ファンダメンタル分析の基礎知識をご紹介する5回目は、「配当利回り」です。配当利回りは非常に分かりやすくシンプルな指標ですが、実は、PERと同じくらい取り扱いが難しいものなのです。

インカムゲイン派の個人投資家は見逃せない指標「配当利回り」

株式投資で得ることのできる利益には大きく分けて「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」の2つがあることはご存知の方も多いと思います。

キャピタルゲインとは、株の値上がりにより得られる利益、インカムゲインとは配当金を受け取ることにより得られる利益です。

これ以外に、個人投資家が大好きな株主優待も、その内容によっては実質的にはインカムゲインと同様の効果があります。

そして、インカムゲインを重視する個人投資家にとって、見逃すことができないのが「配当利回り」という指標です。

配当利回りは、以下の計算式で求めることができます。

配当利回り(%)=当期予想1株当たり配当金÷株価×100

株価が2500円、当期予想1株当たり配当金が40円とすれば、配当利回りは40÷2500×100=1.6%となります。

配当利回りとPER、2つの計算式に共通するものとは?

ここで改めて、配当利回りの計算式をよく見てください。この式が何を表しているかが分からなければ、配当利回りを基準に銘柄を選んでいるつもりが、配当利回りにいつの間にか翻弄されてしまうことにもなりかねません。

ヒントとなるのが、実は前回のコラムにて取り上げた「PER」なのです。

PERの計算式は次のとおりです。

PER(倍)=株価÷当期の予想1株当たり当期純利益

配当利回りの計算式と見比べてみて、何か共通点があることがお分かりになったでしょうか?

それは、「当期」の「予想」が計算式の中に含まれているという点です。

つまり、PERの注意点、落とし穴を理解することができていれば、配当利回りの注意点、落とし穴もおのずと理解することができるというわけです。

注意点その1-配当利回りはあくまでも「予想」である

改めて配当利回りの計算式をみると、分子の当期1株当たり配当金はあくまでも予想であることが分かります。

ということは、会社側が発表している当期の配当金予想のとおりに、実際支払われるかどうかは不確定なのです。

予想通りの配当金が支払われるかもしれないし、予想より実際は少なくなるかも知れません。逆に予想よりたくさん支払われる可能性だってあるのです。

仮に現在の株価1000円、1株当たり予想配当金が30円とすれば、配当利回りは30÷1000×100=3%となり、これだけを見ればかなりの高配当と判断できます。

でも、プロ投資家の目からみて、1株当たりの配当金を30円出すのは難しそうだ、せいぜい15円ではないか、という判断になれば、プロ目線の実質的な配当利回りは15÷1000×100=1.5%にまで低下し、決して高配当とは言えない水準にまで下がってしまいます。

このように、会社発表の1株当たり配当金はあくまでも予想であり、そこから上下に変動する可能性があります。配当利回りが高いのは、あくまで表面上のものにすぎず、実態は決して高くないということも頻繁にあるという点に注意してください。

注意点その2-配当利回りはあくまでも「当期」の「予想」である

もう1つ、大きな注意点があります。それは、配当利回りはあくまでも当期の配当金をベースにしたものだということです。

一昔前は、配当金といえば、業績にかかわらず毎年同じ額を配当し続ける、いわゆる「安定配当」が主流でした。そのような状況なら、配当利回りの数値にも意味がありました。

しかし現在は、業績の変動に応じて配当金も柔軟に変動させる、という考え方が一般的になっています。

となると、当期の予想値どおりに当期の配当金が支払われるとしても、当期の数値をベースにして計算された配当利回りを表面的に用いて判断することはかなり危険であるといえます。

具体的な数値例を挙げてみましょう。配当利回りが2%で同じA株、B株、C株があるとします。株価は全て1000円、当期の1株当たり配当金は20円です。

  • A株は業績が安定していて、今後も同程度の配当金が期待できる
  • B株は業績が伸びていて、今後配当金の増額も期待できる
  • C株は業績が悪化傾向にあり、今後は配当金の減額の恐れも高い

このような状況で、A株、B株、C株の株価のうち、どれが最も割安で、どれが最も割高だと思いますか?

正解は最も割安なのがB株、次がA株、最も割高なのがC株です。

このように、配当利回りの計算式の分子は、「当期」の配当金です。それ以降の配当金がどうなるかについては、投資家自身が予想しなければなりません。

表面上同じ配当利回りであっても、将来の見通しにより割安にも割高にもなり得る、これが配当利回りを使った銘柄選びの難しさなのです。

次回は、今回の内容を踏まえ、配当利回りを具体的に銘柄選びの際に活用するための方法をお話ししたいと思います。

 

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