これまでのあらすじ
信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。毎週金曜夜にマネー会議をすることになった二人。FPにリアルな老後の収支計算をしてもらった二人は、現実的な老後の生活をイメージし、一安心する…。
「これでだいぶ片付いたわね」
すっきりとモノが減った室内で信一郎の母は大きく腕を伸ばして伸びをした。
「アップライトピアノ、いい値段になりましたね」
「買い取り業者を相見積もりして、一番高く買ってくれるところを探してくれた理香さんのおかげよ。処分にお金がかかるものもあったけど、ブランド食器も高く売れたし、プラス5万円てとこかしら」
「これでみんなで、焼肉にでも行こう」
無垢材の将棋盤が高値で売れ、驚いていた信一郎の父がニコニコと言う。
「シンちゃんのマンガはほとんど値段がつかなかったわね」
「あれは古いし、紙も黄ばんでたからな」
また読みたくなったら電子版をタブレットで読むよ、と信一郎はあきらめ顔で、何もなくなった自分の部屋を見まわした。
「家って、家族の入れ物だから、家族が増えたり減ったりしたら必要な大きさも変わってくるんだな…」
「そうね。私たちも考えて家を選ばないと…」
理香と信一郎はしみじみと言い合い、2階の雑巾がけにいそしんだ。
「家が片付いたのはいいけど、2階がほんとに無駄だよね。母さんたち、この後、どうするの?」
焼肉屋に場所を移し、信一郎は母親に問いかける。
「二人で暮らすには大きすぎる家なんだよな。庭の手入れも大変だし…」
信一郎の父も考え深く言う。
「移住するかもって言ってたけど、どれくらいの本気度なの?」
「言ってはみたけど、実現するかどうかは未知数だよ。いきなり住環境が変わるのもよくないし。売るならどれくらいの値段になるのか、しっかり調べないと」
まだすぐには動かないけれど、数年内には色々決めないとな。
信一郎の父は言い、母もうなずいた。
「そういえば、あなたたち、FPに家計診断を受けたんですって?」
「はい、そうなんです。自分たちの老後のことも、もう考え始めないといけない時期なんだなって思って」
理香が答える。
「母さんたちもFPに相談とかしてるの?」
「僕の古い友人が、資産形成や老後の資産運用なんかのアドバイスをする[ファイナンシャルアドバイザー]っていう仕事をしていて、役職定年が近づいてきた頃に、母さんといっしょに相談に行ったんだよ」
そんな職業があるのか、と信一郎は驚いた。
「僕たちの資産はすべて彼が把握しているから、もし万一のことがあったら彼と話すといい」
「万一なんて…」
「いや、僕たちも、自分の持ち時間が減ってきている年代だ。明日、何が起こっても不思議じゃない」
親の状況を全く知らないままだと、死後に子供が大変な苦労をすることになる。ちゃんと情報は共有しておくから、今度の面談のときに信一郎たちも同席しなさい。
信一郎の父は真剣な顔で言い、焼肉をぱくりと口に放り込んだ。
▼「終活」をする・したい理由
「もはやデフレではない」
日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新し、4万円を超えました。ちまたではオールカントリーやS&P500種指数を対象とした投資信託への投資が大流行りですが、日経平均も、この10年で3倍になっています。
つまり、日本はついに、失われたデフレの30年からインフレで成長軌道を取り戻した日本に変わってきたということです。これまでは円高で日本から中国に移っていった工場が、米中対立、円安によって日本に巨大半導体の工場が建設され、インバウンド旅行者が殺到しています。
こうした環境の中で、私たちに必要なのはまずはマインドセットです。これまでのようにデフレマインドのまま、預貯金に頼りっぱなしで停滞するのではなく、投資に向けたマインドの切り替えを行うべき時がきたのではないでしょうか。
投資、特に株式投資に資金を投入することによってその恩恵を受けて、増えた資産を預金に戻すのではなく、楽しい思い出づくりに費やしてください。また信一郎の両親のようにコンパクトシティに移住するという選択肢もあり、自宅を売却した資金を運用すれば、さらに豊かな老後を送れるでしょう。
10年前にアメリカ視察でシアトルに行ったときに、シアトルに長年住んでいる60歳代の日本人女性に街で声をかけられました。
「あなたたち、日本人よね、何の仕事しているの?
「私たちは、ファイナンシャルアドバイザーで、視察に来ています」
「そうなの! 私もこっちで暮らして長いけど、アドバイザーを通じて投資をしているから旅行などにお金を使っても全然減らないのよ! いい仕事ね、がんばってね!」
こんな会話がこれから日本でもあちこちで聞かれるようになることを願っています。
皆さんは「ハピネスカーブ」という言葉をご存じですか? 人の幸福度がU字曲線を描くという現象のことです。つまり、0歳と100歳が幸福度のピークで50歳がボトムというカーブです。
幸福度が落ちてしまう一番の理由はストレスです。ボトムである50歳以降は、ぜひ、自分を人と比べてハイリスク投資をしたり、身の丈に合わない生活を求めたり、逆に節約にきゅうきゅうとすることなく、ぜひこれまで精いっぱい生きてきた今の自分を、自信を持って、ありのままに受け入れていきましょう。
そうすれば日々、目の前の喜びを見つけて、それを楽しみ、人生の幸福度を上げていくことができるはずです。
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