年初の相場見通しで米大統領選挙が今年最大の材料と申し上げたが、7月時点でここまでダイナミックに相場に影響を及ぼすとは、想定以上だったかもしれない。少なくとも、ここまでの選挙戦は想像をはるかに上回るドラマティックな展開だった。
年初の予想では、11月の選挙で民主党が勝てばBTC売り、共和党が勝てばBTC買いとして場合分けをしていた。これは、ゲンスラー証券取引委員長に代表される現政権が暗号資産に対し厳しい態度をとっているからだ。
民主党は元から暗号資産業界に厳しかった訳ではない。日本経済新聞によれば、2022年の中間選挙において破綻したFTXのSBF(サム・バンクマン・フリード)氏はジョージ・ソロス氏に次ぐ、個人としては2番目の民主党への献金者だった。こうした蜜月関係は2022年11月のFTX破綻によって一変する。
全米で多くの被害者が発生し、SBF氏は刑事被告人となり、民主党は同氏からの献金を返還した。同氏との関係を議会に追及されたゲンスラー委員長は、法律が曖昧で暗号資産業者を取り締まり切れなかったが現行法でもできることがあると、2023年に入ると暗号資産業者を次々と訴追した。
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米国では連邦ベースで暗号資産を定義する法律がなく、1930年代の証券法と1946年の判例を基に証券に該当するか否かを判断している。この曖昧さにつけこんで、業者が取り扱っている暗号資産を後から証券だと指摘した。
また、証券法で摘発するという「法執行による規制」を繰り返し、ついには裁判所から権利の乱用と指摘され、被告の訴訟費用を負担するように求められたこともあった。
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この委員長の背後には、消費者保護の大家で民主党左派の重鎮である、エリザベス・ウォーレン上院議員がいると指摘されていた。同氏は、2024年改選に向けたキャンペーンで2023年3月に反暗号資産軍結成を宣言した。要は、FTX破綻により被害を受けたり、暗号資産に否定的な層の支持を取りに行ったりした格好だった。
そして、バイデン大統領自体に暗号資産に対する知見がどの程度あったのかは不明である。しかし、元々2020年の予備選初戦で4位に沈み、ウォーレン候補など左派の協力を得て予備選を勝ち抜いた恩があるせいか、大統領は暗号資産政策に関してはほぼ左派の言う通りだった。
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ところが、2024年1月にBTC 現物ETF(上場投資信託)が誕生し、これまで暗号資産に縁がなかった60代以上のベビーブーマー世代を中心に大ヒットすると、米国における暗号資産に対する空気感に変化が見られ始めた。
この点を素早くかぎつけたのがトランプ陣営で、5月の同氏が発行したNFT保有者とのディナーで「バイデン政権の暗号資産敵視政策をストップする」と息巻いた。続いて暗号資産での寄付を受け入れ、共和党の公約にマイナーの保護と暗号資産の推進を盛り込み、ついには7月27日のビットコイン・カンファレンスに登壇するに至っている。
実は、トランプ氏は元々それほど暗号資産寄りではなかった。米国ファーストの前職時代には、米ドルこそ重要でBTCのファンではないと公言していた。また、共和党の予備選では、対抗馬のラマスワミ氏やデサンティス・フロリダ州知事が暗号資産寄りの姿勢を取っていたせいか、トランプ氏が暗号資産に言及することはほとんどなかった。
このトランプ陣営の変わり身に驚いたのが、11月の選挙で改選予定の民主党議員たちだった。要は、全米5,000万人の暗号資産ユーザーを敵に回しては自分の選挙を戦えないと民主党から造反者が相次いだ。米議会は上院が民主党、下院が共和党とねじれているせいで、暗号資産に関する法案がほとんど通らない状況が続いていた。
しかし、SAB121と言って銀行などの暗号資産カストディー参入を事実上拒んでいるSECの会計指針を停止する共和党が提案した法案が、民主党から多数の造反者が出た結果、上下両院を通過してしまった。この法案は大統領が拒否権を発動したが、下院が提出していた暗号資産の定義を明確にした。
また、SECの「法執行による規制」にくぎを刺す、FIT21(21世紀の金融イノベーション法案)が下院を通過し、民主党からの造反者には重鎮であり大統領の盟友ペロシ元議長も含まれていた。
こうした中、ETH ETFが5月23日に急きょ承認され、7月23日にローンチされた。誰かは分からないが、SECは当初否認する方向だったところ「鶴の一声」で直前に承認に方針が変わったと報じられている。このように両陣営が暗号資産ユーザーの取り合いをする構図となり、選挙結果がどちらに転んでも、BTC価格が上昇しそうな状況となった。
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ところが、この話はまだ終わらなかった。6月27日(日本時間28日)のTV討論会でバイデン大統領の覇気がなく、民主党内で候補者交代の声が上がり始めた。トランプ氏の当選確実と見た市場では「もしトラ」トレードが活発化。
さらに7月14日の暗殺未遂事件を受け「もしトラ」が「ほぼトラ」「確トラ」となり、続いて17日のブルームバーグのロングインタビューでトランプノミクスの基本方針として低金利、低課税、ドル安が示された。この組み合わせでは暗号資産を推さなくとも結局BTC買いになるという見方が出回り、上昇に拍車がかかった。
しかし、22日のバイデン大統領の選挙戦からの撤退、ハリス副大統領の後継指名を受け、一部の調査でハリス氏がトランプ氏をリードし、「ほぼトラ」が「もしトラ」に後退した。
また、7月27日にナッシュビルで開催されるビットコイン・カンファレンスというビットコインにおける最大の会議にトランプ氏とケネディJr氏がスピーチを予定している。これにハリス氏も登壇を招待されていたが、同氏はこれを拒否し、バイデン氏よりリベラル寄りとされる同氏の暗号資産政策が懸念されている。
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そのカンファレンスでトランプ氏は、「米政府が外貨準備(正確にはBTCは外貨ではないので戦略備蓄資産といわれている)としてBTCを保有する」「暗号資産業界に敵対しているとされるゲンスラーSEC委員長を解任する」「米国を暗号資産の首都にする」などと踏み込んだ。これに対し、民主党支持者から、ハリス氏の暗号資産寄りの姿勢を求める声は高まっているが、肝心な同氏は沈黙を保っている。
一方で、複数の民主党議員はゲンスラー委員長を解任し、ハリス氏の副大統領候補に暗号資産推進派を選ぶよう、党本部に要請書を提出している。
弊社では、今年最大の材料は米大統領選挙だとして、共和党ならBTC買い、民主党ならBTC売りと場合分けして予想していたが、バイデン政権が暗号資産寄りになったことを受け、どちらが勝ってもと予想を一本化した。
しかし、大統領候補がバイデン氏から左寄りのハリス氏に交代したことで、場合によってはトランプ氏ならBTC買い、ハリス氏ならBTC売りという構図が復活するかもしれない。
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