源泉徴収ありの特定口座を選ぶ人が圧倒的多数だが…

 多くの方は、証券口座として一般口座のほかに特定口座を開設していると思います。そしてそのうちの大部分の方は「源泉徴収あり」の特定口座を選択しています。

 しかし、資金運用効率の面からは、「源泉徴収あり」より「源泉徴収なし」の特定口座の方が有利である、という考え方もあります。今回のコラムではその点をフォーカスして考えてみたいと思います。

「源泉徴収ありVSなし」どのくらい手残りが変わる?

 例えば次のような例で検討してみましょう。手数料などは無視しています。

  • 最近の株価上昇により、1,000円で1,000株買ったA社の株価が4,000円まで上昇
  • A社の株価は割高なので、A社株を売って、他の株を買いたいと思っている

 源泉徴収ありの特定口座では、利益に対して20.315%の税金が、売却したタイミングで直ちに源泉徴収されます。

 利益は「(4,000円-1,000円)×1,000株=300万円」ですから、税額は「300万円×20.315%=60万9,450円」です。数字が細かいので61万円とします。

 ということは、源泉徴収ありの特定口座でA社株を売却すると、売却代金400万円から源泉徴収税額61万円を差し引いた339万円しか手元に残らないことになります。

 一方、源泉徴収なしの特定口座であれば、売却時に源泉徴収されませんから、400万円丸々手元に残ります。

源泉徴収ありとなしでは税金の納付時期が1年以上変わることも

 もちろん、源泉徴収なしの特定口座であっても、税金は納付しなければいけません。ただし、納付の時期が源泉徴収ありの特定口座よりも遅くなります。

 もし、上記のA社株売却が2024年1月だとすると、源泉徴収ありの特定口座であれば2024年1月の売却時に61万円が源泉徴収されます。

 しかし源泉徴収なしの特定口座の場合、税金の納付は翌年(2025年)3月でよいのです。

 つまり、源泉徴収なしの特定口座であれば、源泉徴収ありの特定口座で源泉徴収される61万円につき、1年以上の期間運用に回せるということなのです。

 キャピタルゲイン期待で何か新たに株を購入することもできますし、高配当銘柄への投資で配当金収入を得ることもできます。

 また、デイトレードや短期投資を中心に行っている方であれば、資金をできるだけ多く使えた方がより利益を得る機会が増えますから、源泉徴収なしの特定口座の方が優れていると考えられます。

資金運用効率以外の面も着目した上でどちらにするかを決めよう

 もちろん、源泉徴収ありにするかなしにするか、資金運用効率以外の面も着目して上で最終的に決定すべきです。

 特に自営業者や年金生活者のように、株式投資の利益が増えると国民健康保険料や介護保険料などの負担が増えてしまうという方は、それを避けるためには源泉徴収ありの特定口座にしておく方が安心です。

 源泉徴収なしの特定口座で多額の利益があると、国民健康保険料・介護保険料の負担が100万円近くに達するケースもありますから無視できません。源泉徴収ありの特定口座であれば利益を確定申告しないという選択ができますから、この負担額を回避することが可能です。

 国民健康保険の加入者で、投資資金に余裕があり、株の売却時に利益の20.315%を源泉徴収されても問題ないという方は、利益を確定申告しないことにより国民健康保険料の増額を回避できる源泉徴収ありの特定口座でよいと思います。

 一方、会社勤めの方であれば、株式投資でいくら利益を得ても社会保険料は変わりませんから、資金運用効率を重視して源泉徴収なしの特定口座にする、という選択もありです。

 源泉徴収ありとなし、それぞれのメリット、デメリットを比較検討しながら、ご自身に合った口座を選択するようにしてくださいね。