日銀マイナス金利解除後の追加利上げ急がない姿勢で円売りに

 日本銀行が先週18~19日に開いた金融政策決定会合では、マイナス金利の解除を決定しました(政策金利マイナス0.1%→0~0.1%)。政策金利の引き上げは17年ぶりとなります。YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の撤廃も決めました。

 日銀の植田和男総裁は会合後の記者会見で、2013年から続いた大規模緩和について「役割を果たした」と意義を認めた上で、「異次元の手段は必要なくなった」と指摘しました。

 そして今後の利上げ見通しについて、「現在手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられるとみている」との認識を示しました。金融正常化に踏み出したものの、「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とも述べ、追加利上げを急がない姿勢を強調しました。

 ただ、決定に関わった9人の政策委員のうち2人が反対したことや長期国債の買い入れ継続、植田総裁が会見でハト派姿勢を示したことから、外国為替市場では、当面は金融緩和環境が継続されるとの期待が高まって円売り優勢となり、1ドル=149円台前半から150円台後半に円安が進みました。

米FRB「年内3回利下げ」維持も、金利見通し引き上げでドル堅調に

 一方、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が19~20日にFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、5会合連続で政策金利据え置き(政策金利5.25~5.50%)を決定しました。

 また、FOMC参加者による金利見通しでは、今年3回の利下げ予想が前回昨年12月時点から維持されました。市場では発表前は年内利下げ回数が減る可能性に警戒感がありましたが、発表後は安心感が広がり、金利低下、株高、ドル安に反応しました。

 また、FRBのパウエル議長は1月、2月のCPI(消費者物価指数)の上振れは季節的要因であり、インフレ率は目標の2%に向けて徐々に低下していると説明。過度な警戒は不要との見方を示し、年内の利下げは適切だとする姿勢は変わりませんでした。

 一方、金利・経済見通しでは、2024年10-12月期GDP(国内総生産)成長率を2.1%と見込み、前回(昨年12月時点)の1.4%から大幅に上方修正しました。物価(PCE)も2.4%から2.6%に引き上げました。

 また、金利見通しも2025年(3.6→3.9%)、2026年(2.9→3.1%)とそれぞれ引き上げ、長期金利見通し(2.5→2.6%)も上げたことから、高い金利環境が長引くとの見方からドルは堅調地合いとなっています。

 日米の金融政策を総括すると、日銀の決定は17年ぶりの利上げというタカ派的な内容でしたが、今後も金融緩和を継続するというハト派的な姿勢を維持しました。

 一方、米FRBは年内3回の利下げ見通しを維持し、保有資産の量的縮小(QT)のペースを早期に緩めることが適切になるなどハト派姿勢をにじませていますが、まだ政策転換の途上であり、政策は引き締め的であり金融緩和ではないという姿勢を維持しました。

 日銀の利上げとFRBの利下げ見通し維持は、教科書的には円高ドル安要因になるのですが、円高やドル安が続かなかったのは、この日銀のタカ的ハト派、FRBのハト的タカ派の様相が円売りドル買いに安心感を与えたようです。

 また、スイス中央銀行は21日、想定より速いペースのインフレ鈍化を受けて予想外の利下げを決定しました。スイス中銀を筆頭にBOE(英国中央銀行)やRBA(オーストラリア準備銀行)などもハト的になっており、ECB(欧州中央銀行)の利下げも時間の問題との見方が大勢となってきています。

 そのため米国よりも英欧などの方が早く利下げ局面になるのではないかとの見方もドル買いに安心感を与えているのかもしれません。こうした安心感から、為替相場は1ドル=151円台で推移しています。

円買いの為替介入は今の日米金融環境では効果が薄い

 ただ、この円安地合いを受けて、日本の為替政策の実務を取り仕切る財務省の神田真人財務官による口先介入のトーンは一段と上がりました。

 神田財務官は25日、「投機による過度な変動は容認することはできない。行き過ぎた変動に対してはあらゆる手段を排除せずに適切な行動をとる。準備はできている」と述べ、円安をけん制しました。

 神田財務官が現在の円安進行は「投機的」と指摘し、「あらゆる手段の準備はできている」と強い姿勢でけん制したため、円安は1ドル=151円台で足踏みしていますが、口先介入だけでは円高への方向転換は難しそうです。

 実際、27日の東京外国為替市場では、一昨年10月に付けた1ドル=151円94銭よりも円安が進み、一時151円97銭を付け、33年8カ月ぶりの円安水準となりました。

 今後、介入の実弾が出ても、日米の金融環境が変わらない限り、根強い円売り意欲は続きそうです。

日銀追加利上げ・米利下げ転換が後ろ倒しの場合、円安長期化も

 一方、日銀の3月会合後に、7月、10月会合での利上げ観測が報じられましたが、この観測記事のように日銀の年内追加利上げが実現し、米国の利下げが見通し通り年内3回実施となる局面になれば円高に反転するかもしれません。

 しかし、日銀の追加利上げ実現には時間がかかるかもしれません。

 日本の景気は、2023年10-12月期の実質GDP成長率が年率換算でマイナス0.4%からプラス0.4%に改定され、2四半期連続のマイナス成長は回避されました。しかし、伸びは鈍い状況となっています。2024年1-3月期GDP見通しはマイナス成長の予想も出ており、景気に力強さはありません。

 2月の消費者物価指数も、政府の補助金による電気・ガス代の押し下げ効果が一巡したため、生鮮食品を除く総合指数は前年同月比2.8%上昇と、前月から0.8ポイント上昇しました。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇と前月の3.5%上昇から伸びが鈍化しており、上昇率縮小は6カ月連続です。

 日本の景気が低迷している限り、金融緩和環境は長引く可能性があります。また、17年ぶりの利上げの背景となった賃金と物価の好循環も、賃金上昇が中小企業にどの程度波及していくのか、また、この循環は来年度も続くのかどうか確認されるまでは日銀は追加利上げに慎重になるかもしれません。

 一方、米経済は軟着陸に向かい、堅調に進んでいる状況です。この環境が続けば、利下げ時期が後ろ倒しになる可能性が高まり、年内の利下げ回数が減ることも予想されます。日銀の金融緩和が長引き、追加利上げが後ろ倒しとなることに加え、FRBの利下げも後ろ倒しになれば、円安地合いが長引くシナリオが想定されます。

 このように日銀の追加利上げに時間がかかるとすれば、円は米国要因に左右されそうです。しかし、その米国にも注意が必要です。パウエル議長はハト派姿勢を明確に出し、利下げは適切と述べていますが、好調な米経済とインフレ高止まりの見通しと年内3回の利下げの整合性がどのように展開するのかが注目されます。今後の経済指標で明らかになってくると思われますが、相場の波乱材料になることにも留意する必要があります。