米FRB幹部からタカ派発言相次ぎ、ドル高円安に
米労働省が先週15日に発表した4月のCPI(消費者物価指数)は、前年同月比で3.4%上昇し、伸び率は3カ月ぶりに縮小しました。前月比では0.3%上昇と市場予想を下回りました。
米商務省が同時に発表した4月の小売売上高は前月比で横ばいと予想を下回ったことから、ドルはCPI発表前の1ドル=155円台半ばから154円台後半に下落し、翌16日には153円台半ばへと円高が進みました。
しかし、その後、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)幹部から利下げ慎重姿勢の発言が相次いだことから、今週に入って1ドル=156円台の円安に戻しています。
4月の外国為替市場は、米国の雇用、CPI、消費(小売売上高)が予想を上回ったことを背景に米早期利下げ観測が後退した結果、円安が進みました。
5月は反対に雇用、CPI、消費(小売売上高)が予想を下回りましたが、円高の反応は一時的な動きにとどまっています。米4月CPIの結果によって米10年債利回りが4.3%台に下落しましたが、FRB幹部からの相次ぐタカ派発言によって、米10年債利回りが4.4%台に上昇した動きに合わせて、ドル安円高からドル高円安に動きました。
FRB幹部の相次ぐタカ派発言をみると、4月CPI発表前の5月ミシガン大学消費者信頼感指数(10日公表)の1年先の期待インフレ率やニューヨーク連邦準備銀行の4月消費者調査(13日公表)での1年先予想インフレ率が上昇していたことから、今後のFRBの政策を占う上では米4月CPIの結果だけではまだ不十分であるとの認識が多数を占めていることが推測されます。
米FOMC前回議事要旨のタカ派色が強かったら、円安進行も
22日は米半導体大手エヌビディア(NVDA)の決算発表を控えており、世界中の株式市場が注目していますが、注目材料はエヌビディアの決算発表だけではありません。
22日には、政策金利の据え置きを決めた前回FOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨(4月30日~5月1日開催分)も公表されます。為替市場にとってはこちらの方が影響が大きい材料になるかもしれないため注意する必要があります。
先月はCPI発表後、いや、FOMC直後からFRB幹部からタカ派発言が相次ぎ、市場の楽観的な利下げ観測に対してけん制するような発言が相次ぎました。そして、今月15日のCPI発表後は、タカ派色がさらに強まっている印象です。例えば、ボウマンFRB理事が17日に「インフレの進展が停滞すれば、追加利上げに踏み切る用意がある」とかなりタカ派の発言をしています。
その後もFRB幹部からタカ派発言が相次ぎましたが、総じて「インフレ率が目標の2%に戻っているとFRBが確信するにはしばらく時間がかかる」、「インフレ指標をあと数カ月確認する必要がある」との内容であり、今後の利下げに慎重な姿勢を示しています。ただ、年内の利下げを否定していることではないようです。
FRBの政策目的は「物価安定」と「最大雇用」の達成です。FRBは「物価安定」のため、インフレ率の目標を2%としています。「最大雇用」とは、いわゆる完全雇用の状況にあることです。これらの「二大責務」は「dual mandate」と呼ばれています。
「最大雇用」については、失業率がこの約2年は4.0%以下で推移していることから、FRBとしてはパンデミック後に急上昇したインフレ率を目標の2%に抑え込むことがより重要な政策目的となっています。
FRBは急上昇したインフレ率を抑えるために、2022年3月から利上げを実施し、政策金利を0.0~0.25%から5.25~5.50%に引き上げました。FRBがインフレ率で特に注目しているのがPCEコア価格指数(米国の消費者が消費した財やサービスのうち、エネルギーと食料品の価格を除いた物価指数)です。
PCEコアの上昇率は2022年に前年同月比で一時5%台まで上昇しましたが、最新の今年3月には2.8%まで下がっています。3月のFOMCで公表されたインフレ見通しでは2024年末2.6%となっていますので、ほぼ予想に近い水準まで下がってきています。
