「円買い介入」後、緩やかにドル高円安に
外国為替相場は3日の米雇用統計公表後に、1ドル=151円台の円高となりましたが、その水準から15日現在、5円超の円安となっています。
しかし、4月26日(金)から、日本政府による為替介入があったとみられる29日([月]東京休場)までの18時間弱で5円の円安になった時とスピード感が全く違い、急激な変動ではないため、今の局面で「為替介入」は出づらいかもしれません。
しかも、イエレン米財務長官が「為替介入」の直後に介入へのけん制発言を行っているため、15日の米4月CPI(消費者物価指数)発表後、相当乱高下しないと介入の大義名分は立ちにくいかもしれません。
「介入」によって急速に円高に動きましたが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)高官から米雇用統計後にタカ派発言が相次ぎ、日米金利差が意識されるようになりました。再びドル高円安に動いています。
日銀総裁、円安けん制姿勢強めるも、為替相場は鈍い反応
その間、日本銀行の円安に対する姿勢に変化がみられましたが、市場の反応はかなり鈍い反応となっています。
日銀の植田和男総裁は5月8日の衆議院財務金融委員会で、「過去の局面と比べて為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」との見解を示しました。円安が物価上昇につながりやすくなっていることを示唆し、「最近の円安の動きを十分注視している」と強調しました。
また、為替の変動で「場合によっては基調的な物価上昇率が動くことになってくる」と述べ、そのような状況になれば「金融政策上の対応が必要になる」と語りました。
同じ8日、都内の講演会でも、急速に進む円安について「物価に影響を及ぼしやすくなっている」と指摘し、物価リスクが大きくなれば、「金利をより早めに調整していくことが適当だ」と述べ、政策対応を示唆しました。また、質疑応答で「急速かつ一方的な円安は日本経済にとってマイナスであり、望ましくない」と述べました。
植田総裁は4月26日の金融政策決定会合後の記者会見で「基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えていない」と繰り返し述べました。市場では円安容認と受け止められ、1ドル=160円突破のきっかけになりました。
5月8日の一連の発言は、円安容認と捉えられた4月26日の決定会合後の発言を修正したことになりますが、市場はあまり反応しませんでした。
また、日銀は13日、定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)で、償還までの期間が「5年超から10年以下」の国債の買い入れ予定額を4,250億円と、前回から500億円減額しました。このオペを受けて日本の10年債利回りは0.94%に上昇し、半年ぶりの高水準を付けました。
このように植田総裁が物価上昇に及ぼす円安影響に言及したことや、金融引き締めとなる国債購入額の減少があっても、為替相場は一時的な反応しかありませんでした。
8日の衆院財務金融委員会では、為替と物価を巡る日銀の考え方が「うまく市場に伝わるよう適切、丁寧な情報発信に努めたい」と付け加えましたが、これら日銀の行動や発言はややタイミングがずれたようです。
市場が期待する中で行動すれば、それなりの反応があったかもしれませんが、失望感からの修正は失った信頼のリカバリーとなり、かなり時間がかかりそうです。
今後、具体的な利上げが行われ、その後も追加利上げを期待させるような説明がない限り、その要因によって円高が持続するのは難しいかもしれません。6月13~14日の金融政策決定会合で一歩踏み込んだ金融政策の方向や発言がみられるかどうか注目です。
4月の米消費者物価指数、インフレ再燃か沈静か利下げ時期占う材料に
この数日は15日の米4月CPIの公表を控えているため、為替相場は1ドル=155円台~156円台で大きな動きとなっていません。今回、CPIの注目度が高まっているのは、今後の米インフレが再燃するか沈静化するか、方向性がかなりはっきりすると予想されるためです。
3月CPI(4月10日公表)は予想より上振れたため、利下げ期待が後退しましたが、FRBのパウエル議長がFOMC(連邦公開市場委員会[4月30日~5月1日])後の記者会見で、次の一手に利上げの可能性は低いと明言し、あまりタカ派的ではありませんでした。
さらに5月3日公表の米雇用統計が予想を下回り、平均時給も低下するなど弱い内容だったため、後ずれした利下げ時期がやや早まるとの見方が多くなりました。
しかし、その後FRB高官から利下げ慎重論が相次いだことや、5月ミシガン大学消費者信頼感指数(10日公表)の1年先期待インフレ率と、ニューヨーク連邦準備銀行の4月消費者調査(13日公表)の1年先予想インフレ率がともに上昇したことから、市場ではインフレ再燃が警戒されています。
15日の4月CPIの結果によって、インフレ再燃を確認する結果になれば、市場やパウエル議長もインフレの見方に修正を迫られる可能性があります。今後の米インフレの方向性がかなりはっきりするため、注目度が高まっています。
4月CPIの市場予想は前年同月比3.4%上昇(3月3.5%上昇)、エネルギーと食品を除いたコアCPIの予想は3.6%上昇(3月3.8%上昇)と、ともに3月より伸びが鈍化する予想となっています。
この予想通りであれば、インフレが沈静化に向かっているとの見方が強まりますが、一方で、上述したNY連銀の消費者調査の上昇の中で住宅価格や家賃が上昇した点は気になるところです。
また、家賃を除くコアサービス、いわゆる「スーパーコア」にも注目が集まっています。遅効性の強い家賃を除いたコアサービスは、労働集約的サービスに絞り込んだ指標であるためインフレ圧力を推し測るのに適しているとされ、FRBが重視する指標です。
1月は前月比0.85%上昇し、2月には0.47%上昇と急減速しましたが、3月に再び加速して0.65%上昇しました。自動車保険などの特殊要因があったといわれていますが、今月発表の4月雇用統計で平均時給が低下する中、3月の再加速を打ち消すような低下傾向を示すかどうか注目されています。CPI発表に際して、市場はかなり神経質になりそうです。
14日に発表された米4月PPI(生産者物価指数)は市場予想を上回りましたが、3月の指標が大幅に下方修正された影響だったことから、米金利の上昇とドル高は一時的でした。
パウエル氏は14日の講演で、「PPIは過熱気味とは言わないが強弱混在」と述べています。また、「第1四半期はインフレに関してさらなる進展が見られなかった。忍耐が必要であることが分かった。政策金利を引き続き高水準に維持する必要がある」と述べ、「インフレ低下の自信を得るまでにより時間がかかりそうだ」とも述べています。前回のFOMC時の発言と同じ内容であったため、目立った市場反応はありませんでした。
ただ、労働市場については、「非常に堅調だが、より良いバランスに戻りつつある」としながらも、「徐々に冷え込む兆しが見られる」とも語っています。
FRBの利下げ時期について、市場では9月とする見方が多いですが、この見方がCPI発表後に7月に前倒しになるかどうか焦点となります。また、年内の利下げは9月と12月の2回とする見方がありますが、4月CPIが予想より上振れた場合は、9月利下げが後倒しになり、年内は1回だけになるかもしれません。
家賃が低下傾向にあり、賃金が低下し、中東情勢の沈静化によって原油価格がWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で1バレル=80ドル前後で推移するのであれば、米インフレ率は2%目標に向かって低下していくかもしれません。
一方、4月のCPIがインフレ沈静化に時間がかかると思わせる内容であれば、金利高止まり期間も長引きそうです。この場合、ドル高円安はなかなか修正されないかもしれません。
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