本レポートに掲載した銘柄

スズキ(7269)SUBARU(7270)トヨタ自動車(7203)

 

各国の新車販売台数の動き

今回は、自動車セクターについてコメントします。来週以降に電気自動車について書く予定なので、その前編として自動車セクターを概観します。

世界の自動車販売台数(新車販売台数)は2016年に前年比4.7%増の9386万台(商用車を含む)になりました。アメリカのように不振に陥り始めている国がある一方で、インドのように順調に市場が拡大している国もあります。2010年から2016年まで世界の新車販売台数は堅調に伸びてきましたが、今年も堅調な伸びが見込まれます。

世界新車販売台数が年率2~3%で伸びると3~4年で1億台の大台に乗せます。例えば、10万円のADAS(先進運転支援システム)を1億台の10%の1000万台に装着すると、1兆円の市場が出来ます。10~20万円でレベル2の半自動運転システムを1000万台に装着すると2兆円になります。自動車産業は、完成車メーカーにとってだけでなく、自動車部品、電子部品、半導体、ソフトウェアなど多種多様な産業にとって重要な産業です。

グラフ2、3は新車販売の各国の動きですが、上述のようにアメリカのマイナス傾向がはっきりしてきました。中国についても小型車に対する補助金を削減したため、今後には注意が必要です。一方で、インドなどのアジアが順調に伸びています。欧州も順調です。日本も新車効果で回復してきました。

このように見ると、世界の自動車市場で最も問題なのはアメリカ市場ということになります。

グラフ1 世界自動車販売台数

(単位:万台、暦年、商用車を含む、出所:国際自動車工業連合会(OICA)より楽天証券作成)

グラフ2 各国新車販売台数:前年比1

(単位:%、出所:AUTODATA、各国自動車工業会より楽天証券作成)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラフ3 各国新車販売台数:前年比2

(単位:%、出所:各国自動車工業会より楽天証券作成)

アメリカ市場は引き続き悪化

アメリカの調査会社オートデータのデータを見ると、アメリカ新車販売台数のマイナス傾向がはっきりしています。

表1ように、アメリカでは乗用車とライトトラック(SUVとピックアップトラック)の合計が、2017年1月から前年割れしています。SUVブームが続いているため、ライトトラックは伸び続けていますが、乗用車(セダン)市場の減少に歯止めがかかりません。セダンに販売奨励金を投入して販売を持ち上げるべきなのか、あきらめてSUVにより一層シフトすべきなのか、もしそうした場合に目論みどおりにSUVが売れ続けるのか、先行きには不透明感が増しています。

私は、これまでのトレンドから、2017年暦年のアメリカ新車販売台数が1700万台を割り込む可能性があると考えています。2018年も回復が難しいかもしれません。

また、最近話題になっているアメリカの家計のローン残高を見たものがグラフ6、7です。2008年から減少してきた住宅関連ローン(モーゲージ(不動産抵当権担保ローン)、ホームエクイティローン(自宅担保ローン))が2013年から増加に転じており、家計債務の合計が2008年水準に接近しています(グラフ6)。このうちオートローン、学生ローン、クレジットカードを抜き出してみると(グラフ7)、オートローンの残高が2008年9月のリーマンショック前の水準を上回っています。特に学生ローンが大きく伸びており、20~30才代の家計が圧迫されて車の購入が厳しくなっている可能性があります。オートローンを含むアメリカの家計債務の状況からみると、新車販売に対してはかなり注意が必要になってきました。

アメリカ新車販売台数の動きがどうなるかが、スズキ(既にアメリカから撤退した)を除く日系自動車メーカー、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、SUBARU、マツダにとって大きな問題です。これはアメリカでの現地生産と日本からの輸出を含めたアメリカ事業が、各社にとって今も最も収益性の高い事業だからです。

特に気になるのがトヨタ自動車です。今秋、旗艦車種であるカムリの新型を北米で発売する予定です。トヨタの新設計生産思想「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」をフル適応した初めての車になります。トヨタは新型カムリでセダンの復権を目指すと思われますが、計画通りに行くかどうか、注意が必要です。

なお、トランプ大統領が提唱していた国境税については、今のトランプ大統領の政治力と優先順位では実現の可能性は薄いと思われます(注意は怠れませんが)。これは日系自動車メーカーにとってポジティブな要因です。

グラフ4 アメリカの新車販売台数(年率換算)

(単位100万台、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

表1 アメリカの新車販売台数:前年比

 

グラフ5 アメリカの新車販売台数

(単位:万台、暦年、出所:AUTODATAより楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ6 アメリカの家計債務;合計

(単位:1兆ドル、出所:ニューヨーク連邦準備銀行より楽天証券作成)

(単位:1兆ドル、出所:ニューヨーク連邦準備銀行より楽天証券作成)

グラフ7 アメリカの家計債務;学生ローン、クレジットカード、オートローン

(単位:1兆ドル、出所:ニューヨーク連邦準備銀行より楽天証券作成)

新興国市場に注目したい

アメリカ以外の国、地域は概ね順調です。日本は新車効果で前年比二桁増になってきました。持続性が今後の問題になりますが、下げ止まって反発してきたと考えてよさそうです。メーカーと車種では、トヨタ自動車(プリウスPHV、C-HR)、SUBARU(新型インプレッサ)、日産自動車(ノートe-POWER、新型セレナ)の伸びが目立ちます。

