日経平均、TOPIXともに最高値更新、米早期利下げ期待が再燃

 東京株式市場の直近1カ月(6月14日~7月12日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで6.1%の上昇となりました。ゴールデンウイーク以降続いていたボックスレンジを上放れて上げ足に弾み、7月5日に3月22日の最高値4万1,087円を更新し、7月11日には高値4万2,426円まで上昇しています。安値は6月17日の3万7,950円でした。

 なお、この期間(6月14日~7月12日)の米ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3.7%の上昇となっています。

 植田和男日本銀行総裁の6月の金融政策決定会合後の会見内容がややタカ派的と見られたことや、フランスの政局不安などで前半は売りが先行する場面も見られました。ただ、その後は、欧州情勢への不安が和らいだほか、米国の早期利下げ期待が再燃する形となり、上昇トレンドを強める展開になっています。

 7月4日にはTOPIX(東証株価指数)も34年ぶりに史上最高値を更新しました。米国では経済指標の下振れが目立ち、9月の利下げ実施が想定される状況になってきています。7月に入って、注目された6月の雇用統計が弱い内容となったほか、6月のCPI(消費者物価指数)も前月比マイナス0.1%と予想外に下落しています。

 前月比マイナスは2020年5月以来4年ぶりとなります。結果、7月以降、米10年債利回りは大きく低下する形となっています。また、為替市場ではドル高・円安が進み、6月26日には4月のドル高値水準を突破して、1986年12月以来、約38年ぶりの円安ドル高水準となりました。

 こちらも日本株の支援材料となっています。なお、7月12日には2021年2月26日以来となる1,000円超の急落となりましたが、日本政府による為替介入の観測もあってドル/円相場が大きく下落し、利益確定売りが誘われる形となったようです。

 この期間で上昇が目立った銘柄としては、IHI(7013)三菱重工業(7011)などの総合重機株が挙げられます。米大統領選におけるトランプ氏優位との見方が強まったことで、防衛関連としての関心が高まったもようです。

 また、国内長期金利の上昇から、MS&AD(8725)第一生命ホールディングス(8750)など保険株の一角でも強い動きが目立ちました。ハイテク系では、TDK(6762)太陽誘電(6976)など電子部品株に見直しの動きが強まりました。

 ほか、ベイカレント・コンサルティング(6532)Sansan(4443)など中小型グロース株の一角が好決算の発表を受けて急伸しました。その半面、北海道電力(9509)九州電力(9508)など、これまで上昇が目立ってきた電力株などは利益確定の動きが優勢となったほか、SHIFT(3697)セブン&アイ・ホールディングス(3382)などは個別で決算内容が嫌気されました。

 半導体関連は強弱まちまちで、芝浦メカトロニクス(6590)アドバンテスト(6857)などは上昇した一方で、レーザーテック(6920)TOWA(6315)ソシオネクスト(6526)などは下げが目立ちました。

米早期利下げ期待は織り込みつつあり、今後は選別物色が強まる局面に

 7月11日の為替介入観測に関して、一段の円安進行期待は低下の方向になると考えられます。一方で、今月末の日銀金融政策決定会合については、利上げは先送りされるとの見方にもつながりそうなので、過度な警戒感は薄れる見通しです。

 ただ、日銀がいずれ利上げに向かうことに変わりなく、銀行株や保険株などの下落場面は押し目買いの好機となってくるでしょう。7月12日の日経平均株価(225種)の記録的な下げについては、やや過剰反応の面も強いとみられますが、市場の高値警戒感の強さを示すものとも捉えられ、短期的には上値追いに慎重な姿勢も必要となってきそうです。

 ここ1カ月の市場を見る限り、可能性が高まった事象としては、短期的な一段の円安進行が限定的とみられることのほか、米国の9月利下げ実施、そして、トランプ米大統領の復権などが挙げられます。

 米国の利下げに関しては急速な織り込みが進んでおり、一段の全体相場の上昇材料にはつながりにくいとみられますが、物色的には、グロース株優位の状況が想定されることにはなります。とりわけ、足元で急反発に転じてきた中小型グロース株などに資金シフトする動きが強まりそうです。

