NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で投資されている投資信託では、全世界株式や米国株式を対象とした低コストのインデックスファンドが人気になっています。今回は、こういったインデックスファンドの中でも特に人気のある、オール・カントリー(全世界株式)とS&P500種指数(米国株式)の両方に投資するべきなのか、について説明します。
本記事では、オール・カントリー(全世界株式)の具体的な商品の例として三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」(以下、オルカン)を、S&P500(米国株式)の具体的な商品の例として同じく三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」(以下、Slim S&P500)を取り上げて説明します。
オール・カントリーとS&P500ではどちらの方がよいパフォーマンスなのか
次の表は、オルカンとSlim S&P500についての直近の運用実績をまとめたものです。オルカンの純資産が約3.3兆円、Slim S&P500の純資産が約4.4兆円と、日本国内のインデックスファンド(ただしETF(上場投資信託)を除く)としては純資産でツートップとなっています。
これらの信託報酬は0.05775%、0.09372%とかなり低くなっており、いずれも超低コストの投資信託といえます。
直近の運用利回りであるリターン(年率)は、どちらも非常に高くなっていますが、両者を比較するとSlim S&P500の方がオルカンよりも高くなっています。そして、リスク(年率)については、米国以外の国にも幅広く投資しているオルカンよりも、Slim S&P500の方がどの期間においても高くなっています。
最後に、リターンをリスクで割り算して計算する、リスク1単位当たりのリターンであるシャープレシオを確認すると、どの期間においてもSlim S&P500の方がよいという結果になっています。
この過去5年の結果を比較する限りは、Slim S&P500の方がよい結果となっていますが、どちらも非常によい結果であり、資産形成が目的ならどちらか一方に投資しておけば十分だったといえるのではないでしょうか。
そもそもMSCI ACWIとは?S&P500とは?
そもそもオルカンやSlim S&P500が具体的にどういった資産を対象として投資している投資信託なのか確認していきましょう。
まずオルカンのベンチマークとなっているMSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)ですが、これは米国MSCI社が公表している世界の先進国・新興国を対象とした株価指数で、47の国・地域の約2,800銘柄を時価総額で加重平均した指数となっています。
47の国・地域は次の表のようになっており、米国を含めて非常に幅広い国・地域を対象としていることが確認できます。
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスの対象国
もう一方のSlim S&P500のベンチマークであるS&P500はS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が公表している、米国のニューヨーク証券取引所などに上場している500銘柄を時価総額で加重平均した株価指数であり、対象は米国1カ国のみとなっています。
米国1カ国への集中投資となりますので、対象企業の国籍という意味では分散されていないことになります。
オルカンであっても、6割以上が米国株式!
オルカンは47の国・地域の株式が対象となっていますが、全ての国が均等に含まれているわけではありません。国ごとに企業の大きさ(時価総額)で上位約85%の企業を対象としており、時価総額の大きさに比例する形で国別の構成比率が決まってきます。
オルカンに含まれている47カ国のうち、日本が約5.5%、日本を除く先進国22カ国が約84.5%、新興国24カ国が約10%となっています。また、先進国22カ国のうち、米国1国のみで約63.8%です。
オール・カントリーおよびS&P500の対象国とその大きさのイメージ
一方、S&P500は、米国で企業の大きさ(時価総額)が大きい方から上位約80%を対象としていますので、オルカンが対象としている米国企業(上位約85%)よりも少し狭い範囲が対象となっています。
例えば、オルカンを100万円分購入すると約63.8万円は米国株式になり、Slim S&P500を100万円分購入するとそのまま100万円が米国株式になるというわけです。
ただし、S&P500は時価総額上位80%を対象としているため、オルカンよりも少しだけ、より大きな企業に偏っていることになります。
構成銘柄はよく知られた米国の大企業ばかり
最後に、オルカンおよびSlim S&P500の構成銘柄で組入比率の高い上位10社を確認してみましょう。
まずオルカンの構成銘柄上位10社ですが、次のように9位の台湾セミコンダクターを除くと、全て米国企業となっています。
オルカンの構成銘柄上位10社
マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾン、メタ・プラットフォームズA(Facebook、Instagramなど)、アルファベットA/C(グーグルの親会社)など私たち日本人にとっても身近な企業が多いのではないかと思います。
次にSlim S&P500の構成銘柄上位10社を確認すると、台湾セミコンダクターの代わりに、バークシャー・ハサウェイが入った以外は、同じ銘柄となっています。
Slim S&P500の構成銘柄上位10社
これら上位10社の比率の合計は、オルカンでは18.9%、Slim S&P500では31.6%となっていますので、Slim S&P500では特定の企業の割合が非常に高くなっていることが確認できます。
オルカンでは米国以外に46もの国・地域が含まれていますので、より幅広く分散されており、当然の結果といえます。
オール・カントリーとS&P500の両方に投資するべきか
ここまでオルカンとSlim S&P500を比較してきましたが、現在は全世界の6割以上を米国企業が占めていることもあり、実際の投資先は重複している部分が大きいといえます。冒頭で確認したパフォーマンスも同じような結果になっていましたが、ある意味、当然の結果といえるでしょう。
これらの点を踏まえると、オルカンとSlim S&P500の両方に投資する必要性は低いといえるでしょう。直近では米国株式のパフォーマンスは非常に好調ですが、今後20年、30年と長期的な資産形成の視点で考えると、そのまま米国株式の好調が続く保証はありません。むしろ現在の米国株式比率6割強が、さらに7割、8割と上昇していくとは考えづらい面もあるかと思います。
総合的に考えて、個人の資産形成が目的なら、より多くの国の株式に分散して投資できるオルカンの方がリスク管理という点を考慮すると適しているのではないでしょうか。
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