先週、日米韓財務相会合で円安懸念を確認、中東緊迫化で一時円高も
先週の外国為替市場のドル相場は、米3月小売売上高(前月比0.7%増)が市場予想を上回ったことによって1ドル=154円台へ押し上げられました。さらに米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が16日、物価上昇率が2%に戻る確信を得るには「予想以上に時間がかかりそうだ」と発言。米利下げ観測が後退し、1ドル=154円台後半まで円安が進みました。
この154円台の動きの中で円高に動く場面もありました。その背景には以下の2点があります。
- 17日、日米韓の初となる財務相会合が米ワシントンで開催され、「最近の円安、ウォン安への日韓の深刻な懸念を認識し、外国為替市場の動向について引き続き緊密に協議する」との文言を盛り込んだ共同声明が発表されました。この声明文を受けて、介入警戒感が強まり、ドル相場は1ドル=154円台後半から154円台前半へと円高に動きました。
- イスラエルによるイランへの「報復の報復」が懸念されていましたが、イスラエルが19日、イランを攻撃しました。この報道を受けて、1ドル=154円台半ばから153円台半ばに円高が進みましたが、攻撃が限定的との見方が広がり、その日の内に154円台半ばに戻りました。
この二つの円高要因がありましたが、ドル円に与える影響は限定的でした。
鈴木財務相、為替介入問われ「適切な対応につながる環境整った」、1ドル=155円突破なら介入想定も!
日米韓財務相会議の後、同じ17日に開催された日米欧の先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では「為替レートの過度な変動や無秩序な動きは、経済や金融の安定に悪影響を与える」との従来合意を再確認する共同声明が採択されました。
また、17~18日に開催された20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議では、一部の国からドル高進行により新興国の債務増大を懸念する声が上がりましたが、為替について議論はありませんでした。
このように日米韓財務相会議で円安・ウォン安懸念は共有されましたが、G7やG20ではドル高について一歩踏み込まなかったことが、円高の動きを限定的にしたのかもしれません。
しかし、財務省で通貨政策の実務を取り仕切る神田真人財務官はG7後の記者会見で、「為替を含む過去のG7における政策対応に関するコミットメントが再確認された」ことが「肝」だと説明しています。また、米国を巻き込んで円安・ウォン安懸念が共有された意味は大きいと思われます。G7やG20だと利害関係者が多いため、調整が難しい議題も3カ国間では調整がつきやすいかもしれません。
鈴木俊一財務相は一連の国際会議から帰国後の23日、参議院財政金融委員会で、為替介入を容認する暗黙の了解があるのではないかとする立憲民主党の勝部賢志氏の質問に対し、「この先の『適切な対応』につながる環境が整ったのかということについては、そう捉えられてもいい」と答弁しています。鈴木財務相は「適切な対応」の内容への詳細な言及を避けましたが、かなり重要な発言だと思われます。
この鈴木財務相の答弁や神田財務官の発言から、円安の状況や為替介入についてワシントンでかなり議論され、理解を得られたと認識し、1ドル=155円を超えてくると、介入が実施されるとのシナリオを準備しておいた方がよさそうです。2022年10月の介入のように「大規模」、「連続」、「覆面」介入のようにしつこい介入も予想されます。
日銀、円安で物価見通し上方修正か、今後の利上げ含む総裁発言あれば円高も
また、日本銀行の植田和男総裁は19日、G20後の記者会見で円安による輸入物価の上昇が基調的な物価上昇率に影響を与える可能性に言及し、「無視できない大きさの影響になれば金融政策の変更もあり得る」と述べました。市場はあまり反応しませんでしたが、かなり踏み込んだ発言のため今後注目したいと思います。
今週25~26日の日銀金融政策決定会合で円安の影響が議論されるとの見方が浮上してきています。また、今回公表される展望リポート(経済・物価情勢の展望)の物価見通しが上方修正されるとの見方もあります。
今回の会合で追加利上げが決定される可能性はかなり低いと思われます。ただ、会合後の総裁会見で、円安によって輸入物価の上昇による影響が大きければ、今後の追加利上げにつながるとの認識が同じように示されると、物価上方修正と相まって円高に反応することも予想されるため注目したいと思います。
中東情勢については、イスラエルもイランも抑制的な動きをしていることから、中東リスクは後退していますが消えたわけではありません。直接的な戦火拡大は回避されても、ヒズボラやフーシ派などを支援する代理戦争が活発になることも予想されるため、今後も中東情勢は警戒する必要があります。
米物価指標やGDPが市場予想上回る場合、一段のドル高にも注意
ドル相場は為替介入への警戒感や、中東情勢によって1ドル=155円手前で足踏みしていますが、米国の金融政策のタカ派姿勢が4月30日~5月1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で確認されるとドル高円安地合いが続くことが予想されます。
FRB高官からすでに利下げ慎重発言が相次いでいることに加え、これまでハト派だったパウエル議長も利下げ時期の確認までに「時間がかかる」と方針を変えていることから、今回のFOMCで利下げ慎重姿勢が確認されてもサプライズ(驚き)ではなく、市場の反応も緩やかな動きになるかもしれません。
FRBの一翼を担うニューヨーク連邦準備銀行のウイリアムズ総裁が18日に、「経済指標で目標達成に利上げが必要と示されれば、当然そうしたい」と今後の利上げの可能性も否定できないとの認識を示しました。
FOMC全体ではそこまでタカ派にはならないだろうと思います。しかし、FOMCの直前に発表される4月26日の米国3月PCEコア・デフレーター(市場予想は前年同月比2.7%上昇、2月実績は2.8%上昇)が強めに出た場合は、もう一段のドル高になる可能性があるため注意する必要があります。
また、その前日25日に発表される米国1-3月期実質GDP(国内総生産)にも注目です。予想は前期比年率換算で2.5%増ですが、前期の3.4%増からは伸びは減速するものの、予想を上回ると利下げ期待を後退させる可能性があるため注目です。市場予想の2.5%増でも、3月のFOMCで示された2024年末のGDP見通し2.1%増を上回る数字となります。
投機筋円売りポジション17年ぶり高水準、GW中の流動性低下で円高反転の可能性
CFTC(米商品先物取引委員会)が発表した4月16日時点のIMM通貨先物の円売りネットポジションは、16万5,619枚(x1,250万円=約2兆円)となっています。IMMの通貨ポジションは投機筋の動向を見る上で参考になります。
現在の水準は、2007年6月26日以来(18万8,077枚)17年ぶりの高水準となっています。日本では4月末からゴールデンウイーク(GW)連休を控えていることから、流動性が低下することが懸念され、日銀会合や介入をきっかけに円売りポジションを閉めてくる(円高要因)のかどうか注目です。GWの連休時は、流動性が低下するだけでなく、値動きも荒くなりやすいため注意する必要があります。
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