先週の日本株は、日本の中央銀行・日本銀行が今週3月18日(月)~19日(火)に開く金融政策決定会合でマイナス金利の解除決定が確実視される情勢となり、大きく下落しました。

 東京株式市場の日経平均株価(225種)の下げ幅は12日(火)に一時前週末比1,417円に達し、15日(金)の終値は前週末比981円安の3万8,707円まで下がりました。

 15日の米国株は米金利上昇で下落した一方、外国為替市場の円相場は円相場は1ドル=149円台の円安水準となりました。

 週明け18日(月)の日経平均午前終値は円安を受けて、前週末比1032円高の3万9,740円と大幅に反発しました。半導体関連や自動車株などの銘柄が買われました。

 ただ、19日(火)の日銀会合終了後には相場が急変動する可能性も残されています。

 日本経済新聞の報道によると、日銀の会合では現在の短期金利マイナス0.1%を0%~プラス0.1%に引き上げる案が有力とされており、日銀が利上げをすれば2007年以来17年ぶりとなります。ただ、今後、矢継ぎ早に金利の追加引き上げをする可能性は今のところ低いとみる市場関係者が多くいるのも確かです。

 そう考えると、日銀のマイナス金利解除観測は、単に日本株がいったん下落して調整する「口実」に使われただけで、19日の日銀会合終了で「悪材料出尽くし」となり、反転上昇に転じる可能性もあるでしょう。

 どちらに転ぶかは19日の会合終了後に記者会見する日銀の植田和男総裁が、マイナス金利解除後の追加の金融引き締めについてどのような見解を示すか次第です。

 日銀会合では、短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つYCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利操作)政策を撤廃し、長期国債の買い入れ金額を示して、長期金利が急上昇するのをけん制する新たな量的緩和策が導入される観測も流れています。

 ただ、それ以上に心配なのは翌20日(水)夜に終了する米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)です。

 今回のFOMCでは、参加理事らが今後の政策金利の水準を予想した最新の分布図(ドットチャート)が発表されます。

 昨年12月13日に示されたドットチャートでは、2024年中に0.25%の利下げを合計3回行う見通しが示されました。

 しかし、先週発表された米国の2月の物価指標は予想以上の伸びで高止まりしており、高金利政策が長引くことを嫌った米国株は総じて下落。

 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数の15日(金)終値は前週比0.13%安と2週連続の小幅下落でした。

 今週20日(水)発表のFOMCドットチャートで2024年の利下げ予想回数が3回から2回、1回と少なくなるようなら、日米の株価が急落してもおかしくありません。

 ただ、11月5日に迫った米国大統領選挙を前に、共和党候補の指名が確実となったトランプ前大統領も、バイデン現大統領率いる民主党も、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の高金利政策に批判的です。

 今回のFOMCでも米国の国内政治に配慮した利下げ容認のハト派姿勢が強調される可能性もあります。

 いずれにせよ、今週の株式市場が、19日(火)から20日(水)にかけて相次いで発表される日米中央銀行の金融政策の変更に大きな影響を受けるのは間違いありません。

先週:半導体株の調整下落が日本株急落を主導!電力、石油関連など円高メリット株は上昇

 先週、日本では13日(水)の春闘集中回答日に企業サイドから労働組合が要求した通りの満額回答が相次ぎ、連合(日本労働組合総連合会)が15日(金)に発表した第一回の解答集計で賃上げ率の加重平均が5.28%と33年ぶりの高水準であることが判明しました。

 12日(火)、13日(水)には植田総裁が国会で答弁。2%の物価目標の実現が見通せれば、マイナス金利、YCC政策の枠組み修正を検討するという従来通りの発言を繰り返しました。

 一方、米国では12日(火)に2月CPI(消費者物価指数)が発表され、ガソリンや住居費の上昇で前年同月比3.2%の伸びと市場予想を0.1%上回りました。

 さらに、14日(木)発表の2月PPI(卸売物価指数)は前月比で0.6%の上昇と予想の2倍に達する大幅な伸びとなり、前年同月比でも1.6%増と市場予想の1.2%増を大きく上回りました。