欧州も順調に伸びています。日系メーカーのシェアが小さい地域ですが、スズキ、トヨタが実績を挙げています。

中国は市場全体では小型車減税の減税幅が半分になった影響が出ており、若干マイナス成長になっていますが、日系メーカーの売れ行きは順調です。

インドは、2016年11月に非合法資金対策のためにインド政府が高額紙幣を廃止したために、自動車のような高額耐久消費財の市場にネガティブな影響が出ていました。ただし現在は、この影響がなくなり、再び成長路線に回帰しています。インド市場ではスズキが40%以上のトップシェアを持っており、インドの動きはスズキの業績に直結します。

表2 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

円安は今期業績にプラス

為替の影響を表3で試算しました。今のところ、各社の今期前提レートよりも円安になっており、今の為替レートが維持されるならば、各社に円安メリットが発生すると思われます。

ただし、マツダのようにもともと今期増益見通しを出してはいますが、足元のアメリカ販売動向が芳しくない会社もあります。マツダ以外の会社についても、今後必ずしも会社側の目論み通りに新車が売れるとは限りません(特にアメリカ市場が焦点になります)。今のところ為替は業績上のマイナス要因にはならないという程度です。

表3 自動車各社に対する為替の影響(試算):2018年3月期

 

グラフ8 為替レートの推移

(単位:円/ドル、円/ユーロ、2017年1-3月期まではトヨタの期中平均レート、2017年4-6月期は楽天証券試算、それ以降は楽天証券前提)

自動運転と電気自動車がこれからの自動車販売の決め手に

自動運転と電気自動車はこれからの自動車メーカーにとって最重要課題です。そのため、この問題は別に論じることにして、ここでは概略を述べます。

まず、自動運転に対して、日系メーカーは自動運転のレベル1(ADAS)、レベル2までは対応しようとしていますが、レベル3(条件付き完全自動運転)、レベル4(地域制限がある完全自動運転)、レベル5(地域制限のない完全自動運転)に対しては消極的です(トヨタ筆頭にそう見えます)。

電気自動車についても、日産自動車を除いて消極的に見えます。

しかし、アメリカで新車販売が苦しくなっており、当面この状況が続きそうです。そうなると売るための付加価値が重要になってきます。自動運転と電気自動車は新車を売るための重要な付加価値になると思われます。更に、自動運転と電気自動車への対応が自動車メーカーのブランドを決定する可能性もあります。

これらのことを考えると、日系メーカーの多くが自動運転と電気自動車に積極的に取り組もうとしないのは、投資判断する上でマイナス要因になると思われます。

注目銘柄

現在の自動車セクターを取り巻く環境と各社の動きを分析すると、アメリカで活動する日系メーカー、例えばトヨタ自動車、SUBARUよりも、アメリカから撤退してインド、日本、欧州に展開するスズキのほうに投資妙味があると思われます。トヨタ自動車は為替メリットが見込まれますが、今秋発売の新型カムリの売れ行きに不安があること、自動運転(完全自動運転)と電気自動車に熱心でないと思われることが株価上の難点です。

SUBARUは日米ともに販売台数が伸びており、円安メリットも期待できます。販売奨励金も他社よりも低い水準です。このため、業績上方修正の期待が持てます。ただし、主力市場のアメリカの市場悪化の影響を株価が受けると思われるため、短期投資はともかく、中長期投資の対象にはなりにくいと思われます。

そこで、スズキに注目したいと思います。

 

スズキ

自動車の成長市場であるインドで40%以上の市場シェアを持っています。比較的価格の高い小型SUV(代表例はビターラ・ブレッツァ)が売れ筋になっています。欧州でも小型SUV「ビターラ」「バレーノ」が貢献しています。これらの車種の販売増加が車種構成を高度化して業績に寄与しており、2017年3月期は36.5%営業増益と好業績でした。

会社側は増産投資による減価償却費増加、環境対応や自動運転対応を進めるための研究開発費増加により、2018年3月期は10%営業減益を見込んでいます。ただし、為替レートが会社前提よりも円安になっていること、インドでの販売が好調に推移していることから、前年並みの業績が期待できると思われます。

今後の注目点は電気自動車への対応です。インド政府は2030年までにインド国内の新車販売を全て電気自動車にするという野心的な計画を公表しています。実現には充電所、発電所の整備など様々な課題があり、今のところスズキも慎重な姿勢です。ただし、トップシェアの会社として何らかの電気自動車戦略を打ち出さざるを得ない立場です。

一方、スズキはフルハイブリッド車を自力開発しており、このためフルハイブリッド車よりも難易度の低い電気自動車の開発も時間をかければ実現出来ると思われます。

中長期での投資妙味を感じます。

表4 スズキの業績

表5 マルチ・スズキのカテゴリー別新車販売台数(卸売ベース)

 

グラフ9 インドの新車販売台数:前年比

 

(単位:%、インド自動車工業会、マルチ・スズキより楽天証券作成)

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スズキ(7269)SUBARU(7270)トヨタ自動車(7203)