エヌビディアの決算
5月22日、エヌビディア(ティッカーシンボル:NVDA)が第1四半期(4月期)決算を発表しました。エヌビディアは「AIファクトリー」と呼ばれる新しいタイプのデータセンターのほとんどを駆動しているため、同社の決算を見れば現在のAI市場を俯瞰(ふかん)することができます。
EPS(1株当たり利益)は予想5.65ドルに対し結果6.12ドルでした。売上高は予想245.9億ドルに対し結果260.4億ドルでした。売上高成長率は前年同期比+262.1%でした。
データセンター売上高は前年同期比+427%の226億ドルでした。
第2四半期の売上高は予想266.2億ドルに対し新ガイダンス274.4から285.6億ドルが提示されました。
エヌビディアは6月7日付けで1対10の株式分割を行います。また分割後の四半期配当を10セントとします。
カンファレンスコールのハイライト
カンファレンスコールではアマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)、マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)、アルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)に代表される大手クラウド企業が引き続きAI向け投資を積極的に行っている関係で需要が供給より大幅に上回っていることが説明されました。
データセンター売上高のうち45%はそれら大手企業からの発注が占めています。そこでは既存のH200に加えて新製品ブラックウェルに対する引き合いが両方とも好調です。ブラックウェルはすでに量産体制に入っています。H200とブラックウェルはどちらも全然生産が追いついておらず2025年の半ばまでこのような状況が続くことも予想されます。
なぜクラウド業者がAI投資に積極的なのか?というソロバンですが、彼らがエヌビディアのGPUに1投資すれば、それをインスタント・ホスティングというカタチでトレーニングならびにインファレンスへの需要を抱える企業に貸し出すことで直ちに5の売上を向こう4年間で回収することができるからです。
今は投資すればすぐに新しい収益機会を創造できる関係で、タイム・ツー・トレーニングがとても重要な概念になっています。
エヌビディアのソフトウエア、クーダは世界のITエンジニアに選好されており、それが大事なエコシステムを形成しています。
もう少し細かく産業別の需要動向を見ると自動車向けソリューションがバーティカル(業種別)としては最大です。
消費者インターネット企業もメタ・プラットフォームズ(ティッカーシンボル:META)のラマ3に代表されるように積極的にエヌビディアの半導体を利用しています。
今大規模自然言語モデル(LLM)の複雑さがどんどん増しており、それに加えて消費者インターネット・サービス経由のクエリ、ユーザー数が今後増えれば消費者インターネット企業からの需要はさらに加速することが予想されます。
現時点でインファレンスがデータセンター売上高の40%を占めています。なおインフィニバンドは供給のタイミングの影響で前期比微減を記録したのですが、これは一過性で再び成長すると予想されます。
データセンター売上高の地域別で見ると米国だけでなく世界のデータセンターで需要が多く、日本、シンガポールなど国家プロジェクトとしてAIへの投資を進めている国もあります。
なお中国向けに出荷している半導体は米国政府の輸出規制に抵触しないやや旧世代のシリコンであり中国市場はもはや重要ではなくなりつつあります。
巨視的な展望
エヌビディアでは「AIは新しいコモディティだ」と捉えています。そこではトークンがAIサービスを提供している企業に新しい収益機会をもたらしています。AIはこれまでの、すでにある情報を探しにゆくモデルから、回答やスキルを生成するコンピューティングへのシフトを促します。
AIは質問の文脈や質問者の意図を理解し、それらに回答を出します。インファレンスするたびにAIはより正しい回答をするように賢くなります。それが単に情報を引き出すこれまでのコンピュータと根本的に違う点です。
産業レベルではソフトウエアを作るという発想からトークンを生成するという発想へのシフトが生まれています。それはデジタルインテリジェンスの製造にほかなりません。このトークンの生成こそがAIファクトリーの特徴であり、そのようなインフラストラクチャを整えるまでに数年を要すると思われます。
これらのことを総合すれば、AIブームはいまだ端緒についたばかりであり、しばらくは現在のような高水準の成長が続くと考えるのが順当だと思います。
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