の物色動向としては、円高進行の一服を映して輸出関連株に期待が高まっていくものと考えられます。輸出関連は一般的にグロース株が多く、利下げに伴う米長期金利の低下も支援となるでしょう。ただ、この先10月後半の決算発表のタイミングではいったん、ここまでの円高による業績への影響を警戒する場面もみられそうです。
半導体関連に関しては、住友ベークライト株の一部シンガポールファンドへの売却、米クアルコムのインテル買収打診報道など、再編期待が高まりつつあることも材料視されそうです。そのほか、米大統領選では民主党候補のハリス氏優位の流れに傾いている印象です。
ハリス氏と共和党候補のトランプ氏とで政策が大きく異なりそうな、EV(電気自動車)を含めた再生エネルギー関連などには見直しの余地が大きいようにみられます。
主力の輸出関連株で高配当利回り銘柄に注目
米FOMCが0.5%の大幅利下げを実施したにもかかわらず、為替市場では円高進行が一服する状況となっています。当面は今後の日米金融政策のコンセンサスが変化する可能性も低く、とりわけ、輸出関連株には買い安心感が強まるとみられます。
円高進行への警戒感を映して、8月初めの3営業日で日経平均は19.5%もの急落となっており、依然としてその後の戻りも限定的な輸出関連株も多いとみられ、見直し余地も大きいと考えます。
一般的にグロース銘柄と位置付けられる輸出関連株は、相対的に配当利回り水準は限定的なものが多いとみられます。そうした中、時価総額1,000億円以上の主力株の中から5%以上の配当利回りがあるものをピックアップしています。輸出関連株としては、海外売上が5割以上あるとみられるものを選定しています。株価が直近安値を付けた8月5日からの上昇率も併記しました。
(表)円安メリットの高配当利回り銘柄
コード | 銘柄名 | 配当 利回り (%) |
9月20日 終値 (円) |
時価総額 (億円) |
海外比率 (%) |
騰落率 (%) |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
7201 | 日産自動車 | 6.16 | 405.9 | 17,131 | 85 | 7.4 | |||||
5444 | 大和工業 | 5.54 | 7,216.0 | 4,690 | 50 | 15.8 | |||||
167A | リョーサン菱洋 ホールディングス |
5.33 | 2,625.0 | 1,569 | 50 | 14.5 | |||||
5105 | TOYO TIRE | 5.15 | 2,037.5 | 3,140 | 78 | 8.3 | |||||
6305 | 日立建機 | 5.00 | 3,500.0 | 7,529 | 84 | 18.7 | |||||
注:騰落率は8月5日終値比 注:海外比率は東洋経済より |
銘柄選定の要件
- 配当利回りが5.0%以上(9月20日現在)
- 時価総額が1,000億円以上
- 海外売上比率が50%以上とみられる銘柄
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 日産自動車(7201・東証プライム)
国内生産台数第2位を争う自動車メーカーです。フランスのルノー、約34%を出資し筆頭株主となっている三菱自動車と3社連合体制を敷いています。また、ホンダとはEVやソフトウエアに関連する領域での協業に向け包括提携を結んでいます。
中国では、東風汽車と合弁で事業を展開しています。軽のEVである「日産サクラ」は2022年度、2023年度と、2年連続で国内EV販売台数トップとなっています。また、プラグインハイブリッド(PHV)車の自社開発も検討、2020年代後半の販売開始を目標としているようです。
2025年3月期第1四半期営業利益は9億円で前年同期比99.2%減となっています。北米を中心に自動車事業の収益が大きく悪化しています。北米生産や販売の減少、インセンティブの上昇、モデル切り替えの失敗などが背景とみられます。
2025年3月期通期営業利益は従来予想の6,000億円から5,000億円、前期比12.1%減に下方修正しています。北米を中心に販売台数計画を下方修正した一方、販売費用などは上振れるようです。下半期には複数の北米での新車投入効果を見込んでいますが、通期営業利益の市場コンセンサスは4,000億円を下回る水準となっているようです。
