5月は「為替介入」で円急騰も、1ドル=157円で「住って来い」
5月の外国為替相場は、1ドル=157円台で始まり、1ドル=157円台で終わる「住って来い」の相場となりました。
5月は1ドル=157円台で始まりましたが、2日の日本政府による為替介入とみられる円買いドル売りによって、153円台に急落。さらに3日発表の米雇用統計の弱い結果を受けて、151円台後半の円高となりました。15日に発表された米5月CPI(消費者物価指数)の上昇率も市場予想を下回り、米10年債利回りは4.3%台に低下しました。
しかし、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の今後の金融政策を占うには雇用統計やCPIの結果だけでは、まだ不十分であるとの認識からか、FRB高官からは利下げ慎重姿勢の発言が相次ぎ、インフレ警戒から金利もドルも上昇しました。
米10年債利回りは29日には、4.6%台に上昇し、1ドル=157.70円近辺の5月の円最安値を付けました。一方、日本の新発10年債利回りも上昇し、30日には一時1.1%を付けましたが、米金利も上昇しているため円高への反応は鈍いものでした。
ところが、5月の終わりから、為替相場を巡る景色が変わりました。30日に発表された米2024年1-3月期実質GDP(国内総生産)改定値は年率換算前期比1.3%増となり、速報値の1.6%増から下方改定されました。前期の3.4%増からは大幅減速となりました。
GDPの約7割を占める個人消費は速報値2.5%から2.0%に大きく引き下げられました。
また、31日に公表された物価指標、米4月PCE(個人消費支出)コアデフレーターは予想通りでしたが、エネルギーと住居を除いたPCEスーパーコアの伸びが鈍化し、個人消費支出が低下したことから米10年債利回りは4.5%台に低下しました。指標発表後に1ドル=156円台半ばの円高になりましたが、月末要因もあり、157円台で5月を終えました。
一時1ドル=154円台半ば、米景気不安高まればドルさらに下落も
さらに、6月3日公表の米5月ISM製造業指数を受けて、米10年債利回りが4.3%台後半へと一段と低下すると、さすがにドル安円高に反応しました。米5月ISM製造業景況指数は48.7と2カ月連続で好不況の分岐点である50を下回り、構成指数の新規受注や支払価格(物価要因)も低下したことから1ドル=155円台を付けました。
また、4日には一部報道で、日本銀行が13~14日の金融政策決定会合で長期国債の買い入れ減額について具体的に検討すると伝わり、円の全面高となりました。1ドル=154円台後半になり、ドル以外の通貨に対しても大きく円高に動きました。
その後4月米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が805.9万件と市場予想の835.5万件を下回ると、一段と円高が進み、1ドル=154円台半ばまで円高が進みました。4日には米10年債利回りは4.3%台前半まで低下しました。
このように5月終わりから6月初めにかけて、米国の景気減速を示す指標が相次いだため、米長期金利は低下しました。しかし、米国株は、金利の低下にもかかわらず、景気の先行き不安から下落する一方、為替は金利低下と株安から素直にドル安円高に動いています。
5月半ばから上昇した米長期金利は、数日で5月半ばの水準まで低下しました。今週、米国では5日に、5月ADP雇用統計、サービス業PMI(購買担当者指数)・改定値、5月ISM非製造業景況指数、7日には5月雇用統計が発表されます。
もし、これらの景況感や雇用、物価関連指標でも弱い数字が発表された場合、利下げ時期を早く織り込む観測が強まるかもしれません。FRB高官からのタカ派発言が5月に相次いだことから、FRBは利下げに慎重姿勢との見方が大勢となり、利下げは早くても9月開始との見方が優勢でした。
また、利下げ回数も年内1~2回との見方でしたが、指標が弱ければ、7月利下げ期待が高まり、年内2回となる観測が浮上するかもしれません。FRB高官の見方も変わる可能性があります。FOMC(連邦公開市場委員会)声明文やFRBのパウエル議長の記者会見は前回よりもタカ派になるのではないかと警戒されていましたが、ハト派寄りになるかもしれません。
これらの見方によって金利はもう一段下がることも考えられます。
注目すべきは、金利が下がっても株が反発するかどうかです。もし、反発しなかったり、反発してもすぐに下落したりすれば、米国景気の先行きに不安が強まっていることになり、ドルは一段と売られるかもしれません。そして、これらの動きは指標発表後、FOMC前までに現れ出すかもしれないため注意が必要です。
指標が強い数字であれば、この1週間のトリプル安(ドル安、米国株安、米債安)の動きは止まり、FRBの見方も変わらず、再び円売り地合いが復活するでしょう。そして次回FOMCまでデータを見極める動きになりそうです。
為替介入額9兆7,885億円、最大規模の円買い
通貨当局の財務省が5月31日に発表した4月26日~5月29日の円買いの為替介入額は計9兆7,885億円でした。円買い介入としては過去最大規模でした。実施日や日次の介入金額は8月上旬に公表とのことです。
2022年10月の介入のように「大規模」、「連続」、「覆面」介入を実施したことになります。そして介入後の相場は頭の重い展開が続いていることから、この介入効果はまだ続いているようにみえます。
鈴木俊一財務相は「引き続き為替市場の動向を注視し、万全の対応をとる」という姿勢を表明しているため、1ドル=160円に近づくにつれて介入警戒感は高まることが予想されます。
また、日本の長期金利も上昇しており、日銀の国債買い入れ方針も材料になりやすくなってきていることや、米国の景気先行き不安もあり、1ドル=160円は遠い水準になったようです。
6月の欧州利下げ織り込まれるも、7月以降の見方分かれる
ECB(欧州中央銀行)理事会が6日にあります。0.25%の利下げが織り込まれています。ただ、7月の連続利下げについては市場の見方は分かれており、ECB理事たちの意見も分かれているようです。
しかし、米国の動きからハト派色が強まるかもしれません。欧州景気は底入れし始めていますが、米国景気が減速していくのなら、欧州も安心して景気回復というわけにはいかず、ECB理事たちもタカ派に慎重になる可能性があります。FOMCの試金石として今回のECB理事会は注目する意味合いが大きそうです。
欧州のもう一つの注目材料は、6~9日の欧州議会議員選挙です。EU(欧州連合)に懐疑的な右派や極右が支持を広げているとの見方であり、どこまで議席を伸ばすかが焦点になります。移民受け入れの厳格化や環境政策の見直しを主張していることから、各国の政局も左右する可能性があるため注目です。
OPECプラス減産縮小で原油急落、来週のFOMCに影響も
原油価格が急落しています。OPEC(石油輸出機構)加盟国とロシアなど非加盟産油国によるOPECプラスの2日の閣僚級会議で自主減産の縮小が決定されました。
週明け3日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は前週の1バレル=76ドル台から74ドル台に下落し、4日には一時72ドル台に下がりました。原油価格下落は世界の石油需給が供給過剰になることが嫌気されたものと思われますが、下落の背景には中国や米国の景気先行きを不安視する動きもあると予想されます。
加えて、中東情勢が和平に向かって動いていることを材料としているのかもしれません。イスラエルが提案した新停戦案は国内極右の反発から可能性は低いとの見方がありますが、市場は中東情勢の沈静化をみているとも考えられます。逆に言えば、中東情勢が緊迫するかどうかは原油の動きを見るのも一つの判断材料になるということです。
さらに原油下落は、インフレを警戒する各国の中央銀行にとっては好材料であり、来週のFOMCに影響するかどうか注目です。
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