「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第31回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日のクイズ:利回りが確定している金融商品はどれ?
<クイズ>今日は、予想利回りか、確定利回りかを見分けるクイズです。
次の金融商品10個の利回りのうち、確定利回りはどれでしょう? 該当するものを、全て選んでください。なお、「日本国は破綻しない」ことを前提として、回答してください。
【1】NTT(日本電信電話)(9432)株の配当利回り(5月24日時点で3.4%)
【2】米国の通信会社AT&T株の配当利回り(5月24日時点で6.7%)
【3】イオンリート投資法人(3292)の分配金利回り(5月24日時点で5.0%)
【4】毎月分配型投資信託の分配金利回り(10~30%などいろいろある)
【5】日本の電力会社が発行した社債
【6】新発10年物日本国債(固定利付債)(5月24日時点で年利回り1.0%)に投資して償還を待たずに3年後に売却
【7】新発10年物日本国債(固定利付債)に投資して償還(10年後)まで持つ
【8】新発10年物米国国債(固定利付債)(5月24日時点で年利回り4.5%)に投資して償還(10年後)まで持つ
【9】新発10年物ブラジル国債(固定利付債)(5月24日時点で年利回り11%)に投資して償還(10年後)まで持つ
【10】日本国内に本店がある銀行の普通預金と定期預金、定期積金、1行当たり合わせて元本1,000万円とその利息
利回りに強くなる
クイズの答えを書く前に、少し脇道にそれて、「利回り」という言葉の持つ魔力について、お話しします。
日本の個人投資家には、「利回り」と聞くと、全て確定利回りと誤解する方がいます。実際には、利回りには、確定利回りと予想利回りがあります。
確定利回りならば、満期まで持てば、元本割れすることなく、当初想定されていた利回りが得られます。ところが、予想利回りの場合は、予想通りの利回りが出るとは限りません。利回りが低くなったり、元本割れしたりすることがあります。
予想利回りの金融商品に投資する場合、見かけ上の利回りの高さにだまされないようにしましょう。利回りに強くなり、たとえ予想利回りが低くとも、元本割れするリスクが小さい金融商品を選ぶ眼を持ちましょう。
危うい債券信仰、債券なら安全とは限らない
米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが2008年9月、経営破綻しました。それをきっかけに世界中で株が暴落しました。リーマン・ショックといわれる危機の勃発です。
この時、同社が発行していたサムライ債(円建て外債)がデフォルト(債務不履行)となり、日本の個人投資家にも大きな損失が生じました。
出たばかりの退職金のほとんど全てをリーマン債に投資していた人もいました。なぜ、大切な老後資金をそのような危ない投資につぎ込んでしまったのでしょうか。
「老舗の大手金融機関の発行だったから投資してしまった」ということでしたが、それだけが理由ではありません。債券だったから、しかも円建てだったから、確定利回りと誤認して大金を投じてしまったということだと思います。
クイズの正解:償還まで保有した日本国債と邦銀の普通・定期預金、定期積金
厳密に言うと、「この世に完全な確定利回り商品はない」となります。ただし、このクイズは、「日本国は破綻しない」ことを前提としています。
欧米の投資理論において、「リスクフリー・レート(リスクなし利回り)」という概念があります。「10年国債利回り」をリスクフリー・レートとするのが一般的です。欧米先進国において、「国は破綻しない」【注】という前提に基づいて、新発10年物国債利回りを「リスクフリー・レート」と呼んでいます。
【注】「国は破綻しない」前提
実際には国は破綻することがあります。対外負債の大きい新興国では、国債のデフォルト(債務不履行)が起こることもあります。アルゼンチン国債は2001年にデフォルトを起こしました。日本については、第二次世界大戦後に国債のデフォルトを起こしています。ただし、現在の日本の国債については、デフォルトとなるリスクは極めて低いと判断します。
正解は、【7】と【10】です。
日本国は破綻しない前提ですから、日本の10年国債に投資して、償還期限の10年間、持ち切るならば、確定利回りとなります。
また、日本国内に本店がある銀行や信用金庫、信用組合などで、利息が付く普通預金、定期預金、定期積金など、1人1金融機関当たり合わせて元本1,000万円までとその利息は、預金保険によって保護されるので、確定利回りです。
ただし、預金保険の対象となる金融機関の海外支店、外国銀行の在日支店、政府系金融機関は対象外です。外貨預金や譲渡性預金、無記名預金、他人・架空名義預金なども預金保険の対象となりません。
以下は、確定利回りではなく、予想利回りとなります。
【1】NTT(日本電信電話)(9432)株の配当利回り
株の配当利回りは確定利回りではありません。業績が悪化して減配になると、利回りが低下し、株価が下がることがあります。
【2】米国の通信会社AT&T株の配当利回り
米国株の配当利回りも確定利回りではありません。NTTと同様、株価は上がったり下がったりすることがあります。また、為替が円高になると、為替差損が生じることもあります。
【3】イオンリート投資法人(3292)の分配金利回り
価格が上がることも下がることも、分配金が増えることも減ることもあります。
【4】毎月分配型投資信託の分配金利回り
毎月分配型投信の分配金は、利益から払われているとは限りません。利益が出ていない時には「元本払戻金」から分配金を出します。元本を取り崩すだけの分配金もあるので、毎月分配型投信の利回りは、確定利回りではありません。元本払戻金の分配が多いファンドでは、長期的に基準価額が低下していくことが多くなっています。
【5】日本の電力会社が発行した社債
発行企業が破綻すると元本が戻ってこないこともあります。確定利回りではありません。
【6】新発10年物日本国債に投資して償還を待たずに3年後に売却
投資してから売却するまでの3年で、長期金利が大きく上昇していると、長期国債は値下がりします。3年後に売却すると、金利上昇によって、売却損が出ることもあります。逆に、長期金利が大きく低下していれば、売却益が出ることもあります。
【8】新発10年物米国国債
米国も破綻(デフォルト)は想定しません。外国国債は、表面利率は固定されていますが、円建てで換算した場合に為替差損益を含めた利回りは変動する可能性があります。投資している10年間に、円高が進むと、償還金を受け取った時に、円換算額が減少します。つまり、米国株投資には、円高によって元本が目減りするリスクがあります。
【9】新発10年物ブラジル国債
ブラジル国債への投資にも為替リスクがあります。対ブラジルレアルで、円高が進むと、為替差損が発生します。
理解できるリスクを負って利回りを確保する
リスクフリー・レートを上回る利回りの債券には、なんらかのリスクがあります。円建て債券について言うと、リスクフリー・レートが約1%なので、それを上回るレートの債券には、なんらかのリスクがあります。そのリスクの内容を理解し、負う価値のあるリスクか判断する必要があります。「債券なのだから安全」という考えで思考停止に陥るべきではありません。
問題に出した、NTT株(予想配当利回り3.4%)や、AT&T株(予想配当利回り6.7%)、イオンリート投資法人(予想分配金利回り5.0%)は、確定利回りではなく、元本割れリスクがありますが、それを理解した上で、長期的な資産形成のために分散投資していく価値が高いと私は判断しています。
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