売った株をその日のうちに買い直すことも時にはある

 株式投資をしていると、売った株をその日のうちに再度買い直したい、と思うこともあるのではないでしょうか。

 例えば「売却後に株価が大きく下落、売却時より安く買えるので買い直した」とか「売却後に株価が反転、再び上昇トレンドに転じそうなので買い直した」というようにです。

 また、年末が近くなるといわゆる「益出し」「損出し」をしたいというニーズも高まってきます。

 例として「過去から繰り越してきた損失が3年経過して今年使い切らないと切り捨てになるため、含み益が生じている株を売却して利益を実現させる」のが「益出し」です。

 一方で「今年の利益がかなり大きいので、含み損を抱えている株をあえて売却して損失を実現させ、利益を圧縮し節税につなげる」というのが「損出し」です。

 このような株の買い直しをするとき、特定口座特有のルールを知っておかないと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれないのです。

買い直した株の取得単価が買い直しの時の株価より高くなってしまう?

 先日、筆者のところに個人投資家の方から次のような質問がありました。

「源泉徴収ありの特定口座で取引しています。1,000円で買った株を800円で損切りしたのですが、その後反発したのでまた上がるかもと思って820円でその日のうちに買い直しをしました。買い直した株の取得単価は当然820円だと思っていたのですが、証券会社のサイトにログインして確認すると、取得単価は820円ではなく910円になっていました。これはいったいどういうことなのでしょうか?」

 実は上記のケースでは、買い直した株の取得単価は820円ではなく910円になります。しかし、個人投資家の多くの方は「なんで?」「どうして?」「どう考えても820円で買い直したのだから910円はおかしい」と思ってしまうはずです。

特定口座特有のルールとは?

 以下の事例をご覧ください。

  1. 1株500円で1,000株保有
  2. 朝に1株800円で1,000株売却
  3. 同日の午後、1株700円になったので1,000株を買い直し

 直感的に考えると損益は次のような計算になるはずです(手数料、諸経費は無視します)。

損益:(800円-500円)×1,000株=30万円
保有株の取得価格:700円×1,000株=70万円

 ところが特定口座を使っている場合、上記のような計算にはならず、次のようになります。

損益:{800円-(500円+700円)÷2}×1,000株=20万円
保有株の取得価格:{(500円+700円)÷2}×1,000株=60万円

 実は特定口座における損益計算には、特定口座特有のルールがあります。

「保有している株をいったん売却して損益を確定させた後、その日のうちに同じ銘柄を買い直した場合、実際の売買の順序に関係なく、買いの方が先に行われたと見なす」

 このため、特定口座で同一日に同じ銘柄の売買を複数回行った場合、自分自身が直感的に想定している利益や保有株の取得価格とは異なる処理となってしまうのです。

 先のご質問の事例でも、買い直し後の取得単価は820円ではなく、「(1,000+820)÷2=910円」となるのです。

 また、それにより税金の扱いも変わってきます。源泉徴収ありの特定口座であれば、売却益が生じたときは直ちに源泉徴収がされるわけですが、自分が直感的に思っていた利益と実際に計算される利益が異なれば、源泉徴収される税額も異なってくることになります。

含み益や含み損を実現させたいときは要注意

 この特定口座特有のルールは、通常であればそれほど影響はないと思います。利益や損失、そして徴収される税額が想定とは異なってはきますが、それにより投資成果に大きな影響を与えるほどのインパクトは生じないでしょう。

 ただ、取得価額が本来購入した価格とは異なってくるので、例えば損切りルールとして「購入価格から10%値下がりしたら損切り」としている方であれば、注意が必要でしょう。

 特定口座特有のルールにより計算された取得価額がご自身の保有株明細には表示されますが、実際の購入価格はそれとは異なるわけですから、ご自身で別途購入価格を記録しておく必要があるなど、多少の面倒は生じます。

 そして最もインパクトが大きいのが、益出しや損出しにより含み益、含み損を実現させたい場合です。

 同じ日に特定口座にて買い直しをした場合、実現損益や買い直し後の取得価額が想定していたのとは全く異なってくる可能性がありますので、十分な注意が必要です。

 次回は、この「特定口座特有のルール」により損益が想定と大きく異なってしまうことを回避するための方法について解説したいと思います。