なお、年間配当金計画は前期比5円増の25円を据え置いています。
9月20日時点において、配当利回り6.16%はプライム上場企業の中で最高水準とみられます。株式市場においては、業績下振れ、それに伴う減配が強く織り込まれている印象があり、仮に、第2四半期決算発表において過度な業績下振れ懸念が払しょくされてくれば、見直し余地は非常に広がっていく可能性があるでしょう。
また、国内自動車企業の中では、EVで優位に立っているとみられるため、米大統領選でハリス氏が勝利する状況となれば、今後のEV市場拡大期待が再燃するため、ポジティブに捉えられていくでしょう。なお、1円/ドルの変動は年間で100億円程度の営業利益増減要因と試算されます。
2 大和工業(5444・東証プライム)
電炉メーカーの大手で、ビルや工場の建設に用いられるH形鋼が7割近くを占める主力製品です。電炉メーカーの中でもいち早く海外に進出しており、現在では、米国、ASEAN(タイ、ベトナム、インドネシア)、中東(バーレーン、サウジアラビア)、韓国に拠点を持っています。
経常利益の75%が海外で占められており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコアヤマトスチールの持分法利益が高水準となっています。自己資本比率は85%で無借金経営、財務安定性は高い状況です。2024年5月には、インドネシア鉄鋼メーカーの形鋼事業を新規に買収しました。
2025年3月期第1四半期経常利益は246億円で前年同期比2.8%減となっています。世界的な鋼材需要や市況の軟化傾向を映して、売上高が大きく減少しました。安価な中国材との競争激化もコストアップ要因につながりました。ただ、持分法投資利益などは順調に拡大し、経常減益幅はほぼ横ばいにとどまっています。
2025年3月期通期では810億円で前期比18.4%減の見通しです。従来計画の770億円からは上方修正、インドネシア事業の順調スタート、円安効果などが背景です。なお、年間配当金は前期比横ばいの400円を計画しています。
2023年4月に、配当性向をこれまでの30%メドから40%メドに引き上げています。豊富なキャッシュ水準からは一段の株主還元拡大に対する市場の期待も高く、第1四半期並みの業績推移が続けば、増配の可能性も残ると考えられます。
また、同社に関しては、米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、保護主義政策の強まりがプラスに影響しやすい銘柄ということができます。最大の収益源は米国の合弁会社であり、米インフラ投資の拡大による恩恵享受が期待されるほか、米国企業第一主義政策もストレートに享受しやすいと考えられます。
3 リョーサン菱和HD(167A・東証プライム)
2024年4月に、菱洋エレクトロとリョーサンが共同株式移転により設立した持株会社です。両社ともに半導体などのデバイス事業を中核とするエレクトロニクス商社で、菱洋エレクトロはICT・ソリューション事業も展開していました。米エヌビディア製品の取り扱いを拡大中です。
現在は統合シナジーの準備フェーズにあるもようで、2025年以降は、本社や管理部門の統一検討、情報共有のDX化推進など、シナジー加速フェーズに入っていく計画となっています。
2025年3月期第1四半期営業利益は13億円で、前年同期の2社単純合算比で63.8%の大幅減益となっています。半導体分野における調整局面の影響が残り、売上高が2桁の減少となっています。また、のれん償却額や人件費増で販売管理費の負担も膨らんでいます。
2025年3月期通期では130億円計画を据え置き、前期2社単純合算比で1.2%の増益に転じる見通しとしています。年度後半からのデバイス事業回復を見込むほか、ソリューション分野では設備機器関連の大型案件の寄与も織り込んでいるようです。
年間配当金は配当性向70%となる140円を計画しています。株主還元としては、100株以上の株主に対して2,000円相当の優待商品も贈呈しています。同社の注目ポイントとしては、今後の統合シナジー効果の本格化となります。
