令和6年1月より適用となった「マンション評価」
以前(令和5年8月)、本コラムにて『「タワマン節税」の封じ込め問題、改正案の内容は?』 という内容で、令和6年1月より適用となったいわゆる分譲マンションの評価方法について解説しました。
当時はまだ案の段階でしたが、その後正式に通達が発令され、実際に令和6年1月より適用が開始されています。
詳しくは下記の国税庁のパンフレットをご覧ください。
マンション評価には4つの要素が影響する
マンションの評価額の算定方法は次のようになっています。用語などかなり分かりにくいので、上記の国税庁発行のパンフレットなども参考にしてください。
まず評価乖離(かいり)率を求めます。
- 評価乖離率=A+B+C+D+3.220
A:マンションの築年数×▲0.033
B:マンションの総階数指数×0.239
C:マンションの一室が存在する階数×0.018
D:マンションの一室における敷地持分狭小度×▲1.195
(▲はマイナスの意味)
そして、1を評価乖離率で割った値である「評価水準」を求めます。
-
1を超える場合(評価乖離率が1を下回っている場合)
→評価乖離率がそのまま補正率
-
1以下0.6以上の場合(評価乖離率が1~約1.66の場合)
→補正なし
-
0.6未満の場合(評価乖離率が約1.66を超える場合)
→「評価乖離率×0.6」が補正率
という計算になります。
ですから、例えば評価水準が0.4(評価乖離率が2.5)と算定された場合は、補正率は2.5×0.6=1.5ですから、評価額は従来の1.5倍に増えることになります。
小規模宅地の特例等の減額要素は引き続き適用される
上記A~Dの要素から、次のようなことが言えます。
- 築年数が浅いほど、評価額は高くなる
- マンションそのものの階数が高いほど、評価額は高くなる
- 所有するマンションの一室の所在階が高いほど、評価額は高くなる
- 所有するマンションの一室の専有面積に比べ土地の面積が小さいほど、評価額は高くなる
なお、マンション評価にて評価額がアップした場合、アップした評価額に対して小規模宅地の特例が使えます。
例えば自宅として使用しているマンションの1室で、従来の評価額は土地5,000万円、建物3,000万円だったとします。
これが令和6年1月以降のマンション評価により、評価額が1.5倍になったとしましょう。その場合、「土地5,000万円×1.5倍=7,500万円」に対して小規模宅地の特例が使えます。
もともとは土地の評価額が「5,000万円×(100%-80%)=1,000万円」となるところが、「7,500万円×(100%-80%)=1,500万円」になり、土地については500万円の評価額アップで済みます。
もし小規模宅地の特例が使えない場合は、土地と建物合わせて4,000万円の増額となったところ、小規模宅地の特例が適用されれば、土地・建物合わせて2,000万円の増額で抑えることができます。
ご自宅がマンションの方は影響を調べてみよう
筆者が現在手掛けている相続税申告案件で、相続開始が令和6年に入ってからのものにつき、所有されていたマンションの評価を行ってみました。
3件のうち、敷地持分が比較的大きいものの築年数が比較的浅い物件は評価額がおよそ7%アップしましたが、築年数が50年を超えている残りの2件については評価水準が0.6と1の間に収まったため、評価額は従前通りで増額はありませんでした。
これらの物件はタワーマンションではないので、比較的評価水準が高くなりましたが、築浅のタワーマンションで、かつ高層階ということになれば、評価水準がかなり低くなり、評価額は従前の2倍以上になるケースもあるでしょう。
国税庁のサイトに、マンション評価が簡単にできるエクセルシートがあります。あとはマンションの登記簿謄本がお手元にあれば計算できるようになっていますので、ぜひご自身がお持ちのマンションの評価額がどれくらい変化するかを確認してみてください。
居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書(国税庁サイト)
実質増税の「マンション評価」への対策はあるのか?
そもそも「マンション評価」は、過度な節税を行う富裕層に対して歯止めをかけることが目的でしたが、その結果、節税を意図せず、単に自宅などとして分譲マンションを所有している人たちまで影響が及んでしまっているのが実態です。
ただ、正直申し上げて、この「マンション評価」による実質的増税への影響を何らかの対策で回避することは難しいです。
マンションについてはもともと他の財産に比べて著しく時価より低い評価額に抑えられていることが問題なのであって、確かに方向性は増税なのですが、低すぎる評価額を適正水準に近づけただけ、というのが本当のところです。
このマンション評価により、マンションは時価と同レベルの評価額になったかといえば決してそんなことはなく、戸建て住宅の評価額(時価の60%程度とされています)程度の減額は許容されているのです。
探してみれば、今回のマンション評価のルールにより、逆に従来よりも評価額が下がる物件や、ゼロ評価となる物件もあるでしょう。
しかしそうしたケースについては、総則6項の発動(時価より著しく低い評価額のものは時価で評価する)により、時価評価を強いられることになり、過度な節税効果は認められないと思っていた方がよいでしょう。
令和6年からは、相続財産に加算される相続人への生前贈与の期間が3年から7年へ伸長されるなど、増税方向の動きが目立ちますし、今後も同様の流れになるでしょう。
私たち納税者は、もちろん余計な税金を支払わないような対策はすべきでしょうが、過度な節税に走った場合、それが認められずペナルティーを受ける可能性がますます高まっている、と意識しておいた方がよさそうです。
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