 また、トランプ関連銘柄への関心も一段と強まる余地があり、防衛関連、エネルギー関連、米国市場での利益依存度が高い銘柄などが恩恵を受けるとみられます。一方、EV(電気自動車)を含めて、代替エネルギー関連には逆風が強まると想定されます。自動車関連銘柄にとっては、将来戦略が立てにくくなることで、停滞リスクにもつながるかもしれません。

 注目イベントとしては、7月30~31日に開催される日銀金融政策決定会合、米FOMC(連邦公開市場委員会)のほか、国内外での2024年4-6月期決算発表が挙げられます。最も注目されそうなのは、7月17日のオランダの半導体製造装置メーカーASML、18日の半導体受託生産世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)など半導体関連銘柄でしょう。国内半導体関連株、さらには市場ムードを通して全体相場の行方を左右するものとなる可能性もあります。

 ASMLは受注回復の有無、TSMCは設備投資動向などが特に注目材料となります。国内決算発表は7月31日が第1のピークとなり、8月8~9日が最も発表銘柄が多くなります。米国では7月22日の週に主要企業の決算が多く予定されています。今回の国内での決算発表で注意したい点は、ポジティブサプライズが少なくなりそうなことです。

 直近の決算発表では、業績以外に配当政策変更に伴う大幅な増配、同じく自社株買いの実施発表などが株高材料となってきました。

 ただ、PBR(株価純資産倍率)1倍割れに対応する施策などは、主力企業において大方発表済みと捉えられます。小型株では引き続きこうした発表も散見されてくるでしょうが、大型株に関しては、純粋に決算数値のみが評価対象とされるケースが増えてきそうです。

米大統領選でトランプ氏優勢の見方強まる

 米国では6月27日、大統領候補による第1回討論会が開催されました。全般的には、バイデン現大統領の「高齢不安」にスポットが当たる形となり、支持率が1週間としてはここ約3年で「最大の落ち込み」を記録したとも一部で報道されています。

 直後の世論調査(NYタイムズとシエナ大学が3日公表)でも、トランプ氏の支持率は49%、バイデン氏は43%となり、前回6月調査でのトランプ氏48%、バイデン氏44%から、差が広がる状況となっています。さらに、7月13日にはトランプ氏への銃撃事件が発生し、直後の「強い姿勢」が拡散されたことで、結果的に大統領選挙の優位性が高まる形ともなっています。

 バイデン大統領撤退の可能性も含め、今後も大統領選に向けて紆余曲折はありそうですが、市場ではひとまず、トランプ大統領の復権を想定した動きが強まるものと考えられます。銘柄選別でも、トランプ氏の政策でメリットを受けそうな銘柄群への資金シフトが強まる見通しです。配当利回り3.5%以上の高配当利回り銘柄の中で、米国市場での売上構成比が高い銘柄、エネルギー関連銘柄、防衛関連銘柄などを選定しています。

(表)トランプ氏の政策でメリット期待の高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り(%) 7月12日終値(円) 時価総額  (億円) PER (倍) 騰落率 (%)
2768 双日 3.88 3,868.0 9,681 7.64 21.4
5021 コスモエネルギーホールディングス 3.72 8,065.0 6,836 8.58 42.3
5105 TOYOTIRE 4.11 2,554.0 3,935 8.74 8.2
5444 大和工業 4.97 8,045.0 5,229 9.32 8.1
6301 コマツ 3.52 4,745.0 46,175 12.94 28.7
注:騰落率は年初来

銘柄選定の要件

  1. 配当利回りが3.5%以上(7月12日現在)
  2. 時価総額が3,000億円以上
  3. トランプ氏の政策でメリットが期待できる銘柄

厳選・高配当銘柄(5銘柄)

1 双日(2768・東証プライム)

 総合商社の一角で、2003年にニチメンと日商岩井が統合して発足しました。収益構成比上位事業は自動車、化学、リテール・コンシューマーサービス、金属・資源・リサイクルとなっています。

 加えて、ボーイング代理店として航空機取り扱い実績では国内トップです。国内総合商社で唯一、炭鉱操業を行っており、石炭市況の影響を受けやすくなっています。また、三菱商事と鉄鋼事業を統合したメタルワンは国内鉄鋼商社の大手企業でもあり、株主還元は、調整後DOE(株主資本配当率)4.5%を基本とする方針を発表しています。

