先週初め、歴史的な暴落に見舞われた日本株市場ですが、今週も米国の景気指標が相次いで発表されるため、一直線のリバウンド上昇より、激しい乱高下が続く可能性が高いでしょう。

 為替が再び円高に急速に振れると、日経平均株価(225種)が歴代最悪の前営業日比4,451円(12.4%)も暴落した8月5日(月)終値の3万1,458円付近まで再下落する「二番底」シナリオが現実になるかもしれません。

 日本が山の日の振替休日だった12日(月)の米国市場はイランによるイスラエル攻撃が警戒されるなど地政学的リスクの高まりもあって、ほぼ横ばいで終了。

 ニューヨーク外国為替市場の円相場終値は1ドル=147円10銭台まで円安ドル高に振れ、円高が一服しました。

 連休明け13日(火)の東京株式市場の日経平均終値は円安トレンド回復を受けて、前週末比1,207円高の3万6,232円でした。連休中の米ハイテク株高を追い風に東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)など半導体関連株に買いが集まったほか、フジクラ(5803)SOMPOホールディングス(8630)など好決算銘柄の上昇も目立ちました。

 先週の暴落は急速な円高と米国の景気後退懸念が主因でしたが、今週は13日(火)に米国の7月PPI(卸売物価指数)、14日(水)には7月CPI(消費者物価指数)が発表されます。

 7月CPIが予想を超える伸びだった場合、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーションに対する懸念が高まります。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が9月以降、連続して利下げをしづらい環境になるため、株価再急落の恐れもあります。

 逆に7月CPIで予想を大幅に下回るような物価高の鈍化が判明すると、いよいよ米国の景気後退が現実味を帯びるため、これもまたネガティブでしょう。

 市場予想とほぼ変わらない、緩やかな物価高の鈍化が株価の安定の条件でしょう。

 日経平均は今週、7月11日(木)の史上最高値4万2,426円からの下落幅の半値戻しを達成するには3万6,791円まで上昇する必要があり、3万7,000円前後を回復できるかどうかが焦点になりそうです。

 一方、機関投資家が運用指針にする米国S&P500種指数の9日(金)終値は前週末比0.04%安とほぼ変わらず。

 週明け12日(月)も重要物価指標の発表を前に前週末比ぴったり横ばいで踏みとどまっていることから、米国の景気後退懸念が杞憂(きゆう)に終わり、再び上昇軌道に回復する可能性も高そうです。

 日本国内では8日(木)の宮崎県日向灘を震源とした地震発生に伴い、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が15日(木)まで発出中のため、地震災害に対する警戒も必要でしょう。

先週:日銀ショックが円キャリートレードの巻き戻しで世界同時株安に波及!

 先週の日経平均は5日(月)の暴落後、6日(火)には前日比3,217円高と過去最大の上げ幅を記録しました。時価総額の大きな大型株の組み入れ比率が高いTOPIX(東証株価指数)も5日に前営業日比12.2%安と過去最大の下落率でした。

 日銀が7月31日(水)終了の金融政策決定会合で、大方の予想を裏切る政策金利の0.25%程度程度への利上げを決定。植田和男総裁が会合後の記者会見で政策金利0.5%も「壁ではない」と金融引き締めに積極的なタカ派的姿勢に一変したことで、一時1ドル=141円70銭台まで急速な円高が進行したことが暴落の最大要因でした。

 7月11日(木)の史上最高値4万2,426円から8月5日(月)の最安値3万1,156円までの下落率は26.6%に達し、下落幅は1万1,270円となりました。

 その後、内田真一副総裁が7日(水)に「金融市場が不安定な状況で、利上げをすることはしない」と、市場に広がる日銀の追加利上げ不安に対する火消し発言を行ったことも相場のリバウンド上昇に貢献しました。

 その後は一進一退の展開となり、先週1週間では前週比884円(2.5%)安の3万5,025円で終了。

 先週1週間の業種別騰落率を見ると、円高が収益圧迫要因の輸送用機器など外需株の下落率が大きくなっています。

 内需株で本来、利上げが収益増につながる銀行業の下落率が2番目に悪いのは、材料出尽くしの売りが膨らんだせいもあるでしょう。

 日銀の意表を突く利上げと円高の進行で国内景気が再びデフレ経済に逆戻りするという市場の懸念もあるでしょう。

 トヨタ自動車(7203)の9日終値は前週末比5.3%安。三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は7.0%安となりました。

