金融・メディアリテラシーが低い50、60代が被害者の半数

 フェイスブックやインスタグラムなどのSNS(交流サイト)上で有名人になりすまし、うその投資話を持ち掛け、お金をだまし取るSNS型投資詐欺の被害が急増しています。

 警察庁によると、今年1~4月の認知件数は前年同期の約6.7倍の2,508件、被害額は約8.4倍の334.3億円に上っています。中には1億円以上だまし取られる被害も報告されています。ITジャーナリストで成蹊大客員教授の高橋暁子さんに詐欺に遭わないためのポイントなどを聞きました。

2024年4月単月での被害者の性別と年齢層(警察庁資料より抜粋)

 被害が急増した背景には、今年1月に投資の運用益に対する非課税枠が拡大した新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)をきっかけとした投資ブームがあります。被害者のうち半数を50、60代が占めます。

 高橋さんは「これまで投資をしてこなかった金融リテラシーが低い50、60代がだまされている。インフレによる生活苦や老後への不安をつけこまれて、お金をある程度持っている層が被害に遭っている」と分析します。

 詐欺グループはSNSなどに著名人や権威ある人物をかたった偽の広告を掲載。「絶対にもうかる」「あなただけに」とうたったり、「月利10%」といった異常な高利回りで目を引こうとしたりして、LINEの投資グループチャットに誘導する手口を用います。

 専用アプリをダウンロードさせて、初めは少額の利益が出ているように見せかけ、信じ込ませてから多額の資金をだまし取るケースもあります。

 高橋さんは「投資でリターンを得るにはそれに見合ったリスクを負わないといけない。こうしたことは投資の常識だけれども、初心者はうますぎる『もうけ話』に飛びついてしまう」と述べます。

 本来、証券会社などの金融商品取引業者などは、「必ずもうかる」といったような断定的な判断を提供したり、確実であると誤解させる恐れがある表示をしたりすることは金融商品取引法などで禁止されています。

 証券会社などが株式や外国通貨、暗号資産など投資性のある金融商品を扱うには金融商品取引業者や暗号資産交換業者として国の登録を受ける必要があります。登録を受けずにそうした事業を行うことは違法になりますが、詐欺グループの多くが無登録業者とみられます。

 警察庁や金融庁などは無登録業者との取引をしないよう注意を呼び掛けています。国の登録業者かどうかは金融庁のホームページから調べることができます。登録業者の名をかたる無登録業者もいるので、ご注意ください。

 また、高橋さんは50、60代のメディアリテラシーの低さも要因になっていると指摘します。「デジタルネイティブ世代の10代や20代と比べて、50、60代はSNSでのコミュニケーションに慣れていない。有名人がLINEを使って投資話を教えるわけがないと常識的に考えたら分かることなのに信じてしまう」と指摘します。

偽広告にひっかからないためにニュースを見聞きすること

 高橋さんは、まずできる対策として、普段からニュースに触れることを挙げます。「ニュースでもたくさん取り上げられているので、こうした詐欺の手口があることを聞きかじっておけば、ひっかかることは防げる。ニュースを通して情報の真偽を見極めるリテラシーをアップさせていくことがだまされない一歩になる」と説明します。

 SNS型投資詐欺を巡っては、自民党が政府に対策を提言するに当たって4月に自民党本部で開いた勉強会で、実業家の前澤友作氏や堀江貴文氏が顔写真や名前を投資詐欺の広告に悪用された実態を訴えたことがニュースで大きく取り上げられました。

 ただ、高橋さんが大学での講義の受講生にニュースに触れる習慣の有無を尋ねたアンケートでは、全体の2割ほどしかそうした習慣がなかったとのことです。

「ニュースを見る学生でもエンタメ系ばかりというケースもあって、投資詐欺や副業詐欺を知らなかったという人もいた。ニュースアプリで得る情報のジャンルは設定ができるし、SNSでもニュース系アカウントを多くフォローすれば情報が得られる。社会的なニュースに自然とアクセスできる環境をつくる必要がある」と話します。

 10代のSNS型投資詐欺の被害は今のところ少ないですが、SNSなどを通じた副業詐欺や消費者トラブルの被害に遭うケースも報告されています。

 また、2022年4月から高校で必修となった金融教育の教材を活用するのも効果的だとのことです。「教材としてよくできているので、高校生のお子さんがいる方は一緒に学んでいけば、金融リテラシー向上につながる」と紹介しています。