 2024年3月期親会社の所有者に帰属する当期利益は1,007億円で前期比9.4%減となっています。石炭事業の市況下落とコストの増加などによって、金属・資源・リサイクル事業が足を引っ張る形となりましたが、年間配当金は5円増となる135円です。

 一方、2025年3月期の親会社の所有者に帰属する当期利益は1,100億円で9.2%増の見通しとしています。石炭市況下落のマイナス影響が続く見通しですが、自動車、航空・社会インフラ、エネルギー・ヘルスケア事業が総じて増益となる見込みです。年間配当金は15円増の150円を計画しています。

 また、民間航空・宇宙・防衛事業を手掛ける専門商社の双日エアロスペースをグループ会社に抱えています。同社では2021年にJALUXを持分法適用のグループ会社としており、双日エアロスペースの民間航空事業をJALUXにシフトさせています。

 それに伴うリソースの強化によって、双日エアロスペースは防衛事業を強化する方向にもなっています。防衛装備品を欧米各国より輸入・販売しているほか、戦闘機、ヘリコプター、艦艇をはじめ、海上自衛隊運用のエアクッション艇、戦闘機などの運用には欠かせない緊急時の着陸拘束装置など幅広く扱っています。

2 コスモエネルギーHD(5021・東証プライム)

 コスモ石油からの株式移転により、2015年10月に発足した持株会社です。燃料油の国内販売シェアは12%程度と推定されます。原油処理能力は1日当たり40 万バレル程度で、千葉、堺、四日市の3製油所で展開しています。

 石油精製・販売のほかに、エチレンやパラキシレンなどの石油化学、アブダビ首長国での石油開発事業などを行っています。また、再生エネルギー事業なども手掛け、陸上風力発電の国内シェアは第3位です。2024年4月に資本業務提携を行い、岩谷産業が筆頭株主となっています。

 2024年3月期経常利益は1,616億円で前期比1.8%減ですが、在庫影響を除いたベースでは1,622億円で過去最高を更新しています。石油事業がマージンや経費の改善で増益となり全体業績を下支えしましたが、石油化学事業は市況の悪化、石油開発事業は原油価格の下落などでそれぞれ減益となっています。

 年間配当金は前期比75円増の150円としています。2025年3月期経常利益は1,650億円で前期比2.1%増の見通しです。前年度に発生したプラスのタイムラグ影響の剥落などで在庫影響を除いたベースでは若干の減益を見込んでいるようです。なお、年間配当金は前期並みの300円を計画しています。

 トランプ氏は再生エネルギー否定派とされ、化石燃料優遇策などが実施されてくると予想されます。米国では石油株などの上昇が予想され、同社など国内石油株にも短期的に連想感が働いてくる公算が大きいでしょう。

 その他注目点としては、2026年3月期までの中期経営計画で、3カ年累計の総還元性向を60%以上としているなど、石油業界の中ではトップクラスの還元姿勢が挙げられます。中期的には、岩谷産業の推進する水素事業の展開において、重要な役割を担っていく可能性などが期待材料となります。

3 TOYOTIRE(5105・東証プライム)

 タイヤ業界で国内第4位の位置付けです。北米における大口径SUV用タイヤ「オープンカントリー」などに強みがあるとされています。地域別販売構成比では北米が約65%を占め、タイヤ各社の中では最大の水準となっているほか、防振ゴム部品などタイヤ以外の自動車部品なども手掛けています。

 資本提携により2019年から三菱商事が筆頭株主となっており、1円/ドルの変動は営業利益に8億円程度の影響があります。2025年度までの中期計画では、配当性向30%以上を軸に長期安定配当を目指すとしています。

 2024年12月期第1四半期営業利益は259億円で前年同期比78.2%増となっています。タイヤの販売本数減少で売上高は落ち込みましたが、重点商品の販売促進効果、為替相場の円安効果、海上輸送費の減少などが利益面で寄与しました。2024年12月期通期では780億円で前期比1.4%増の見通しを据え置いています。

 売上は下振れ推移とも捉えられますが、為替の前提は1ドル=138円となっているため、現状では利益上振れの可能性が高いように見受けられます。なお、年間配当金は前期比5円増の105円を計画しています。

