共働き正社員夫婦、今は大変でも未来は明るい?

 パワーカップルという言葉が普及しています。夫婦ともに正社員で、一定以上の年収を得ている夫婦のことです(合計年収をいくらと定義するかは厳密ではない)。

 合計年収が1,000万円以上や1,500万円以上、あるいは2,000万円以上のように、パワーカップルの定義はいろいろあるようですが、「共働き正社員夫婦」が増えていることは間違いありません。

 統計的にいえば「新卒女性のほとんどが就職をしている」ことにより、「結婚退職、子育て退職は減少している」わけですから、今後結婚したカップルは、共働き正社員夫婦が増えていくことになります。

 しかし、「共働き正社員夫婦」は大変です。移動を含めた会社への拘束時間がそれなりにあるので家事や育児の時間を十分に設けることができません。実際に、正社員夫婦の家事時間は他の世帯類型と比べて少ないというデータもあります。

 また、洗濯乾燥機やロボット掃除機を使うなどして家事を省力化しているとしても、限界があります。部屋がごちゃごちゃになっていたり、つい外食に頼って出費が高くなってしまったり、夫婦で口論が起きることもあるでしょう。

 しかし、共働き正社員夫婦は、「パワー年金カップル」になり「パワー資産形成カップル」になる可能性があります。たとえ合計年収がパワーカップルの定義(高額の不動産を買えるかどうか、の基準として議論されることが多い年収の水準)に該当しない場合においてもです。

パワーカップルよりも「パワー年金カップル」に注目したい

 7月3日、国の年金財政検証結果が公表されましたが、その中で注目されているデータに「若者は厚生年金の加入によって、年金の水準が大幅にアップする」というものがあります。

 普通、若い世代は年金の水準が下がるといわれてきましたが、これは同一条件で比較をしていた場合のことです。今すでに年金生活に入っている女性は専業主婦期間が長く(パートも含む)、国民年金のみあるいは厚生年金を少しだけもらう人が半分くらいを占めています。

 しかし、同じ女性でも現在20歳、30歳の世代を分析してみたところ、厚生年金に20年以上加入している女性の方が多数派となります。男性と同額とならなくても、国民年金のみの専業主婦と比べると2倍以上の年金をもらう女性が増えていくことになると試算されています。

 一方、仮に現在価値で年160万円の年金をもらったとすれば(男性のモデルだと年190万~200万円くらい)、国民年金のみの人との差が年80万円くらいになります。つまり、月7万円くらい老後生活費の予算がアップします。

「老後に2,000万円」とは、高齢者夫婦の支出が月5万~6万円くらいの年金だけでは不足し、手元資金を取り崩していることを自助努力の重要性として指摘したものでした。ところが、夫婦合計で考えると公的年金の金額が「老後に2,000万円」に充当できるくらい増えることになります。

 共働き正社員夫婦の最大の価値は、公的年金増だと私は考えていますが、これを「パワー年金カップル」と呼んでみます。

 また、国のモデル年金では「男性:会社員人生40年+女性:専業主婦人生40年」のような非現実的設定となっていますが、これは前回との比較を行うために同設定にしているにすぎません。

 現実に共働きでがんばる夫婦は、従来の「会社員+専業主婦」のモデル年金額を大きく上回る年金になるのです。

 この「パワー年金カップル」は、合計年収が2,000万円なくても大丈夫です。普通に夫婦ともに会社員をしていれば、十分にパワフルな老後の収入源になるでしょう。

共働き正社員夫婦なら、ダブル退職金で「老後に2,000万円」を確保することも

 さて、年金額が大幅にアップするとはいえ、それだけで老後の安心が確保できるわけではありません。傾向として、年金水準の高い世帯ほど、生活費の水準も高い関係があり、年金が多い人は生活コストも多くなります。

 要するに、定期収入が多いと、それを全て日常生活費に充ててしまい、年金が少ない人よりもちょっとぜいたくをしてしまうわけです。結局のところは、年金が多い人も少ない人も、それなりにお金が足りなくなってしまいがちです。

 しかし、これも共働き正社員夫婦ならカバーの余地があります。まず、ダブル退職金の存在です。従来であれば、正社員は夫1人のモデルですから退職金は1人分しかもらえなかったわけですが、これからは2人分の退職金をもらってリタイアする夫婦が増えていきます。

 退職金の水準は各社各様ですし、女性の方が退職金額が少なくなる傾向がありますから、単純に2倍とはならないでしょうが金額的インパクトは絶大です。(女性の退職金が相対的に低くなるのは、賃金水準、職階級、時短勤務期間の有無などが退職金の算定額に影響を及ぼすため)

 夫婦が1,000万円の退職金をそれぞれもらうだけで、これまた「老後に2,000万円」の準備が完了していたことになります。金額の水準は、自分の会社で調べてみてください。

NISAとiDeCoを上手に活用して「パワー資産形成カップル」を目指そう

 最後に取り組むべきは、やはり投資を通じた資産形成です。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)を活用してさらなる資産形成に取り組んでほしいと思います。

 ここは、共働き正社員夫婦の年収の状況、家族構成の状況などを見ながら考えていくことになりますが、年収100万円程度で働いているケースと比べれば、貯蓄の余力はあるはずです。ぜひ資産形成にお金を振り向けていきましょう。

 NISAの上限を気にする必要はありませんので、それぞれのできる範囲で積立投資を設定していくといいでしょう。

 共働き夫婦の場合、悩ましいのは「夫婦どちらかの口座で集中的に投資をするのか」「夫婦両方が投資をするのか」ですが、ここは制度によって使い分けてみます。

 iDeCoの場合、上限が小さいので「ダブルiDeCo」がいいでしょう。所得税・住民税の非課税効果はできればフル活用したいところ。

 一方、NISAについては枠が大きいため2人分ないと余ってしまう、という心配がありません。投資について理解と関心の高い方がNISA口座を1人分作るやり方でもいいでしょう。もちろん、夫婦がそれぞれ自分のNISA口座を持っても構いません。

 しかし、できればそれぞれが自らの稼ぎから積み立てをする方がいいでしょう。「私は投資は怖いから」と及び腰にならず、少額でもいいので分散投資(投資信託を用いて)でNISAを活用してみてください。

 ダブルNISAでパワー資産形成カップルとなれば、老後はさらにゆとりのあるものとなるでしょう。