だまされないと思っている人ほどだまされる?セルフチェック

 高橋さんは詐欺被害に遭わないようにするには「他人ごとだと思わず、『自分ごと』として受け止めることが大切だ」と話します。自分はだまされないと思っている人ほど、だまされる傾向があるといいます。

 自分がどれだけだまされやすいのか手軽にチェックできるツールとして、消費者庁の「だまされやすさを測る 心理傾向チェック!」を勧めています。15項目に回答し、自分に当てはまるものが多いほど、勧誘を受けた時に契約をしてしまう危険度が高い傾向があるとのことです。

 高橋さんは「こうしたチェックシートが自分もだまされるかもしれないと気付くきっかけになる」と紹介しています。

消費者庁「だまされやすさを測る 心理傾向チェック!

政府はSNS業者に対策強化要請、「重い腰上げさせること大切」

 著名人になりすました偽広告がSNS上で削除されずに放置されてきたことが被害拡大の温床になっていました。政府は6月18日に「国民を詐欺から守るための総合対策」をまとめ、SNS事業者に掲載広告の事前審査を強化することなどを求めました。

 具体的には広告の出稿前に事前審査基準の策定やその公表、審査に当たっては日本語や日本の文化・法令などを理解する従業員を配置することなどを要請するほか、LINEのような限られた利用者しか参加できないクローズドチャットを遷移先として設定する広告は原則として採用しないこと、捜査機関からの情報を元に迅速に詐欺広告やアカウントを削除することなどを求める内容となっています。

 総務省は21日にフェイスブックやインスタグラムを運営する米メタ・プラットフォームズなどSNS事業者5社に文書で対応を要請しました。

 経済産業省は28日にメタとLINEヤフー、グーグルの3社を対象になりすまし広告対策に関するヒアリング結果を公表しました。SNS事業者がなりすまし型の偽広告を防ぐため、広告審査に日本語や日本文化上の文脈を踏まえた判断が必要とした上で、メタについてはこうした判断を行える体制になっているかどうか十分な回答がなかったと指摘しました。SNSアカウントの本人確認の強化にあたっては、メタは追加の本人確認を求める広告主の対象範囲が「いまだ限定的であることがうかがわれる」と評価しました。

 また、インターネット上の違法・有害情報の削除対応の迅速化などを義務付けた情報流通プラットフォーム対処法が5月に成立し、今後施行される予定です。政府はこの法律の施行に向けて、省令などの整備を進めるほか、SNS事業者向けに偽広告の放置などが刑事責任に問われる場合があり得ることを盛り込んだガイドラインの策定をする方針です。

 高橋さんは「メタのようなグローバル企業はこれまで米国など英語圏での対応を優先し、日本市場や社会を軽視してきたのではないか。メタは直近の決算で過去最高益を上げているのに、偽広告の削除や監視に力を入れてこなかったと思う」と分析します。

「EU(欧州連合)にはSNS事業者が偽情報の拡散防止に取り組まなければ巨額の制裁金を課されるデジタルサービス法がある。日本でも刑事責任が問われる可能性があることを明確化して、SNS事業者に重い腰を上げさせることが大切だ」と強調しました。(取材・執筆:トウシル&メディア編集部 田嶋啓人)

高橋暁子(たかはし・あきこ)氏 東京学芸大卒、東京都小学校教諭やWeb編集者を経て、ITジャーナリストとして独立。2021年から成蹊大客員教授(情報リテラシー)。「青少年を取り巻く有害環境対策の推進」 技術審査委員会技術審査専門員(文部科学省委託)。スマートフォンやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育などが専門、主な著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門 iPhone&Android対応』『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』など。

公的機関の相談窓口

・金融庁 金融サービス利用者相談室
 受付時間:平日10:00~17:00
 電話(ナビダイヤル):0570-016811(※IP電話からは03-5251-6811)

・警察相談専用電話 「#9110」

 受付時間は原則、平日8:30~17:15(※各都道府県警察本部で異なります)

・消費者ホットライン 188

 原則としてお住まいの地域の相談窓口(市区町村の消費生活センターや消費生活相談窓口など)を案内。

・日本証券業協会 株や社債をかたった投資詐欺被害防止コールセンター
 受付時間:平日9:00~17:00
 電話:0120-344-999