「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第44回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。

セブン&アイにカナダ小売り大手が買収提案

 セブン&アイホールディングス(3382)に対して、カナダの小売り大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案があったことが話題になっています。

 セブン&アイは、2021年に米国スピードウェイのコンビニ事業を約2兆3,000億円で買収するなど積極的なM&A(企業の買収・合併)によって、海外コンビニ事業の成長を加速させてきました。そのセブン&アイをまるごと買収する提案が、カナダのACTから出されたことが大きなサプライズ(驚き)となっています。

 買収提案の詳細は分かりませんが、今のところ「友好的な買収提案」です。ただし、この提案が受け入れられなかった場合、ACTが「同意なきTOB(ティー・オー・ビー:株式公開買い付け)」を実施して、買収を強行する可能性もないとはいえません。セブン&アイの例に限らず、日本株市場では近年、TOBが増えています。そこで、今日は、TOBに関するクイズを出します。

今日のクイズ:TOB公表後、買収提案を受けた企業の株価はどうなる?

 株価1,000円の上場企業A社に対して、B社が1株当たり1,400円でTOBを実施すると発表がありました。A社の株価はその後、どう推移するでしょうか?

 選択肢【1】、【2】のうち、可能性が高い方を選んでください。

(注)A社・B社は架空の会社で、セブン&アイとは無関係。

<公開買付者 B社から発表されたTOB概要>

出所:筆者作成

大量取得の場合はTOB実施義務が課される

 金融商品取引法では、一定の大規模な株式の買い集め行為に対して、TOB実施を義務付けています。市場外取引によって、発行済み株式総数の5%を超える株式を取得する場合、あるいは、市場外の買い付け後に議決権が3分の1を超える場合(※)などに、適用されます。

(※TOB実施義務について適用対象を拡大する改正金融商品取引法が5月に成立しました。改正法の施行後、適用対象は、買い付け後の所有割合が議決権の「3分の1を超える場合」から「30%を超える場合」に広がります)

 経営権取得の意図をもって株式取得を進める投資家の存在を周知し、全ての株主に平等に売りの機会を与えることが目的です。

TOBの全株買い取り義務について

 TOBによって発行済み株式数の3分の2以上を取得する場合、応募があった全株取得が義務付けられます。議決権の3分の2を握れば、残り3分の1を強制的に買い取る特別決議(スクイーズ・アウト)も通せるからです。

 このクイズのB社は、TOBで51%のみ取得を目指しています。従って、全株取得義務は課せられず、51%だけ取得することを選択可能となっています。

クイズの正解は:【1】

 正解は【1】です。

【1】株価1,200円まで上昇して売買成立。その後1,200~1,250円で推移。

 買い付け価格1,400円でTOBが実施されているのに、なぜ1,200円で売買が成立するのでしょうか? その理由は、B社がA社の51%しか買い取らないことにあります。

 B社は、A社の51%しか買いません。従って、TOBに応募しても、全部買い取ってもらえるとは限りません。発行済み株式の約半分(51%)だけ買うわけですから、発行済み株式の全てがTOBに応募してきた場合、その半分しか買い取らないことになります。

 A社株を1,200円で2,000株買い、全てTOBに応募したとしたらもうかるでしょうか? 買い取ってもらえるのは1,000株だけかもしれません。

 買い取ってもらえる1,000株は、1株1,400円で売却できるので、200円の売却益が得られます(売買コストは勘案せず)。

 ところが、買い取ってもらえない残り1,000株はどうなるでしょう? TOBが終わった後、A社株価が元の1,000円に戻ってしまうとしたらどうでしょう? 200円の含み損を抱えることになります。200円の売却益を得て、200円の含み損を抱えると、トータルでは損も得もしません。

 つまりTOBが終わった後に、株価が元の1,000円まで下がると予想されるならば、TOB期間中、1,200円あたりで売り買いが交錯することになります。

 以上は、TOBが成立することを前提とした計算です。もし、応募者が少な過ぎて、TOBが不成立となったらどうでしょう。TOB不成立が発表されるとすぐ、株価は1,000円前後へ急落するでしょう。そうなると、1,200円で買ってTOBに応募した投資家は、含み損を抱えることになります。

 ただし、このTOBが不成立になる可能性は低いと考えられます。以下二つの理由によります。

【1】買付け価格(1,400円)は、直前の株価(1,000円)に40%もの高いプレミアム(上乗せ幅)を付けている。

【2】友好的TOBで、A社経営陣も賛同を表明している。

 以上が、全株を買い取らず、51%のみ買い取るTOBでの計算です。

 もし、B社がA社の全株(100%)取得を目指していて、TOBに応募した全株を買い取ると発表しているならば、どうでしょう。それならば買い取り価格の1,400円に近づくまで、A社株を売る人はいません。つまり、全株買い取りと発表されていれば、正解は【2】となります。

【2】株価は1,300円まで上昇。ストップ高買い気配となって、売買成立せず。次の日1,380円まで上昇して売買成立、その後1,380~1,400円で推移。

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