2029年3月期の経営目標では、営業利益300億円を計画していますが、営業シナジーのみならず、コストシナジーだけでも30億円ほどの寄与を見込んでいるようです。また、エレクトロニクス部品商社は依然として多く乱立しており、今後の業界再編を主導していく役割なども担っていきそうです。
4 TOYO TIRE(5105・東証プライム)
タイヤ業界で国内第4位の位置づけです。北米における大口径SUV用タイヤ「オープンカントリー」などに強みがあるとされています。地域別販売構成比では北米が約65%を占め、タイヤ各社の中では最大の水準となっています。
防振ゴム部品などタイヤ以外の自動車部品なども手掛けています。2018年に資本提携を行い三菱商事が筆頭株主となっています。2025年度までの中期計画では、配当性向30%以上を軸に長期安定配当を目指すとしています。2024年8月には、サステナブル素材を採用のアイス性能が大きく進化したスタッドレスタイヤを開発しました。
2024年12月期上半期営業利益は475億円で前年同期比78.3%増となり、従来予想の400億円を大きく上回る着地になりました。為替相場の円安推移、原材料価格や海上運賃などが想定ほど上昇しなかったことで、利益率が向上したようです。
2024年12月期通期では810億円、前期比5.3%増の見通しで、従来予想の780億円から上方修正しています。主に北米事業の利益予想を引き上げています。なお、年間配当金は前期比5円増の105円計画を据え置いていますが、業績の上振れ余地が大きいとみられるため、今後の増配アナウンスが期待されるところでしょう。
北米向けの売上構成比は6割強と、自動車・自動車部品メーカーの中でも極めて高い比率となっています。利下げ局面入りに伴う今後の米国景気回復は、売上構成比の高い米国市場での販売増加が期待できることになり、円安メリットも含めて収益インパクトは強まりそうです。
短期的な期待材料としては株主還元策の強化が挙げられるでしょう。現在の中期計画は2025年が最終年度になっていますが、前倒しで議論が進む余地もあると考えられます。なお、為替感応度は、1円/ドルで年間8億円、1円/ユーロで年間1億円の営業利益変動要因になるもようです。
5 日立建機(6305・東証プライム)
国内第2位の建設機械メーカーで、世界でもトップ5に入るとみられています。油圧ショベルが主力であり、クローラー式油圧ショベルでは世界トップ級と評されています。大型ショベルやリジットダンプなどの鉱山機械にも注力しています。日立製作所が一部株式を売却し、伊藤忠商事と日本産業パートナーズが出資する会社が筆頭株主となっています。
地域別売上比率では米州27%、オセアニア18%、日本16%、欧州13%(2024年3月期)、米州事業の拡大に注力しています。部品・サービス、再生、レンタル・中古車など、バリューチェーン事業の拡充も推進しています。
2025年3月期第1四半期調整後営業利益は325億円で前年同期比13.5%減となっています。欧州やアジアにおける物流減の影響が響いたもようです。2025年3月期通期では1,650億円、前期比1.8%減を据え置いています。
欧州やアジアは下方修正の一方、アフリカやオセアニアは上方修正しているようです。注力するバリューチェーン事業の伸長も見込んでいます。ちなみに、通期では為替要因を41億円の減益要因としています(第1四半期実績は90億円の増益要因)。年間配当金は前期比25円増の175円計画を据え置いています。
機械セクターにおいて、時価総額1,000億円以上の銘柄の中では最も高い配当利回り水準となっています。為替感応度(第2~第4四半期)は、1円/ドルで15億円、1円/ユーロ、1円/豪ドルでそれぞれ3億円となるようです。
景気に左右されにくいバリューチェーン事業の比率が4割超となる見通しで、相対的なディフェンシブ性は高まっていますが、短期的な株価評価には北米での需要拡大が必要となりそうです。この点で言えば、トランプ大統領下での米国インフラ投資拡大が期待されるところでしょう。
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