「日銀ショック」といえる急落は、米国市場にも波及。5日(月)の米国市場ではS&P500種指数が前週末から3.0%も急落しました。

 世界の金融市場では、金利の安い日本円を金利が高い米ドルなどの外貨に両替して海外市場のリスク商品に投資する「円キャリートレード」が幅広く行われていました。

 急速な円高で、円キャリートレードの巻き戻しが起こったことが5日の世界同時株安の原因と報じられています。

 円キャリートレードの巻き戻しはまだ終わっておらず、一部には1ドル=100円になるまで続くという声もあるほど。

 米国の景気後退懸念が現実のものとなり、米国のFRBが9月18日(水)終了のFOMC(米連邦公開市場委員会)を待たずに緊急利下げを行う可能性も取り沙汰(ざた)されています。そうなると事態の深刻さに対する不安で、株価はさらに下落するかもしれません。

 一方、先週発表の米国景気指標では5日(月)のISM(全米供給管理協会)の7月非製造業景況指数が予想を上回る51.4と、好不況の境目である50を上回り、4年ぶりの低水準だった前月6月から急回復。

 8日(木)発表の米国の週間新規失業保険申請件数も前週比1万7,000件減少の23.3万人と、ここ1年近くで最大の減少幅となり、米国の景気後退懸念は小休止しました。

 米国では2日(金)発表の7月雇用統計で失業率が4.3%まで悪化しています。

 この結果を受けて、失業率の3カ月移動平均が過去1年間の最低水準を0.5%上回るとすでに実際経済が景気後退に陥っている可能性が高いという「サーム・ルール」が発動。

 サーム・ルールは、元FRBのエコノミスト、クラウディア・サーム氏が考案したもの。これまでの米国の景気後退局面を高い精度で的中させてきた定評のあるルールです。

 当のサーム氏は、現時点で米国経済が景気後退に陥っている可能性は極めて低いものの、「(景気後退の状況に)不快なほど近づきつつある」と発言しています。

 今回の失業率の上昇はあくまで「異常値」で、コロナ明けの労働需要の高まりで米国の失業率が大きく低下した状態から通常の状態に戻っただけという見方もあり、今後、米国が本当に景気後退に陥るかどうかはまだ疑わしいところです。

今週:米国の7月CPI、小売売上高で乱高下必至!AIバブルの崩壊続く?

 今週は米国の物価指標として注目度の高い7月PPIが日本時間で13日(火)夜、7月CPIが14日(水)夜に発表されます。

 前回6月PPIは予想を上回る前年同月比2.6%の伸びでしたが、今回7月は2.2%の伸びまで上昇が鈍化する予想です。

 一方、7月CPIは前年同月比3.0%上昇の予想です。前回6月は予想を大幅に下回る前年同月比3.0%伸び、前月比では0.1%のマイナスとなり、物価高の鈍化が鮮明でした。

 冒頭にも述べた通り、7月PPI、CPIともに、予想より良すぎても悪すぎても株価の激しい乱高下につながる可能性があります。

 15日(木)には米国のGDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費の動向が分かる7月小売売上高や8月のニューヨーク、フィラデルフィア両連邦地区銀行の製造業景気指数も発表。

 普段はそれほど重要視されていませんが、米国の景気後退不安が台頭したことで今、注目指標になっている前週分の新規失業保険申請件数も発表されます。

 16日(金)には7月住宅着工件数や8月のミシガン大学消費者態度指数の速報値も発表。

 米国株の上昇を先導してきた「マグニフィセント7」と呼ばれる巨大IT企業の株価を見ると、8月に入って9日(金)終値時点で7社中6社が2~14%下落。

 例年、株式市場では8月後半から9月にかけて季節的に株価が下落しやすいことも、二番底不安につながっています。

 ただ、今回の暴落は日銀の予想外の利上げと、にわかに降って湧いたような米国景気後退懸念という、かなり突発的で一過性に過ぎないかもしれない原因によるものです。

 2008年9月に発生したリーマン・ショックのような米国住宅バブルの崩壊と金融危機に伴う深刻な景気悪化と違い、切迫感がそれほどない面もあります。

 AI(人工知能)バブルの主役株である米国高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)の株価は7月の前月比5.28%安に続いて、今月8月も12日(月)終値時点で10.5%下落。

 しかし、今週12日(月)夜に前週末比4.08%もリバウンド上昇。

 これは先週9日(金)の取引終了後に2025年3月期の通期予想を大幅に上方修正した東京エレクトロン(8035)をはじめ、今週前半の日本の半導体株にとって朗報でしょう。

 米国の景気後退やAIバブルの崩壊で先週前半のような暴落が今後も続くのか、それとも米国の景気後退懸念は単なる「気の迷い」「高値圏にあった株を利益確定するための口実」に過ぎないのか。

 その判断はまだ難しいでしょう。