※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
今週の日本株 最高値を更新後日本株はどうなる?~出現した「天井サイン」をどう読むか~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>

 先週末7月12日(金)の日経平均株価終値は4万1,190円でした。

 前週末の終値(4万0,912円)からは278円高で、単純な週末終値の比較では小幅な上昇にとどまった格好ですが、週間の値幅(高値と安値の差)を見ると1,600円を超える大きさでした。日経平均の株価水準についても、初の4万2,000円台に乗せる場面を見せたかと思えば、週末には前日比で1,000円を超える下落を演じるなど、値動きはかなり荒っぽかったと言えます。

 そこで、今回はこうした先週の日経平均の値動きを手掛かりに、今後の相場展開について考えて行きたいと思います。

日経平均チャートに突如現れた天井サイン

図1 日経平均(日足)とMACDの動き(2024年7月12日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを元に筆者作成

 あらためて、先週の日経平均の値動きを上の図1で振り返ると、週末の12日(金)に急落するまでは、上値をトライする展開となっていました。

 とりわけ、9日(火)~11日(木)の3日間の上昇幅は1,400円を超え、3月以来となる4万1,000円台の回復と、4万2,000円台乗せの新値を獲りに行くなど、「日本株の強さ」を印象づける動きとなりました。ただし、こうしたムードに水を差したのが、週末12日(金)の急落です。

 これにより、あらためて図1を確認すると、11日(木)のローソク足を頂点に、前日の10日(水)と翌日の12日(金)のローソク足がそれぞれ「窓」を空ける格好となっていることが分かります。

 いわゆる「アイランド・リバーサル」と呼ばれている有名な形状です。

 頂点のローソク足が、前後2つの窓空けによって離れ小島のように見えるところから名付けられている、このアイランド・リバーサルですが、一般的にトレンドが転換するサインとして意識されます。

今回の「アイランド・リバーサル」はちょっと厄介?

 テクニカル分析のセオリーに沿うならば、「今週の日本株は先週末でいったん天井をつけたと思われ、下落の展開に注意」ということになるのですが、今回のアイランド・リバーサルについては、天井形成とはならない可能性があり、ちょっと厄介かもしれません。

 その理由のひとつとして考えられるのは、先週の株価上昇の「質」です。

図2 日経平均(日足)と東証プライム市場の売買代金(2024年7月12日時点)

出所:MARKETSPEEDIIおよび取引所データを元に筆者作成

 上の図2は、年始からの日経平均(日足)と東証プライム市場の売買代金の推移です。

 6月下旬から始まった足元の株価上昇時の売買代金は、日経平均が大きく上値を伸ばしていた1月から2月、そして、前回最高値を更新した3月の時の規模と比べると少なめです。

 日経平均が再び高値を取り戻し、4万2,000円台の新値をつけに行く動きを見せていた割には、売買はあまり盛り上がっていなかった様子がうかがえます。なお、週末12日(金)の売買代金は5兆円超えとなっていますが、この日は、株価指数先物のオプション・mini先物取引のSQ日でした。

 また、同じく東証プライム市場の騰落銘柄数の推移についても確認していきます。

図3 東証プライム市場の騰落銘柄の状況(2024年7月12日時点)

出所:取引所データ等を元に筆者作成

 上の図3を見ても分かる通り、日経平均は直近3週間のあいだに下落した日がわずか4日間しかありません。そして、先週末の7月12日や、6月27日のように、下落した日でも値上がり銘柄数の方が多くなっていることや、値下がり銘柄数が優勢でも株価が上昇している日が多くなっています。

 つまり、売買はあまり盛り上がってはいないものの、日本株への買い意欲は意外と根強く、下値ではしっかり買いが入って来る可能性があります。

先週の株価上昇は日経平均の短期的な「揺らぎ」?

 ちなみに、TOPIX(東証株価指数)の日足チャートでもアイランド・リバーサルが出現しています。

図4 TOPIX(日足)とMACDの動き(2024年7月12日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを元に筆者作成

 ただし、目立っているのは、2,900p水準でのもみ合いを経て高値を更新していることと、3月から4月にかけて形成した「トリプル・トップ」における「ネックライン」の攻防戦の方です。

 株価が勢いよく上昇し、あれよという間に最高値を更新していた日経平均とは異なり、TOPIXについては、着実に高値を更新していた印象です。

 こうした日経平均とTOPIXの値動きの違いは「NT倍率」の推移を見ても感じ取れます。

図5 NT倍率の推移(2024年7月12日時点)

出所:MARKETSPEEDIIデータを元に筆者作成

 NT倍率は「日経平均÷TOPIX」で計算され、数値が大きいほど日経平均が優位、反対に小さくなるほどTOPIXが優位となります。

 日経平均は7月に入ってからの上昇が目立っていましたが、図5を見ると、7月2日の14.03倍から、日経平均が4万2,000円台に乗せた11日には14.42倍まで上昇し、12日の急落で14.23倍に縮小した格好であることが分かります。

 図2や図3でも確認したように、この時期の売買があまり盛り上がっていなかったことを踏まえると、「短期筋を中心に日経平均の値動きが揺らいでいただけ」と見ることもできそうです。そんな時に出現したアイランド・リバーサルは、サインとしては説得力に欠ける面があります。

今週の相場環境は様子見が中心か?

 今週の国内株市場は、週初の15日(月)が祝日で4営業日となります。経済指標では6月分の全国消費者物価指数、企業決算ではディスコ(6146)などが注目されそうなものの、全体的にイベントや材料が少なく、基本的に海外市場の動向に合わせて反応していく展開が見込まれます。

 米国市場では、16日(火)の6月小売売上高をはじめ、17日(水)には米地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されます。

 企業決算においては、ゴールドマン・サックス(GS)モルガンスタンレー(MS)といった大手金融機関、消費財のジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)(JNJ)、そして、半導体関連企業のASMLホールディング(ASML)TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR)など、注目企業の発表が相次ぎます。

 さらに、中国では、4-6月期のGDPと6月分の経済指標が15日(月)にまとめて発表され、また、この日からは中長期的な経済政策の方針が示されることが多いとされる「3中全会」も開催されます。

 これまで見てきたように、先週の日経平均は4万2,000円台まで駆け上がり、TOPIXも1989年12月の株価を超える場面があるなど、「相場の強さ」を見せつける動きとなりました。しかし、これからは決算シーズンが本格化していくため、相場の「勢い」で上昇してきた株価に対して「高いのか、安いのか」という視点が加わることになります。

 企業業績が最近までの株価上昇を正当化できるかが焦点になってきますので、今回のキーワードとなったアイランド・リバーサルが天井となるのかの答えは、決算の動向がカギを握ることになり、それまでの日本株は今週も含めて積極的に動きにくくなるかもしれません。

 また、米国市場では、「9月利下げ開始」シナリオが確実視されるのに伴って、米金利の低下や為替市場のドル高修正などの変化も出始めています。さらに、先週末にトランプ氏銃撃事件が発生し、その影響や情勢次第では、米国市場で「ほぼトラ」相場を再び織り込むような動きも想定され、日本株が影響を受ける可能性があります。

 このように、外部環境が慌ただしくなる中で、先週までの株価上昇の流れを継続することができるのかが試されることになりそうです。