『プラチナ投資のエッセンス5月29日』では、パラジウム供給は2024年と2025年に供給不足が拡大するが、2026年からは供給余剰になる予測を発表した。市場の一般論とは裏腹に、この供給余剰はエンジン車のパラジウム需要が急速に減るからではない。エンジン車のパラジウム需要は図3にあるように実際は比較的安定している。供給余剰に転じるのは、リサイクルが増える(2028年までに年間40.4トン増加する予測―図1)からだが、この増加には今の問題が解決されることが前提だ。問題解決が長引けばリサイクル供給が増えるペースが落ち、供給不足が拡大して、供給が余剰に転じる時期が先延ばしされる。そうなればパラジウムの価値上昇への期待が膨んで、特に投資家のショートカバーを誘い、価格上昇へのサポートとなる可能性がある(図2)。
パラジウムに対する市場のセンチメントは、ドライブトレインの電動化に伴って需要が消滅するとの見方でネガティブな状態が続いていた。しかし、実際は、消費者はフル電気自動車に乗り換えるにはまだ抵抗感があり、かつ(同等のエンジン車よりも10%から15%多くPGMを使う)ハイブリッド車が伸びていることなどから、自動車のパラジウム需要は堅調なのである。パラジウムは供給余剰にはなるだろうが、これはあくまでもリサイクル供給が、2023年から2028年の間に年間40.4トン増えるという予測が実現した場合の話だ。すでに我々は、鉱山供給とリサイクル供給に生じている問題のおかげで、供給余剰に転じるのは一年遅れて2026年になり、2024年の供給不足は31.1トン増えるという新たな予測を発表したばかりだ。ここで言うリサイクルの問題とは、高い金利と電動化に消極的な消費者の間で新車購入が減って車の使用期間が伸びている問題、欧州や米国では自動車触媒の窃盗が増える中、盗難品が処理された可能性がある問題、さらに中国では厳しい税制でリサイクル率が伸び悩んでいる問題などである。我々のベースケース予測ではこのような問題はいずれ解決され、リサイクル供給は平常に戻って長期的にはパラジウム供給は増加するとしている。しかし、そのタイミングと回復の程度は足元のマーケットセンチメントには大きな影響を与える。パラジウム需要は堅調である点、あるいは供給の問題で余剰に転じる時期が遅れる可能性がある点は、直近でショートカバーによる価格上昇を招く可能性もある。
図1:パラジウム市場のバランスは供給に最も敏感で、リサイクル供給の増加のタイミングは遅れるリスクがある
図2:パラジウムは売られ過ぎの感があり、センチメントがポジティブに変わればショートカバーを誘い価格は上昇する可能性
パラジウムとは対照的に、プラチナの短期〜長期ファンダメンタルズは非常に良好だ。リサイクル供給の増加はパラジウムに限られたことで、2023年から2028年の間の年平均増加率9%はプラチナの2倍。両メタルの鉱山供給は同じ問題を抱えているため、供給全体が不足する予測は共通だ。しかしプラチナの需要が減るリスクがパラジウムよりも少ないと言えるのは、需要が多岐にわたることと水素経済の需要が期待できるからだ。ゆえにパラジウムと違い、プラチナ市場は2024年から2028年の間は供給不足が続く予測となる。
パラジウム市場のバランスはリサイクル供給の回復と成長が条件
リサイクル網の混乱が続けば供給過剰になる時期が遅れ、短期〜中期のセンチメントは変化するだろう
投資資産としてのプラチナ
-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は鉱山供給とリサイクル率の低下で逆風
-自動車のプラチナ需要はエンジン車/ハイブリッド車生産で予想よりも長い期間増加
-水素関連のプラチナ需要は少ないが、将来のプラチナ需要の大部分を占める
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続いておりゴールドよりも大幅に割安
図3:パラジウム需要は急激には減らず、2023年~2028年は比較的安定(年平均-1%)
図4:排ガス規制の厳格化で自動車触媒のパラジウム量はほぼ2倍になったが、リサイクル率の低迷が長期にわたればパラジウムのリサイクル供給に影響が及ぶ
図5:パラジウムを多く使うガソリン車の廃車が増えて、パラジウムのリサイクルは2023年~2028年に年平均9%で増加、プラチナの2倍。
図6:リサイクル供給の増加で、パラジウム市場は2026年から供給余剰になるが、リサイクル網に問題が生じれば短期〜中期の展望は変わってくる
図7:プラチナは多岐にわたる成長需要分野が供給を超える(特に水素経済の発展が需要に貢献)
図8:プラチナの長期的展望はより将来性がある。年平均14.0トンの供給不足で、地上在庫が減りマーケットはタイトに
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