米FRB議長9月利下げを明言、一時1ドル=143円台の円高に

 8月23日(金)の日本銀行総裁とFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言によって、今後の日米金融政策の方向が再確認できました。日銀は利上げの基本姿勢を維持し、FRBは利下げの時機到来と明言したことによってドル/円は1ドル=143円台の円高に動きました。

 その後、一時145円台の円安となりましたが、ドルの上値は重く144円を挟んだ動きとなっています。

 23日の発言やその後のドル/円相場の動きを振り返りたいと思います。

 日銀の植田和男総裁は23日、衆議院財務金融委員会の閉会中審査で、「市場の動向が、経済・物価の見通しなどに与える影響を見極めつつ、緩和度合いを調整する基本的な姿勢に変わりはない」と繰り返し述べ、状況次第で利上げする可能性を示しました。

 市場では閉会中審査前には、植田総裁は次の利上げを慎重に判断するのではないかとの見方がありました。しかし、7月31日の日銀会合と変わらない姿勢が維持されたことから、為替相場は1ドル=146円台前半から145円台前半まで円高に反応しました。

 一方、米国では、FRBのパウエル議長がジャクソンホール会議の講演(23日)で、「インフレの上振れリスクが低下している一方、雇用の下振れリスクは高まっている」として、「労働市場を支えるためにできることは何でもする」と政策の軸足を物価よりも雇用に移したことを説明しました。

 そして「政策調整の時が来た。金利が向かうべき方向は明確だ」と9月利下げを明言しました。しかし、今後の利下げペースは「データ次第」として具体的な言及はありませんでした。

 パウエル議長の講演は総じて7月末のFOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見と同じ内容で、目新しい発言はありませんでした。しかし講演前に1ドル=146円台半ばまで円安に戻していましたが、144円近辺まで円高となりました。

 やや円高に振れ過ぎとの印象でしたが、週明けさらに143円台の円高に動いていることを見ると、年内の利下げ期待は大きいようです。

 7月31日以降、欧米の中長期投資家は米債買い(金利低下)、ドル売りに大きくシフトしたという話が聞こえてきます。8月23日のイベントは、日米の金融政策が7月末に転換したことを再度確認した意味合いが大きいと思われます。

 ただ、ドル安あるいは円高への方向転換は確認できましたが、日銀の追加利上げの時期や、FRBの利下げペースや利下げ幅に言及がなかったことから、ペースや幅は今後発表される経済指標によって確認していくことになりそうです。

市場は年内1%の米利下げ期待で前のめり?想定崩れドル高に揺り戻しも

 先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチ(FedWatch)によると、年内の利下げ幅は1%を期待していることになっています。

 年内に開催されるFOMCは9、11、12月とあと3回です。1%の利下げ期待ということは、このうち1回は0.50%の利下げを想定していることになります。

 しかし、0.50%の利下げは、景気が急減速したときや、信用問題が急浮上したときにはあるかもしれませんが、現在は労働市場の減速はあっても、まだそのような状況ではありません。

 市場の利下げ期待が前のめりになっているかもしれません。この点は注意する必要があります。もし、年内の利下げが0.25%で3回、あるいは2回との見方になれば、ドルは市場が前のめりした分、一時的にドル高に戻り、その後のドル安の動きはゆっくりとした動きになるかもしれません。

 一方で、0.25%の利下げが続くようなら、市場では米景気が深刻な後退に陥ることなく、ソフトランディング(軟着陸)できるとの安心感が徐々に勝って好材料になるかもしれません。FRBが0.50%の利下げをした場合、市場ではFRBがリセッションを警戒していると捉えられ、ソフトランディングシナリオが崩壊する可能性もあります。

エヌビディア決算、次世代半導体量産遅れで株安・ドル安も

 今週は28日(日本時間29日未明)に米半導体大手エヌビディアの2024年5-7月期決算発表が控えています。増収増益予想ですが、次世代半導体の量産遅延の可能性が報道されており、市場はどのような説明がされるか注目しています。

 市場予想通りの決算内容でも、先行きの不安材料になるなら株は売られることが予想されます。米株式市場をけん引してきたエヌビディア株の動きは、日米の株式市場に影響を与える可能性もあります。株安となった場合は、ドル安円高に振れる可能性があります。

米雇用指標下振れなら大幅利下げ期待高まり、1ドル=140円のドル安円高も

 日米の経済指標では、29日発表の米新規失業保険申請件数、米2024年4-6月期GDP(国内総生産)改定値、30日の8月東京都区部CPI(消費者物価指数)、米7月PCE(個人消費支出)コアデフレーターが注目されます。9月17~18日のFOMCまでには、6日公表の8月米雇用統計、11日の8月米CPIが予定されています。

 経済指標の中では、パウエル議長が下振れリスクを警戒している雇用関連指標には特に注目したいです。

 米労働省が21日に米雇用統計の年次改定を発表しました。この改定で昨年4月~今年3月の1年間の非農業部門雇用者の増加数を81.8万人下方修正しました。

 下方修正幅は2009年以来の大きさでした。しかし、下方修正幅は事前予想では30万~100万人でしたが、100万人を下回ったことで、マーケットの反応は限定的でした。ただ、そもそも調査を巡る難しさがあるといわれており、この改定の評価は分かれているようです。

 今回の下方修正だと、1カ月当たり6.8万人下方修正されることになります。金融政策の判断の前提となる雇用者数の下方修正は、FRBが実体より金融引き締めを長引かせてしまったのではないか、利下げは後手に回ったのではないかとの懸念をくすぶらせています。

 今年4~7月分の増加数(4月10.8万人、5月21.6万人、6月17.9万人、7月11.4万人)の平均は15.4万人となっています。1月から3月分の平均は26.7万人(年次改定修正前)であるため、増加数は今年に入ってから鈍化傾向となっています。

 9月6日発表の8月米雇用統計で雇用者数の増加がさらに鈍化を示せば、大幅利下げの期待が高まる可能性があります。その場合、ドル/円は再び1ドル=140円を目指すかもしれません。

 円高要因として日銀の次の利上げ時期が注目されています。

 10月利上げ観測が高まってきていますが、電気代・ガス代の政府補助が8月分から再開されるため、物価の下押し圧力になった場合、日銀の利上げタイミングがずれる可能性がある点には留意する必要があります。

 特殊要因として物価基調は変わらないと判断するのかどうか注目です。

ECB利下げ期待高まれば、対ドルの円高要因に

 パウエル議長の講演後、ドル全面安となってユーロやポンドは上昇しました。講演後、ドル/円は1ドル=143円台の円高となりましたが、その後一時145円台の円安となりました。

 これはユーロやポンドの上昇によってユーロ/円やポンド/円が円安になったことが後押ししたのかもしれません。

 9月12日にはECB(欧州中央銀行)理事会があります。ラガルド総裁は7月の理事会後、利下げはデータ次第と述べていますが、ECB高官からはハト派発言も増えてきています。

 もし、市場の利下げ期待が高まるのなら、12日の数日前からユーロ安の動きも予想されるため、ドル/円の予想をする際にユーロ、ユーロ/円の動きにも注目する必要があります。

 12日のECB理事会で利下げとなった場合、ユーロは売られ、ユーロ円も売られることが予想されます。これまでのドル安・ユーロ高からドル安、ユーロ安となり、ドル/円の円高のブレーキとなっていたユーロ/円の円安要因が剥がれる可能性がある点には留意する必要がありそうです。