 物価の高止まりでFRBが利下げに慎重になるという見方が広がり、米国の長期金利の指標である10年国債の金利は4.3%台まで急上昇。

 株価が割高で高金利に弱いハイテク株主体のナスダック総合指数は15日(金)、前週末比0.7%下落しました。

 AI(人工知能)相場の主力株である米高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)は0.35%高と辛うじてプラス圏で終了しましたが、米国半導体株の下落は日本にも波及。

 東京株式市場では、日経平均の採用銘柄で34年ぶりの史上最高値更新に大貢献してきた国内半導体製造装置メーカー最大手の東京エレクトロン(8035)は7.7%安、半導体検査装置のアドバンテスト(6857)は7.1%安となるなど、半導体関連株の下落が日経平均の下げを主導しました。

 一方、日銀のマイナス金利解除観測で一時1ドル=146円台まで円高が進んだこともあり、先週は原料の原油・天然ガスやパルプなどを海外から輸入している石油・石炭製品、電気・ガス、パルプ・紙セクターが業種別上昇率ランキング上位に入りました。

 新潟県柏崎刈羽原発の再稼働に関して国際原子力機関からお墨付きを得た東京電力ホールディングス(9501)が19.8%も急騰。

 ウクライナによるロシア製油所のドローン攻撃で原油価格が上昇し、原油備蓄の評価額上昇が期待される原油元売り大手のコスモエネルギーホールディングス(5021)は6.8%高でした。

今週:日銀マイナス金利解除で悪材料出尽くし!?FOMCも無事通過なら上昇相場復活!?

 今週の株式市場は、すでに触れたように19日(火)の日銀金融政策決定会合、20日(水)の米国のFOMCの決定内容に振り回されそうです。

 米国では、19日(火)に高金利のために住宅購入を諦めざるをえない国民の不満が高まっている住宅関連指標の2月住宅着工件数、21日(木)に2月中古住宅販売件数や3月のフィラデルフィア連邦準備銀行製造業景気指数が発表されます。

 22日(金)朝には日本の2月CPIも発表。前年2023年の物価抑制策の反動で、生鮮食品を除く2月のコアCPIは前年同月比2.8%の上昇が見込まれていますが、すでに日銀会合を通過しているため、株価にあまり影響はなさそうです。

 2024年の株価上昇をけん引してきたのは、エヌビディアに代表される半導体株でしたが、先週の日本市場では東京エレクトロンなど主力の半導体製造装置メーカーの株価が急落しました。

 ただ株価の値動きを記した長期チャートを見てもらえば分かるように、半導体株はこれまであまりにも急上昇し過ぎていました。

 もしAI熱狂相場が天井を打ったとしたら、先週の下げだけで半導体株の調整が終わるようには思えません。単純にAIバブルが小休止しただけでも、急上昇し過ぎた分、まだまだ下落余地がありそうです。

 そう考えると、今後、日本株がさらに上昇し続けるためには、AI関連株以外の新たなテーマや材料、人気株が生まれる必要があるかもしれません。

 株式市場では、4万円の大台を一時突破した日経平均に続いて、次は重厚長大産業や内需株の影響力が強いTOPIX(東証株価指数)の史上最高値更新が大きな目標になっています。

 そのTOPIXが15日(金)終値の2,670.80ポイントから約8%上昇して、1989年12月につけた史上最高値2,884.80ポイントを超えるには、やはり33年ぶりの賃上げ率5%台乗せや金利正常化などの恩恵を受ける内需株の上昇が必要でしょう。

 ただ、先週は本来なら金利正常化が収益増に貢献するはずの銀行セクターも、主力の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の15日の株価が前週末比7.8%安となるなど、早くも好材料出尽くしと思われる売りにさらされています。

 3月末にかけては、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が上昇した日本株式の比率を運用方針である総資産の4分の1に圧縮するためのリバランス売りが見込まれるなど、機関投資家の「益出し売り」で相場が停滞する可能性もあります。

 先週は中堅証券会社の極東証券(8706)が純利益から株主に還元する比率を示した配当性向を50%から70%に引き上げ、今期2024年3月期の増配を発表したことで株価が53.6%も上昇。

 やはり、大幅な増配や大規模な自社株買いなど、積極的な株主還元策の発表が日本株のさらなる上昇ドライブになりそうです。

 そう考えると、高い財務力と安定した収益力を持ち、株価が自社の解散価値に比べて割安な低PBR(株価純資産倍率)銘柄が今後、相場のけん引役になるかもしれません。