ただ、今年に入って上昇率の鈍化が足踏みする状況となっていることから、FRBのタカ派は物価目標が2%に戻るまでには時間がかかると繰り返し発言しているようです。FRBのパウエル議長もFOMC後、第1四半期はインフレに関してさらなる進展がみられなかったとして、インフレ鈍化には予想以上に時間がかかると発言を修正しています。
パウエル議長は前回のFOMC(4月30日~5月1日)後の記者会見で、利上げの可能性を否定し、総じて警戒されていたほどタカ派的ではありませんでした。しかし、その後、FRB幹部からは市場の利下げ期待をけん制するタカ派発言が相次ぎました。
前回のFOMCで実際、どのような議論がなされたのか22日発表のFOMC議事要旨に注目したいと思います。パウエル議長とは異なるタカ派意見が多かったのかどうか、もしタカ派色が強ければ、市場の早期利下げ期待は再び後ずれする可能性があるため、円安が進むかもしれません。
FRB幹部は利下げを9月とみる市場観測けん制、11月以降に遠のく可能性も
年内のFOMC開催は6月、7月、9月、11月、12月のあと5回となります。今年末の政策金利見通しは3月のFOMC時点で4.6%となっています。現在は5.25~5.50%ですので、0.25%刻みで年内3回の利下げを行えば、年末に4.6%に達する見通しです。
この3月時点ではFRBと市場が年内に見込む利下げ回数は3回で一致しており、市場には6月にも利下げを開始するのではないかとの期待がありました。
しかし、4月の指標を受けて、市場が見込む年内利下げ回数は1~2回に減り、利下げ開始時期も6月から7月か9月に後ずれしました。5月の指標公表を受けて、年内2回利下げとの見方となり、利下げ開始を7月とする見方は少なくなり、9月とする見方が増えました。
この9月に利下げとする市場の見方に対し、FRB幹部からはインフレが2%目標に近づくまで雇用や物価のデータを数カ月見る必要があると利下げに慎重な発言が相次ぎ、市場の楽観をけん制しているのが現在の状況です。
次回6月11~12日のFOMCでタカ派姿勢が続くのかどうか、同時に公表される金利見通しがどの程度、上方修正されるのか注目です。金利見通しが3月時点の4.6%から5.1%に上方修正されれば、FRBは年内あと1回の利上げを見通しているということになります。修正幅によって、タカ派度合いがどの程度かを推測することができます。利下げ開始は9月が遠のき、11月か12月ということになるかもしれません。
日銀の追加利上げと米利下げ重なれば円高も、当面は振れ幅大きい地合いに
このようにFRBは、目標の物価2%の軌道に戻ることを確認するまでは、現在の高水準の政策金利を当面維持し、利下げの時期を模索する局面にありますが、日本銀行は逆の局面にあります。
日銀の物価目標はFRBと同じ2%ですが、デフレから脱却して物価目標の2%を安定的に定着させるため、金融緩和を当面維持する姿勢です。賃金と物価の好循環を背景とした基調的な物価上昇率が2%に達する可能性が高まっていくか見極めた上で追加利上げを判断するとしています。
日銀は基調的な物価上昇率は2%に近づきつつあるとしていますが、市場では追加利上げは9月以降との見方が多いようです。FRBも9月の利下げとなれば、この時はドル安円高に大きく反応する可能性があります。
しかし、逆にいうと、そのタイミングまでは、FRBの高金利を背景としたドル高、日銀の低金利を背景とした円安が続くということになりそうです。
ただ、米国の雇用や物価の弱い指標が相次げば、FRBの利下げ時期が早まり、この構図が変わってくる可能性があります。また、日本の追加利上げ期待で長期金利が上昇してくれば、円安が抑制されることもあり得ます。円安地合いが続くとしても、これまでとは違って上下に振れやすい相場地合いになりそうです。
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