 北米向けの売上構成比は6割強と、自動車・自動車部品メーカーの中でも極めて高い比率となっています。「強い米国」を志向のトランプ氏は景気刺激策を積極化させるとみられるため、売上構成比の高い米国市場での販売増加が期待されることになります。

 円安メリットも含めて、収益インパクトは強まり、短期的な期待材料としては株主還元策の強化が挙げられるでしょう。現在の中期計画は2025年が最終年度になっていますが、前倒しで議論が進む余地もあると考えられます。

4 大和工業(5444・東証プライム)

 電炉メーカーの大手で、ビルや工場の建設に用いられるH形鋼が7割近くを占める主力製品です。電炉メーカーの中でもいち早く海外に進出しており、現在では、米国、ASEAN(タイ、ベトナム、インドネシア)、中東(バーレーン、サウジアラビア)、韓国に拠点を持っています。

 経常利益の75%が海外で占められており、とりわけ、米ニューコアとの合弁会社ニューコアヤマトスチールの持分法利益が高水準となっています。自己資本比率は85%で無借金経営、財務安定性は高い状況です。インドネシア鉄鋼メーカーの形鋼事業を新規に買収しました。

 2024年3月期経常利益は992億円で前期比9.6%増となっています。鋼材マージンの改善などによって、国内鉄鋼事業の収益が改善し、円安寄与もあって、持分法投資利益も高水準を維持しています。年間配当金は前期比100円増の400円となっています。

 2025年3月期は770億円で同22.4%減の見通しです。新規連結化による売上増効果はありますが、中国の鋼材輸出量増加などによる競争激化の影響を見込んでいるようです。持分法損益も形鋼市況の軟化によって米国を中心に減益を見込んでいます。なお、年間配当金は前期比横ばいの400円を計画しています。

 米大統領選でトランプ氏が勝利した場合、米国第一主義政策の強まりが予想されることで、最もプラスメリットが大きい銘柄とも判断されます。最大の収益源は米国の合弁会社であり、米インフラ投資の拡大による恩恵享受が期待されます。

 また、その米国企業が連結子会社でなく持分法適用会社(米国企業との合弁会社)である点も注目です。米国第一主義=米国企業第一主義と捉える場合、日本企業の現地子会社よりもストレートに需要拡大の取り込みが可能になると考えられます。

 なお、現時点(7月12日現在)では、時価総額5,000億円以上の企業の中で、配当利回りの水準はトップクラス(トップのLIXILとほぼ同水準)ともなっています。

5 コマツ(6301・東証プライム)

 国内建設機械の最大手企業で、世界的にも米キャタピラーに次ぐ第2位の位置付けです。油圧ショベルやブルドーザー、ダンプトラックなど一般的な建設機械のほか、鉱山機械なども展開しています。油圧部品やエンジンなどの基幹部品を自社で内製している点が特徴であるほか、業界内でいち早く建機の運航管理システムを導入するなど、ICT技術の活用なども強みとなっています。

 半導体製造装置関連分野などの産業機械も手掛けており、中南米やオセアニア、中近東など、戦略市場と位置付ける地域の売上も順調に拡大しているようです。配当方針は配当性向を40%以上としています。

 2024年3月期営業利益は6,071億円で前期比23.7%増となっています。北米、中南米、オセアニアなどで建設機械・車両の販売が拡大、販売価格の改善や為替円安の影響なども寄与しました。年間配当金は前期比28円増の167円としています。

 2025年3月期営業利益は5,570億円で同8.3%減の見通しとしています。中南米やアジアでの販売減少を見込むほか、固定費の増加、為替のマイナス寄与を想定しています。為替は1ドル=140円(前期144.3円)を前提としているようで、利益の上振れ余地はありそうです。年間配当金は前期比横ばいの167円を計画しています。

 2025年3月期の建設機械・車両事業における北米向け構成比は約30%の見通しとなっています。米国インフラ投資の増加で建設機械の市場はストレートに拡大が見込めるほか、米景気拡大による資源価格の上昇で鉱山機械の販売増も期待できるでしょう。

 また、防衛省向け事業としては弾薬生産、装甲車の保守整備などを手掛けています。過去には、イラク派遣などで使われた軽装甲機動車の開発・生産も行っており、採算性の低さから撤退した経緯もありますが、防衛予算が拡大する中であらためて新規開発打診などの可能性も残ると考えられます。